【177】 七つの貴族
エクリプス家には、美人メイドさんが七人、やたらマッチョの執事が一人いた。その中の執事がのしっと現れた。トラモントに近いものを感じるな。
「おはようございます。私はダンという者で、エクリプス家の執事でございます」
「俺はカイトです。こちらのダークエルフは――」
「ミーティアです」
自己紹介を済ませ、執事の後をついていく。
食堂らしき場所に通され中へ入ると。
「……ん、猫耳?」
ピョコピョコするものが視界に入った。
美しい金色の髪に生える虎系統の獣耳。ノースリーブの服だから、肌の露出が多い。亜人の女の子か。オーロラも亜人系だけど、貴族には有り触れた存在なのかもな。
「えっと……」
反応に困っていると、その娘は独特な瞳を俺に向けて来た。黒い瞳の中に、赤い十字。貴族の紋章か?
「カイトさんですわね。貴方の詳細は、ソレイユから聞き及んでおりますわ。初めまして……わたくしは、七つの貴族・ノイヤール家の『アムール』と申します」
アムール……?
まさか、あの獣耳ってアムールトラか。
それから握手を求められたので応じた。
「アムールさん、ですね。よろしくお願いします」
「そんなに畏まらなくてもいいのですわよ」
「いえ、自分は商売人ですから」
「納得ですわ。ソレイユの評価する通り、紳士ですのね、貴方。ところで、その魔法使いさん……」
「私はミーティアです」
「ミーティア? ああ、もしかしてクラールハイト家の……お気の毒に」
「……ええ」
表情を曇らせるミーティア。
俺は、彼女の腰に手を回して、身を優しく寄せた。
「……カイト……うれしい」
「申し訳ないのですが、妹のミーティアは少しばかり情緒不安定なのです。話は俺が」
「あら……妹さんでしたの。これは大変なご無礼を。悪気は無かったのです。ですけれど――クラールハイトは、今や裏切者の烙印を押されてしまっているのも事実。それは理解できますわよね」
当然だ。
ブラック卿は、この国を乗っ取ろうとしたのだからな。しかも罪を重ね、脱獄まで――。こうなるともう、クラールハイト家の存続は危ういどころか消滅しかねない。
「実は、そのクラールハイト家の事でエクリプス家を訪ねておりましたの」
「そうでしたか」
返事をすると、いつもとは違う姿のソレイユが現れた。
「……おぉ、ソレイユ。純白のワンピース姿とか、似合いすぎだろ。フリフリも付いちゃってさ」
「あははー、そこまで褒められるとは。家なんだし、これくらい普通よ。ま、まあ……みんな、おはよー」
分かってはいたけど……本当にお嬢様だったとはな。そういえば、ルナも前にワンピース姿を披露してくれたっけな。あの時は、ワンダがどうとか……もしかして、ワンダから波及しているのだろうか? やっぱり、根は清楚キャラなんだな、ワンダ。
見惚れていると、アムールがソレイユの前に立った。
「では、わたくしは帰りますわ。噂の殿方にも会えましたから」
「話はさっき終わったし……それじゃ、頼むわね」
「ええ、クラールハイト家の穴は近々埋まるでしょう。今こそ結束させねば……未来はありませんわ」
気になる事だけ言い残してアムールは去った。
ミーティアの手が震えている。
……ああ。
「おい、ソレイユ……」
「分かっているわ。クラールハイト家を何とかしようと必死なっていたの。どうにか、ミーティアを正式な主に出来ないかとね」
「……そうなのか」
「今すぐ影響が出るわけではないけど、七つの貴族は『星力』を司ってもいるの」
「星力?」
「魔力は分かるでしょ。スキルを使うのに必要なエネルギー。でも、星力っていうのはね、【帝国・レッドムーン】の人間にだけ許された原初の力なの」
「し、知らなかったぞ」
そんな特殊魔力があったとはな。
「ええ、この『L地区』限定で共有されている最重要機密よ。王族か大貴族しか知らない。でも、クラールハイトの主が消えた今……力のバランスが崩れ始めているの。このままだと、戦争に負ける可能性も……」
「なんだって!?」
どうやら、ソレイユによれば、帝国が最強な理由に『星力』が関係しているようだ。その力が使えれば、敵を圧倒できるのだとか。どれ程の力なのか定かではないが【共和国・ブルームーン】の竜騎士の数万規模を余裕で処理できる力というわけだ。
これもブラック・クラールハイトの、計画のひとつにあったのかもしれんな――と、思案していれば次には、ソレイユが俺とミーティアを抱えていた。
「え…………うあああああッ!!」
急に壁がボコォッと膨張、崩壊して何かが飛び込んで来た。
「――――くっ、これは」
「カイト、ミーティア、無事ね!?」
「ソレイユのおかげでな」
「私も大丈夫です! それより……」
飛んできた何かは――
「トラモント!!」
死んではいないようだが……。
なにが起きた?
砂埃から現れる影――こいつは……!