【166】 原初の力・アルフォズル
ドワーフは基本的にパワー全振りだが、そのスキルも火力重視系。まともに受ければダメージが大きいだろう。ならば、それを凌駕する全力の一撃で沈める――それしかない。
俺は、赤く燃えるようなグラディウスを前に向け……!
ヤツも斧を下から上へ振る――!
『――――――イラプション!!!!!』
トラモントの爆発的な噴火が飛んでくる。
すげぇ火力だ。邸宅全体を飲み込まんとする溶岩と火砕流。そして、厄介な隕石群。なんて広範囲に及ぶんだ、あのスキル。
俺がもし『Lv.1』のただの商人だったのなら、塵も残らず死んでいたかもしれない。でも今は違う。ヤツの全てを超えている。
それから、月の加護も。
★★★ ★★★ ★★★ ★★★ ★★★
【アルフォズル】Lv.5(MaxLv.5)
【系列】攻撃/支援
【習得条件】月の加護
【効果】
月と太陽の誓約により、
原初の力を引き出す。
敵に破滅的な一撃を与える。
自分あるいは味方には、被ダメージを
半減させる効力を3分間付与する。
[Level.1]:物理/魔法ダメージ 3000%
[Level.2]:物理/魔法ダメージ 6000%
[Level.3]:物理/魔法ダメージ 9000%
[Level.4]:物理/魔法ダメージ12000%
[Level.5]:物理/魔法ダメージ15000%
★★★ ★★★ ★★★ ★★★ ★★★
これで!!
「トラモント、お前はここで沈め……!」
力強くグラディウスを握り締め、前へ突き出す。
『アルフォズル――――――!!!!!』
月明かりのような白い光が放たれる。
一瞬で到達したそれは、敵スキルを消滅させていく。……なんてこった、トラモントの『イラプション』を簡単に破壊しやがった。自分のレベル分の火力があるとはいえ、ここまでとは。
「――――ぐぉぉぉぉぉォっ!!!」
やがて、全てが白く染まって……何もかも見えなくなった。なんて……光。これでは、月というよりは太陽のようだぞ。
「…………」
やっと視界が開けていく。
遠くには、トラモントが大の字で倒れていた。……そうか、斧で防御したか。あの武器は『神器』だから、防御力もそれなりにある。それに加えてパライバトルマリンの魔力も感じるから、使用していたのだろう。あの『イラプション』から感じられたからな、間違いないだろう。
「カイト様!」
正面にルナがやって来て、心配そうな顔で俺の頬に触れた。
「おケガはありませんよね!?」
「大丈夫だよ、ルナのおかげで無傷だ」
そう、あのキスのおかげで俺はスキルが増えた。その理由は定かではないけど、俺はルナに助けられたのだ。だから、ありがとうって笑顔を向けた。
「…………っ、そ、その……カイト様、笑顔が素敵です……。といいますか、わたしは何も……あっ」
途中で気づいて顔を真っ赤にするルナは、両手で顔を覆っていた。背中を向け、腰を下ろしてぴくぴくと震えていた。おいおい、そこまで恥ずかしがるとは……俺も恥ずかしいって。
「クソォォッ……! トラモントがここまで使えぬとは!! これでは私はオシマイだ! 何もかも終わりだ!! うあぁぁぁぁぁあ……!!」
その隣で発狂しているブラック卿。
自業自得だろ。
……さて、この男からは色々聞き出さねば……
と、俺が近づこうとしたその時。
聞き覚えのある声がした。
「……お、お父さん何をしているんですか」
いつの間にかミーティアと……ソレイユ! その背後にオーロラもいるから、そうか、彼女が連れてきたのか。
「……! ミーティア、なぜ、此処に……」
「オーロラさんに連れて来られたんです。これは一体、どういう事ですか……」
「…………ぐぅ」
言えるわけねぇよな。
「愚かな父を許せ、ミーティア……」
「理由を教えてください! どうして、カイトを狙ったんですか!」
娘から強く問われ、ブラック卿は観念したようだ。
「……世界を私のモノにする為だ」
「……世界を?」
「そうだ、私はある計画で【帝国・レッドムーン】の皇帝になり、世界を統一するつもりだった。己の欲望の為にな! だから、ダークエルフであるお前を養子に迎えたのも……これが理由だ」
「……え」
それを聞かされ、脱力するミーティアはショックを受けていた。……まさか、そんな事の為にミーティアを。
「お父さん……私を騙していたのですか……」
「すまないな……私は、お前を愛していない。もうお前は不要だ……」
「…………」
くらっとミーティアの足元がフラつく。
俺が彼女を支えた――その瞬間。
ソレイユが聖剣『マレット』で、ブラック卿の顔面に激しい一撃をお見舞いした。その火力は抑えられていたものの、歯が何本も折れていた。
「………………かはぁっ」
ドシャッと卿の身体が崩れ落ちた。
「ソレイユ!」
「手加減はしたわ」
「そうか……」
とはいえ、ミーティアは……。
「……カイト、私……ひとりぼっちになっちゃった……」
消えてしまいそうな声でそうつぶやく。
俺はミーティアを抱きしめた。
「ミーティア、お前はひとりじゃないよ。俺たちがいる」
顔を埋めて表情は伺えないが、今はこれでいい。