【291】 聖典の守護能力
光が晴れ、また闇が訪れる。
ヤークト公爵はズタボロになって地面に倒れていた。あれだけの総攻撃を受けたのだ。恐らく意識はないだろう。
「公爵、お前を捕まえる」
白目を剥き、泡を吹く公爵の腕を掴もうとするが――突然、赤と青の光を稲妻のように放つ。な……なんだこりゃ!?
「海人様、離れて……!」
「んぉ!? ルナ……」
背後からルナが現れ、俺を引っ張る。どうやらあの光について何か知っているようだな。
「あれは【月と太陽の聖典】です。なぜ公爵が持っているのでしょう……」
月と太陽の聖典?
それ、どこかで聞き覚えがあるような。どこだ……俺はどこでその聖典を耳にした? くそっ、思い出せない。
「とにかく離れた方が良さそうだな」
「ええ、効果の発動条件は分かりません。でも、聖典は持ち主を『守護』する力を持つとかなんとか」
「ま、まさか……」
公爵の体が異常な速度で回復していく。オートヒール効果だと……馬鹿な、そんな高性能な効果があるというのか、あの『聖典』に!
なんとかして止めようとしたが、聖典の力が公爵を守り――彼の姿を消した。
「……き、消えましたぞ」
地属性魔法を撃つジェネラル氏だったが、惜しくも外した。……くそ、逃げられたか。
「残念ですが取り逃がしてしまったようですね」
「そうですな、カイト殿。ですが、ルナ様達の救出は完了です。これを喜びましょう」
「本当にありがとうございます、ジェネラルさん」
「いえいえ、我々の方こそ戦い方を学ばせて戴きました。これがパーティというものなのですね」
「ええ、力を合わせれば不可能を可能に出来るんですよ」
「なるほど……これならば我が故郷『パラレログラム』奪還も夢ではないのかもしれませんな」
少し嬉しそうに微笑むジェネラル氏。そうだな、このお礼に俺も手伝うし、なんとかなるさ。
◆
ルナの超治癒スキル『グロリアスヒール』で回復し、同時にソレイユとミーティアも目を覚ました。
「……あれ、ここどこ……」
「おはよう、ソレイユ」
「へ? あれ、カイト? なんで夜ぅ!?」
大混乱のソレイユにはルナに説明して貰い、俺はミーティアへ視線を移す。
「大丈夫か、ミーティア」
「おにーちゃん!」
抱きついてくる甘えん坊のミーティアを抱き、頭を撫でた。
「お前なら勝手に脱出すると思ったんだがな」
「無理無理。さすがの私も宝石に閉じ込められたら何も出来ないよぉ。しかも、あれって内部からはスキルが無効化されていたし、とんでもない代物だよ」
「そうなのか。まあ、無事で何よりだよ。それより帰ろう。ミーティア、全員のテレポートを頼む」
「ああ、うん。ていうか、ここどこ!?」
「ヤークト公爵の屋敷。さっきまで戦っていたんだ」
「え~? どういう事~?」
「詳しい説明は後でするから」
「分かったー」
ミーティアは、大賢者の杖『インフィニティ』を易々と召喚。超巨大な魔法陣を足場に作り、俺達を囲む。
「うおおお! でけえええ!」
テンションをあげまくるプライムとその一行。ミーティアの途方もない魔力に驚いていた。初見だとビビるだろうな。
ともあれ、やっと帰還できるな。
――ヤークト公爵を取り逃してしまったが、ルナ、ソレイユ、ミーティアは取り戻せた。これだけで十分だ。
ヤツはどこへ姿をくらましたのか。いったいどうして『聖典』が効果を発揮したのか――謎が多い。きっとまたヤツは現れるだろう。もしくは、最果ての国・パラレログラムへ向かっているのかもしれない。
いずれにせよ、元凶であるガラテイアを何とかしなければ。公爵と親子というのが事実であるのならば……危険だ。
懸念は尽きないが、今は仲間の無事を喜ぼう。
ミーティアのテレポートで俺の店『イルミネイト』に戻った。疲労困憊のみんなは、早々に部屋に戻っていく。
「あたしも戻るわ。……と、言いたいところだけど、すっごく寝た気がするからもういいわ。このまま起きてる」
だろうな。ずっと宝石の中で眠りについていたようだし。
「わたしも寝れなーい」
俺の膝の上に乗るミーティアも眠れそうになかった。となると――。
「わたしもです」
「ルナもね。じゃあ、みんなで起きているか……なんだかんだ夜明けも近いし」
「はい、みんなでゆっくりしましょうか」
紅茶を淹れてくれるルナ。
テーブルに並べられ、俺はそれをゆっくりと味わう。……うん、美味い。しかし、味わっている場合ではない。みんなに話さなければならない。
ヤークト公爵とガラテイアの関係について。
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