【315】 大賢者の能力半減スキル Side:ガラテイア
【帝国レッドムーン領:クァンタム高原】
セイバードラゴンに乗り、帰還を果たした私は父の元へ駆けつけた。
父ネーレウスは高原から帝国レッドムーンを見据えているようだった。
「よく戻った、ガラテイアよ」
「父上。私はその……闘技場で……」
「うむ。見ていた。お前は立派に戦ったぞ」
「――いえ、そのようなことは。海底監獄イグノラムスへの侵入も果たせず、シャロウのメンバーも引き入れられておりませぬ」
パラレログラムは陥落したものの、帝国レッドムーンは未だに健在だ。あの場所へ入ると、自身の能力が半分も落ちると判明した。
おそらく、賢者か誰かの仕業だ。
帝国でヤークト公爵の爵位を持ち合わせていた父上なら、詳しいことを知っているかもしれない。
「やはり、大賢者パラディ・アプレミディ卿の力だろうな」
「……! 大賢者が帝国を守っているのですね」
「そうだ。ヤツの力は侮れん。我らを弱体化するなど造作もないのだろう」
「……それで私の力が半減して……」
「パラレログラムのようにはいかん。心してかかれ」
「わかりました。父上」
父上は、月と太陽の聖典を取り出してページをパラパラとめくる。一瞬だが、エルフの言語が書かれているようにも見えた。
……古代エルフ語だろうか。
そういえば、聞いたことがある。
遥か昔には『聖書』と呼ばれる書物があったのだとか。もしや、あの聖典がそうなのかもしれない。
莫大な力を持ち、あらゆる奇跡を起こすと聞いたことがあった。
「この聖典の力を発揮できればよいのだがな」
「できないのですか?」
「……残念ながら、古代エルフ語を読めなければならない。だから、シャロウのコレリックが必要だったのだ」
そうだったんだ。だから、コリレックに執着していたんだ。
私は半端者でエルフ語が読めないから……。
「では、今度こそコレリックを……」
「そうだな。三日後に帝国の破壊を考えていたが、現状では厳しい。コレリックを連れてくるのだ」
「わかりました。父上の為に私が必ず」
「期待しているぞ、ガラテイア。お前は我が娘にして“特別”だからな」
……嬉しい。父からそう言ってもらえるだけで、私はがんばれる。
私の拠り所は父上だけ。
家族だけが頼り。
だから、父上の命令には必ず従うし、死ねと言われれば死ねる。
命令は絶対だ。
「では、行って参ります」
「気を付けていってくるのだぞ」
「はい」
私は、再びセイバードラゴンの背に乗った。
今度こそ失敗しない。
もう失敗は許されない。
コレリックを奪い、聖典を呼び起こし……帝国レッドムーンを徹底的に破壊する。そして、父の願いが成就する。私も幸せになる。
だから、絶対に負けない。負けるわけにはいかない。
なにもかも奪った世界を全て破壊し尽すために。




