【289】 王女の召喚スキル『プレアデス』
「……海人様」
重そうな瞼を開け、力なく俺の頬に手を伸ばすルナ。良かった。意識はあるようだな。
「無理をするな、ルナ」
「海人様が無事で良かった……」
「馬鹿、俺よりルナの方が大切だ。ごめんな、守れなくて」
「いえ、いつも信じていますから……きっと助けて下さるって。だから……今もわたしはあなたのお傍にいられるのです」
俺が不甲斐ないばかりにルナを危険な目に遭わせてしまった。いや、ルナだけではない、ソレイユやミーティアもだ。そうだ、あと二人も助けなければならない。
今は反省している暇もない。
前向いて歩くしかないんだ。
戦え、俺。
挫けるな、俺。
信じてくれている人の為に前進あるのみだ……!
「ありがとう、ルナ。君を離さないよ」
「……うれしい」
俺はルナの体を持ち上げ背負った。
ひとりになんてさせない。
「じゃあ、おにーさんとルナさんは、わたしが守らなきゃだね★」
「モニカちゃん。いいのか」
「だって、おにーさんはルナさんを守らなきゃだし、手が空いていないでしょ。なら、任せてよ★」
「すまない、モニカちゃん」
「いいよ。おにーさんの事、わたしも好きだし★」
にかっと笑うモニカちゃんの笑顔は素敵だった。なるほど、会った時から只ならぬ気品とか感じていたけど、確かに王族らしいな。
さて、ルナはまた眠ってしまった。おそらく、宝石に閉じ込められていた反動か何かだろう。今は俺の背中で眠らせてやろう。
「モニカちゃん、公爵はまだ生きている。ヤツを止めるんだ」
「分かった。じゃあ、殺っちゃうね★」
例の『扉』を四つも召喚する。
まてまて、あれはいくつも同時召喚できる代物だったのかよ。すげぇな。
「これはいったい……」
「これは『プレアデス』という召喚スキル。かつて“最果て”に封印されていた魔物。魔神とか邪神とか言われている類の伝説のバケモノなの」
「バケモノか……そんなモンが召喚できるのか」
「うん。太古まで遡るんだけどね、王家と魔物は契約を交わしたの。共に大地を守ろうって……でも、なぜか魔物の力は代を追うごとに弱まった。同時に、国全体の民たちのレベルも上がりにくくなってしまった。それが魔物との契約だったみたい」
――そうか、それで全員、異常にレベルが低かったんだ。魔物との契約によって、そんな呪いのようなものが発動していたんだな。
だが、魔物は召喚に応じるのか。レベルが上がったから? 俺との相性いいのか?
「くそ、よくもッ!!」
頭をフル回転させていると、地面に激突していた公爵が起き上がる。野郎、見た目よりタフだな。年齢的には四十代あたりなんだが……年齢を感じさせない若い肉体を持っているし、動きも俊敏だ。
「ヤークト公爵、お前を倒す」
無表情で冷静に右手を向けるモニカちゃん。ブチギレてるなあ。
「倒すぅ? この私を? 馬鹿が、こちらにはソレイユ様とミーティアの宝石があるんだぞ。盾にしてくれるわッ!!」
パチンと指を鳴らす。
くっそ、あの野郎!!
俺の仲間をそんな風に扱いやがって、さすがに殺意が込み上げてきた。ルナを下ろしてでも戦おうかと思ったのだが――。
パチン、パチンと連続して指を鳴らす公爵だったが、なんの反応もなかった。
「……?」
「どうしたのかな」
俺もモニカちゃんも顔を合わせる。
「ば、馬鹿な! なぜ宝石が現れない! なぜ……ん!?」
『無駄ですよ、ヤークト公爵』
地面が盛り上がり、地割れが起こるや何か飛び出てきた。そんな所から! というか、この声はジェネラル氏で間違いない。そうか、地属性の魔術師だから、スキルで。
やがて、底からジェネラル氏とプライム、ナイツさんが現れた。ソレイユとミーティアを背負って。
「あ! 宝石が割られている。どうして!?」
「ええ、カイト殿。ソレイユ様とミーティア様の二人は無事に保護しました。この屋敷の地下にいたのですよ」
「地下に……」
そんな所に閉じ込められていたのか。ルナも同じように保管されていたのだろう。いや、しかしどうやって探し当てたんだか。
「ば、馬鹿な!! 地下の存在を知る者は私だけだぞ!! 何故だ!!」
超慌てるヤークト公爵。
俺は……まあ、なんとなく分かった。
「聖槍『パルジファル』使ったのです」
淡々と槍を示すナイツさん。そうだな、あの槍なら人を探せる。事実、ここまで辿り着けたのだ。そうか、探しに行ってくれたんだ。ありがたい。
「し、しかし宝石はそう簡単に割れるものではない……パライバトルマリンを触媒にしているんだぞ!! あの莫大な魔力を持つ宝石をな!」
混乱している公爵は更に問う。
俺もそれは気になっていた。
「その答えは簡単だ。俺がノコギリで切ってやった」
あのプライムの両刀ノコギリか。
まさかあれも“神器”レベルなのか?
「そんなノコギリで!? ふざけるな!!」
「ふざけちゃいないし、事実だ。これは“どんなモン”でも切れるノコギリなんだよ。でもレベルの低い俺には扱えなかった。だけどな、高レベルの今なら真価を発揮できた」
「た、たかがノコギリで……」
ギリギリと歯軋りする公爵は、俺達を睨む。これで、ソレイユもミーティアも取り戻した。みんなの力のおかげだ。
あとは公爵をぶっ倒して、裏切者として帝国に突きだすだけだ……。俺はルナをナイツさんに任せた。そして、聖剣『マレット』を強く握り構えた。
「ヤークト公爵、お前はもう逃げられないぞ」
「くそっ、くそっ、くそォ!!」
予備資金を使い、全員を強化する――!
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