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【135】 真の力、聖剣マレット

 相手はシャロウNo.6の『エフォール』だ。

 ヤツは腕を組み、俺の出方を静かに(うかが)っていた。


「……カイト。お前はその弱さ故に最強ギルドを追放された。戦闘に不向きだったからだ……だったら、強くなる努力をすべきではなかったのかな」


「痛い所を突いてくるな。ああ、努力不足だった事は認めるよ。けどな、俺は『商人』だからな、お客様を笑顔に出来ればそれでいいんだよ」


「……ほう、つまり努力で強さを求めるのではなく、くだらん他人の為に努力した、と」


「ああ、そうだ。ベクトルは違えど努力には変わりない。それにな、今の俺は昔とは違うんだよ。人と人との繋がりが俺が強くした」



 ペッと唾棄(だき)するエフォール。



「くだらん……実にくだらん。お前はそうやって『レベル売買』スキルを使い、他人を強くしていった。自分ではなく、他人をだ」


「レベルを求める人は多くいるし、需要(じゅよう)はあるんだ……何が悪い」



 はぁ……と、深い溜息(ためいき)をつき、エフォールは足音も立てず歩み寄って来る。



「努力せず金でレベルを買う……厚かましいと思わんかね。それで本当の強さを手に入れたと思うか? 精神は強くならず、レベルだけ強くなる。これは言わば、子供のまま大人に成長するのと同義だ。だから、弱い。この俺より劣る」


「レベルはレベルだ。それ以外の何物でもない。変化すれば強くなる、それだけだろう」


「そうかもしれんな。では、カイト……俺の『Lv.6250』を全て奪ってみろ。それから、実力の違いを見せてやる」



 なんだって?

 自らのアドバンテージを切り捨てるというのか。



 『Lv.6250』というのは、決して低いモノもで安いモノでもない。



 金にすれば、相当な額だ。


 それを奪え?



 なんの罠だ……?

 けどな、遠慮なく奪ってやる。



「――――レベルダウン!!」



 俺は、エフォールのレベルを下げて『Lv.1』にした。これで、ヤツは雑魚同然………!



「なっ――――!!」



 レベルを奪ったと同時に、エフォールが俺の目の前にいた。ヤツは、拳を俺の鳩尾(みぞおち)に――――!?



「がはぁぁぁぁああああっ…………!!」



 吹き飛ばされ、民家の壁に激突。


 どぶっと胃の中が逆流し、モノをぶちまけそうになった。だが幸い、高レベルの防御力のお陰で口を切った程度で済んだ。……血がすっと零れ出る。

 あぶねぇ、もう少しレベルが低かったら死んでいたかもな。

 にしても……。



「…………くっ。ウソだろ……『Lv.1』の(はず)なのに、なんて力だ」



 朦朧(もうろう)とする意識の中、ヤツはゆっくり歩いて向かって来る。



「レベルなんて関係ないということだ」

「関係……ない?」

「レベルなんぞただの飾り。努力すれば、これほどの力を手に入れられる。……いいか、カイト。肉体はレベルに縛られない己自身のものだ……。鍛えれば自然と筋力を付けられるステータスを超越した自己パラメータ。その差は鍛え方によって出るだろう」


 倒れる俺の前に立つエフォールは、腹に蹴りを――。



「ぐふぉっ……」

「どうした、お前のレベルは今、かなり高いはずだがな」



 そうだ、俺は今……ヤツから奪い取った分で『Lv.6251』もある。



 なのに手も足も出ないだと……。

 どうなってやがる……!



 これが実力の違いなのか。



 努力でこれほどの差が出るのか……。



 おかしい。



 この世界はレベルによって能力に差が確実に出る。いくら己の肉体を強化していると言っても限界があるはずだ。しかも『Lv.1』だぞ……ありえんだろ。



 ――とにかく、ここはグラディウスで。



 腰に携えているナイフを取り出し、構えた。



「ほう、一丁前にそんなものを」



 だが、刃を握られ取られた。

 しかも粉々に破壊されてしまった……嘘だろ。あれは、エクサニウム製だぞ……。ヤツの力の源は何だ? そんなに限界まで鍛えたっていうのかよ。




「…………っ」

「これが俺とお前の実力の、努力の差だ」




 そう無常に言い放ってくる間にも、ソレイユも近くに吹き飛んできた。どうやら、トラモントの馬鹿力に負けたらしいな。




「――――――くぁっ……」



「ソ、ソレイユ!」




 辛うじて地面に(ひざ)を付ける。

 だが、彼女の額から(おびただ)しい出血が……。


 それからハンマー聖剣『マレット』が宙を飛び、俺の近くに落ちた。



「……あのドワーフ、なんてパワーよ……」


「ソレイユ、血が! 大丈夫なのか!?」

「それはこっちのセリフよ、カイト。あんたもボロボロじゃない……」



 エフォールとトラモントが俺たちの前に立ちはだかる。



「帝国の騎士がこの程度とはな……残念だ」



 大戦斧・エンディミオンを余裕顔で(かつ)ぎ、のしのしと歩いてくるトラモントは、不服そうに溜息(ためいき)をついた。



 追い詰められた……。



 ルナは、エキナセアと戦っている。

 こっちに気を配っている余裕はない。ミーティアもコレリックと大魔法の打ち合いを繰り広げている。助けは来ない。



 ならば、俺がソレイユを守るしかない。



 ……ああ、そうだ。



 俺にはレベルを操る能力しかねぇんだ……!



「レベルアップ……」



 自身のレベルを『9999』にした。



「……言っただろう。レベルは関係ないと」



 エフォールはうんざりだと地面を強く踏む。そこには怒りさえあった。俺に対する苛立ちか。……そうだな、レベルだけが全てではないかもしれない。



 でも。



 すぐ(そば)に落ちている聖剣(・・)



 俺は『マレット』を地面から引き抜き、構えた。




「……カイト、あんた」

「ソレイユはそこにいろ。俺が守ってやるよ……!」

「でも……」

「お前、重症だろう。いいから寝てろ」

「…………ごめん。あぁ……もう、だからカイトが好きなの」



 トラモントのアホパワーは、(あなど)れない。

 一撃でも戦斧を喰らえば胴体は真っ二つだろう。



 その前にヤツのレベルも奪う。



「トラモント、てめぇのレベルも奪ってやるよ……レベルダウン!!」



「この頓珍漢(とんちんかん)め……レベルなんぞくれてやるわッ!! ――――ぬぅん!!!」



 猛突進してくるトラモント。Lv.1のはずなのに凄まじいスピードだ……く、戦斧がもう前に。大きな刃が岩のように落ちてくる。



 それでも!!




「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」




 聖剣『マレット』を強く握り締め、全身のパワー使って弾いた。




「――――ぐおっ……馬鹿な!! 我が大戦斧・エンディミオンを弾いただと……!! のれぇッ!!」




 俺も驚いた。

 まさか……いけるとはな。



 ――――ん、まてよ。



 俺は聖剣『マレット』の効果を覗いた。



 ★★★ ★★★ ★★★ ★★★ ★★★


【Weapon】聖剣・マレット

【Effect】

 種別:剣/ATK3000

 月と太陽の盟約により顕現した聖剣。


 (1)

 火・水・風・地の属性を任意で付与可能。


 (2)

 レベル1毎に攻撃力 + 100アップ。


 (3)

 レベル1毎に防御力 + 100アップ。


 (4)

 レベル1毎に攻撃速度 + 1アップ。


 (5)

 全種族に対し、物理ダメージ + 50%。


 (6)

 一定確率で状態異常を与える。


 (7)

 精錬値が + 1毎に[ガグンラーズ]で与える

 ダメージ + 2%アップ。


 (8)

 種族[人間]から受けるダメージ - 25%。

 種族[悪魔]から受けるダメージ - 25%。


 (9)

 任意発動で[バーサーク]状態になる。


 (10)

 この武器は絶対に破壊されない。


 ★★★ ★★★ ★★★ ★★★ ★★★



 ――そういう事か!!


 ソレイユは、レベルがそれほど高くなかったから効果の恩恵を得られなかったんだ。そういえば、アイツが騎士団へ向かう前、孤児院への支援の為にまたレベルを売却(・・・・・・)していた。だから、今は『Lv.100』もないはず。


 バオくらいの低レベルは倒せても、トラモントとはレベルも装備差もあったんだ。だからだ。でも、俺は今『9999』もある。それで能力が異常にアップしたんだ。



 ……そうか!!



 やっと分かった。



 敵の強さの秘密。



 俺はなんてことを失念していたんだ。



 装備アイテム(・・・・・・)だ。



 装備の効果によっては、理不尽なほどにステータスがアップする場合があるのだ。それをすっかり忘れていた。



 だからレベルが高くなくとも、異常に強い場合がある。シャロウは世界最強のギルドだからな、そんくらいの神器とかレア装備は腐るほど持っているだろう。



 この聖剣『マレット』を見て思い出すとはな……ソレイユには悪いけど、助かったぜ。



 反撃を開始する……!

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