【134】 ダークエルフ
こっちは三人になった。
向こう……シャロウはバオが斃れてあと四人。
人数差はそれ程ないが……。
「……バオめ、先走りおって……」
目隠しの男が冷静につぶやく。
エフォールだ。
ヤツは、シャロウのNo.6であるが、俺の『レベル売買』スキルを一切頼らず、己の力のみで最強となった男。だから、実力はかなりあると言える。
エフォールは、目隠しをしているから、その表情とかは伺えない。だが、今は何となくだが呆れているようには見えた。
そして、こう口にした。
「向こうさんは、カイト、ルナ・オルビス……それと、帝国最強の騎士・ソレイユだ。俺は、手筈通り……カイトの動きを封じるか」
それに対してエキナセアは指示を出す。
「――そうだな。エフォール、貴様はカイトを。トラモントは帝国の女騎士を相手するがいい」
「ええ~、あたしは見物ぅ~?」
不満そうにコレリックは、浮遊するエキナセアを睨む。
「ルナは、わたしが相手をするのでな。残念ながら、コレリック適任の相手がおらぬのだよ」
「はぁ~? じゃあ、先に戴いちゃうわ!!」
コレリックは命令に背いて、こちらに掌を向け――大魔法を展開した。……おいおい、あのエルフは相変わらず自己中だな。昔からそうだった。
『――――――テンペスト!!!』
風属性の大魔法じゃないか。
ここら一帯、全て吹き飛ぶほどの威力を持つ。まさに暴風雨。
そんなモノが襲い掛かろうとしていた。
ルナが防御しようと前へ出る。
「ルナ!」
「ここはわたしが……ん、この気配はミーティアちゃん」
しゅたっと現れる小さな影。
いきなり……なんだ!?
「お待たせしました、カイト、ルナさん、ソレイユさん! この私も忘れないで欲しいですね……」
なんとミーティアが出現した。
どっから湧いて出て来た!
テレポートか?
それから、ミーティアは変な形をした杖? ――をジャグリングさせるように取り出した。器用なヤツめ。
「なんだそれ!」
「カイト、これはあの大賢者パラディ・アプレミディ様から戴いた最強の杖ですよ。その名も『インフィニティ』です」
杖の頭が『∞』の形をしていた。
面白い形だなと興味深く観察していると、ミーティアはいきなり杖を振って――
「お見せしましょう……ダークコメットを」
まさか……!
「大丈夫。この杖の効果は万能です。なんと、明確な敵にのみダメージを与えられるという優れものなのです! しかも無詠唱!」
凄すぎだろ!!
それも大賢者の力ってワケか……。
で、
ミーティアは――
『大いなる原初……以下略――、
――――――ダークコメット!!!』
と、杖を上に向け、振った。
夜空が蒼白く不気味に光り、雲が帯電する。
その隙間から突然零れ落ちた。
いや、落下したのだ。
暗黒の彗星が。
あんなモン、普通は帝国が滅ぶレベルなのだが……。大賢者の杖『インフィニティ』の効果で被害はゼロ。敵だけにダメージを与えた。
「…………っぶなかったあ」
コレリックの声がした。
どうやら、エキナセア共々退避していたようだ。
「……外した!?」
「ミーティア、外したんじゃない。あれは、エキナセアの特殊能力だよ」
「そんな……ダークコメットが効かないなんて」
「ああ……あれでも世界最強のギルドだからな。魔法耐性100%の装備をしているんだよ。その効果だ。まあでも、敵の大魔法・テンペストを無力化しただけでも良くやったよ」
「そういう事でしたか……」
ミーティアは落ち込んでいた。けれど――他のメンバー、エフォール、コレリック、トラモントに対してはある程度のダメージは入ったようだ。それを証拠に、ヤツ等の顔に余裕が無くなった。
ついでに言うと、バオは戦闘不能になった。
――さて、そうなると。
分散して戦う方が得策だろう。
エキナセアのほぼ要望通りってのが癪に障るが……自然に俺とエフォール、ルナとエキナセア、ソレイユとトラモント、ミーティアとコレリックという構図となった。
「カイト様……」
「心配するな、ルナ。俺だけ案山子ってワケにもいかんだろ。戦うさ……俺は戦闘不向きだけど……せめて、エフォールだけでも」
「……ええ、副マスターのエキナセアはお任せください」
頭を丁寧に下げると、ルナは空高くジャンプして行ってしまった。……すげぇ動きだ。そうか、本当は強かったんだな。
「カイト」
ソレイユが神妙な顔で俺を見る。
「……仕方ないわね、一応、あんたを気にしながら戦ってあげる。死なれても困るし……ほら、悲しむ人がいるでしょ」
「ソレイユ……ありがとう」
「いいってことよ。仲間でしょ」
「ああ、そうだな」
それからミーティアも近寄って来た。
「カイト、私はあのエルフと」
「大丈夫か。相手は生粋のエルフだぞ」
「こちらはダークエルフです。問題ありません」
「そうだな、俺はどちらかといえば、ダークエルフが好きなんだ」
「……っ」
ミーティアは顔を真っ赤にしていた。
「い、いきなり何を言うのです! ……絶対、負けないで下さいね」
どこか嬉しそうにしてコレリックの方へ向かった。……頼んだぞ、ミーティア。
……俺も行こう。
エフォール……ヤツを倒す。