【189】 三日後の満月まで
「――と、思ったのですが……そこのダークエルフの登場で興覚めしてしまったので、帰らせて戴きます。いいですか、三日後の夜は満月、ブルームーン。またその日にまた逢いましょう、カイトさん」
踵を返すエーデルは、用は済んだと会釈して、出て行った。なんだったんだよ。
「ミーティア、ケガとかないか」
「大丈夫。それより、ルナさんの方が心配だよ!」
そうだ、ルナ!
廊下へ向かうと、ルナを守護するソレイユの姿があった。
「あの女は出て行ったわ」
「ああ……ソレイユ、ルナを守ってくれてありがとな」
「当然でしょ。こっちにケガはないわ」
俺は、ルナの傍に寄って顔を確かめた。
「顔も、身体も……うん、大丈夫だな」
「はぅ……カイト様。そんなペタペタされますと、わたし……困っちゃいます」
ちょっと確認しただけなのだが、ルナは蕩けていた。良かった、これなら心配はなさそうだな。
「それで、あの女はなんだったの?」
「あの女の子は、ギルド『エルドラード』のメンバーで、エーデルだ。つまり、ここがイルミネイトになる前の居住者だな。ソレイユ、あれだ、前にトニーが言っていたろう」
「エルドラード……そっか、シャロウと同盟を組んでいたって判明して、国外追放されてしまったのよね」
その通り。今やエルドラードは、ブルームーンの傘下だろうと思われる。いや、あのエーデルの口ぶりからして、ほぼ確定と言っていい。
俺を連れていくと言っていたからな。
「また危険が迫っているかもな」
エーデルの口車に乗るわけではないが……このままイルミネイトに居続けるのは、少々危険かもしれない。仲間を、部下を、大切な人を守る為にも少し、ほんの少し移住とか検討の余地がありそうだな。
――期限は三日。
その間に、俺は決断を下さねばならない。
ここに居続けるか否かを。
◆
夕食後、俺はソレイユに連れ出され、夜の街を歩いていた。そう腕を引っ張られると周囲からの注目度も抜群だ。
それにしても、ルナがあんなアッサリ許してくれるとは思わなかった。少し前、俺の部屋にやって来たソレイユは爽やか笑顔でこう言った。
「ねえ、ルナ。カイトを借りるわよ」
「いいですよ」
こんな風にひとつ返事だった。
理由は特に無かったが、ソレイユなら問題ありませんという単純なものだった。さすが信頼されてるな。
「こんな夜に何処へ行くつもりだ、ソレイユ。このままだと、A地区の境だし……貧民街も近くて治安が悪い。危険だぞ」
「大丈夫よ、もうすぐ着くから。ほら、そこ」
そこって――これは。
この木造のお店は……?
「わーうるふ?」
「そ、ワーウルフ。酒場よ~。たまには二人きりで飲みましょ」
なんですと!?
どうやら、俺は飲みに誘われたらしい。こりゃ、珍しいというか何と言うか。どういう風の吹き回しなのやら。
「――って、まて。お前、そんな歳だっけ」
「ブルームーンはともかく、この帝国・レッドムーンでは飲酒の年齢に制限はないわ。ただ、酒場の入場は15歳からよ。だから、あたしは問題ないわ。ああ……聞かれる前に言っておくけど、あたしは、15歳以上よ……多分」
「多分って……そんな不確定要素ありまくりに言われても。この際だからソレイユの実年齢を教えろ」
じっちゃんの言いつけは、もう破る事にした。
許せ、じっちゃん。