【174】 裏切者(ソレイユ視点)
――あの夜、事件は起きた。
ふと目覚めて、ベッドから起き上がった。
自分には『太陽』の力がある。これは、一種の魔眼のようなもので、以前、カイトがシャロウに襲われて危機に陥った時にも役立った。
これで察知して、彼を助けたのだ。
「それにしても、カイトもルナも何処へ……」
先程二人の気配が消えた。
多分、オーロラも。
心配になり、様子を見に行く事にした。
「一応、着替えておくか……」
いつもの軽量型鎧に着替え、魔導式エレベーターへ。一気に上を目指し、歩く。
「……」
カイトとルナの部屋の前。
扉をノックするも、反応はなかった。
「カイト? ルナ? いないの?」
まさか……。
カイトの部屋をぶち破ってやろうと剣を構えた――その時、エルフの気配を感じた。この特有の『魔力』と『星力』は、ダークエルフ。
「ミーティア」
「あれ、ソレイユ……さん?」
「あんたも気配を感じたのね」
「ええ……、カイトとルナさんが居なくなったような気がしたのです。オーロラさんも居ませんよね」
その通り。
三人の気配が感じられなかった。
あたしは、厭な予感がして――外へ出ようと考えた。ミーティアも後ろからついてくる。
◆
イルミネイトを出ると……懐かしい『星力』を感じた。
「あんた……」
あたしは、その闇から現れる影を睨む。
「ソレイユ……この先を通すわけにはいかない」
月明かりに照らされ、見覚えのある顔が覗かせる。この赤髪ショートボブは間違いない。
でも……信じたくはなかった。
ワンマンアーミーの特権も持たない彼女が、こんな深夜の時間帯にイルミネイトを訪ねて来れる筈がない。
「どうして此処にいるの、アメリア!」
アメリアは、黙って剣を抜いた。
この子……!
あたしも聖剣『マレット』を構えるしかなかった。
「ミーティア、助太刀は不要よ。安全を考え、店の中へ」
「いえ、私は見届けます。大切な仲間が戦っている前で、自分だけ隠れてなんていられませんから」
「――分かった。いざとなったら逃げるのよ」
こくっとミーティアは頷く。
ホント、いい子ね。素直だから好き。
だからこそ、守らなきゃ……!
殺気を以て距離を詰めてくるアメリア。本気のようね。
「ソレイユ……あんたを殺す!!」
アメリアが地面を強く踏み、接近。その剣先があたしの胸部を目掛けて飛んでくる。確かに、彼女の腕は中々のモノ。けれど、昔から人々を守ろうという信念が足りなかった。
「たぁぁぁぁ――――ッ!!」
あたしは、空高くジャンプし、それから聖剣の一撃を放った。
『――――――ファントムブレイズ!!!』
ドラゴンの息吹に匹敵する火炎。激しく膨張し、落ちる。
「くッ……! ファイアーボルトを上回る火力……でも、たいした事はない! こんなボヤ!!」
炎を潜り抜け、彼女は叫ぶ。
「あんたの存在は邪魔よ! 邪魔なの!! 昔からチヤホヤされるのは、ソレイユだけ!! あの男の子だって……全部全部、あたしから奪っていく!! あんたが憎い!!」
「そう。そう思っていたの……残念ね。でも、ファントムブレイズのその火炎は幻よ。本物の炎は、この瞬間に発動するの!」
「えっ……」
彼女の足元に『黒い炎』が広がっていた。その爆熱に呑まれていくアメリア。
「――――――いやぁゃぁぁぁぁぁあああッ!!!」
一応手加減はしたけど、それでも大きなダメージに変わりはない。
「ぁぁぁぁぁあああッ!!」
意地で炎から抜け出してくるアメリアは、襲い掛かってきた。なんて執念。そこまで、あたしを恨んでいたのか。
ならば、これで沈める。
マレットを持ち直し、刹那で『星力』を解放した。
『ヘルテイト――――――!!!』
聖剣『マレット』が黄金に光り――鳴いた。
それから、その輝きは雨となり、風となった。
黒い炎から脱出しかけているアメリアに対し、渾身の一撃を穿った。
「そ、そんな……ぁぁぁぁぁぁああああッ!!」
激しい衝撃で吹き飛ばされ、地面に何度も激突。やがて、噴水に頭部を打ちつける寸前で止まり――アメリアは戦闘不能になった。あれなら死んではいないはず。
「……こうなったら全部聞かせてもらうわよ」
「ソレイユさん!」
見守っていたミーティアが寄って来た。
「あたしは平気よ。それより、アメリアよ。カイトとルナ、オーロラが居なくなった事と関係があるはず」
と、彼女を起こしに歩こうとすれば、また気配が。
「……あんた、オーロラ」
「ただいま戻りました」
「何処に居たのよ! 二人はどこ!?」
「カイト様とルナ様は、クラールハイト邸です。ソレイユ様、ミーティア様にも向かって戴きたいのですが……なるほど、アメリア様が内通者でしたか」
「え……」
オーロラが残念そうに俯く。
そんな……アメリアが……裏切者?
そうでなければ、あたしを襲うわけないか。あんな恨んで……ああ、もう、悲しくなって、涙が出そうになった。
察してくれたミーティアが抱きついて、励ましてくれて――思わず、あたしもぎゅっと抱きしめた。