【199】 スキル売買
残り二日をどう上手く使うか。
情報収集、大切な人と時間を過ごす、商売など考えればいくらでも浮かんでくる。
「そうだな、今日は――」
うん、自室の掃除をしているルナの所へ。
自分の部屋でもあるので、特にノックもせず入室。ルナはしゃがんで床掃除をしていて、可愛いお尻を向けていた。
こういう姿もたまらないなあ。
よし……。
勘付かれないよう慎重に向かって――あ。
「カイト様? あ、やっぱり……また驚かせようとしたのですね」
「あはは……」
今回はさすがにバレちゃったか。
「笑って誤魔化しても許しません」
ぷくっと膨れるルナは手を止めて立ち上がった。掃除を強制的に止めさせて、俺は彼女の手を引いた。
「行こうか」
「……あの、カイト様。どこへ?」
「そうだな、この場合はデートって言えばいいのか」
「デート……! それは大変嬉しいです。といいますか、このようなメイドの姿ではお気に召しませんよね。お洋服に着替えますので――」
「いいよ、メイド服のルナが好きなんだ」
「……はう」
……はう?
顔を真っ赤にするルナは、両手で顔を覆っていた。……そ、そう照られると、こっちも照れるな。てか、ちょっと泣いてる!?
「だ、大丈夫?」
「これは嬉し泣きです……本当に嬉しい」
俺は汗顔を隠すようにして、ルナの手を握って連れ出した。
◆
帝国・レッドムーンは昼は特に混雑する。
中央噴水広場は、露店や俺の店、L地区やU地区、A地区に繋がっている。冒険者が入り乱れ、すれ違うのも大変だ。
「凄い人混みだな」
「今日は、スキル売買市場と露店の大規模イベントがあるようですから。両方とも赤字覚悟の割引セールのようですよ」
なるほど。だから、あっちもこっちも冒険者が歩いているわけだ。あまりに人が多いものだから、肩がぶつかりそうになる。
というか、ほぼ缶詰め状態だ。
暑苦しい。
そんな中、ルナが誰かにぶつけられたようで、俺の方へ身体が舞って来た。俺はルナを支え包み込んだ。
「大丈夫か。くそ、誰だよ」
「……平気です。ケガはありませんし、このような往来ですから……はぅわっ!? ……カ、カイト様、その……」
「ん? ――あ」
人前で完全に抱き合っていた。
気づけば、すげぇジロジロ見られている事に気づく。見世物じゃないんだがな。
さっさとここを抜けようと、再び歩き出す。
少し歩いて『スキル売買』市場へ向かった。そういえば、前に賢者ギルド・ツァイトガイストに所属していたというマタンの招待を忘れていた。
今日は、割引セールもやっているようだし、何か面白いスキルがあったら購入してみようかな。
「ここか」
「ここも大変多くの人たちが取引していますね。わぁ、あの紫色の結晶がスキルという事なのでしょうか」
キラキラと耀く紫水晶。
アメシストか。
あれにスキルが詰まっているらしい。
「綺麗だよな」
「はい……わたし、紫色が結構好きなので」
「へぇ、意外。てっきり赤かと思った」
「赤も好きですよ。でも、赤紫とかありますし、親戚のようなものなのです! だから好きなんです」
不思議な趣向だなぁと面白がっていると、露店の男から話しかけられた。
「そこのアンちゃん」
「ん、俺か。――って、あんた……」
「久しぶりだね、カイトくん」
この冴えないおっさんは間違いない。
「マタンさん……」
「スキル売買市場へようこそ!」
爽やか笑顔で歓迎された。
前とキャラ違いすぎだろう。
まあいいけど。
スキル売買か……面白そうだな。
いつも応援ありがとうございます。
もしも面白い・続きが読みたいと感じましたら、ぜひブックマーク・評価をお願いします。