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133/318

【133】 月と太陽

 目の前にはシャロウメンバー五人。

 人数的に不利な状況であるが、俺には『レベル売買』スキルがある。手持ちの所持金を代償に相手のレベルを操作も可能だ。


 これを駆使(くし)する他ないだろう。


 だが、そんな隙を与えてくれるほど相手も生易しくはない。掌を向けた瞬間にも、俺は半殺しにされるだろう。


 一応、ギルドマスター・アトモスフィアが俺を欲しているから、殺されないらしいが……再起不能になるほどには痛い目を見るだろうな。



 敵の様子を伺っていると、トラモントが首をボキボキ鳴らし、エキナセアに対し乱暴に意見を述べていた。



「副マスター、カイトは生け捕りと言ったな」

「そうだ。あの男の『レベル売買』スキルは必要だ。最後のカギ(・・・・・)なのだからな。隣のメイド、ルナ・オルビスも然り」



「ふぅむ。――だが、あのメイドは普通の女ではないぞ。あれは、黒き月・オルビスの力【月と太陽の融合】ではなかろうか」



 ギョロっとした目玉で、エキナセアを(にら)みつけるトラモント。それに対し、彼女は臆する事無く返事をした。



「そうだろうな。しかし、覚醒には至っていない。ギリギリの所で制御しているらしいが、月と太陽に(まつ)わるクエストは……彼女が根幹にあるらしいな」



「そうか……つまり二人とも殺せねえと(・・・・・)



 舌打ちするトラモントは、やや戦意を削がれていた。ヤツは、俺たちを殺す気満々だったか。



 それから、少し後方にいるエルフのコレリックがお腹を押さえ、ケラケラと不気味に笑った。



「ねぇ、エキナちゃん。単刀直入に言うけど、あのカイトは雑魚よ。レベル売買スキルは厄介だけれど、その前に封印する。それでいいでしょ。その為に、特製のパライバトルマリンを用意してあるし」


「うむ。最初からそのつもりだ。エフォール、コレリックを手伝え。わたしとトラモント……バオは、カイトを捕らえる。……おっと、バオ、カイトを殺すなよ。そんな違背は許されない。マスターがお前を殺すだろう」



「うるせぇ……。俺様はカイトを殺す」


「だめだ。マスターのご希望を叶えるのが我々だからな」


「殺す……殺す殺す殺す殺す殺す!!」



 殺意を向けてくるバオ。

 そんなに俺を恨んでいるのか……まあ当然かもしれんが、ヤツは殺人を犯している。それ以前の問題だ。


 こちらとしても許せん存在だ。



「ルナ、俺が全員のレベルを奪う……金はなんとか持つだろ」

「いけません。全員を処理できる程の時間はありませんでしょう。その前にカイト様が酷い目に遭い、生け捕りにされるだけ……」



 前へ出ようとする俺の手を強く握るルナ。

 この手を離したら……俺は確実に後悔するな。



 しかし、相手は待ってくれない。



 バオは(なた)を振りかぶって――



「キエエエエエエエエエエエッ!!!」



 半狂乱に向かってきた。

 くっ……ヤロー、移動速度(アジリティ)に全振りしたのか。走るというよりは、跳んで来る。すげぇスピードで猪突猛進。このままでは……!



 瞬く間に、俺の目の前にバオが――。

 回避不能、絶体絶命のピンチ。


 そして、(なた)が俺の頭をカチ割ろうとした、その瞬間……




 ギンっと鈍い音がして、(なた)を弾いた。




「――――――な」




 俺も、(なた)を振り下ろしていたバオですら驚愕した。高速回転する(なた)は宙を舞って遠くの地面に突き刺さった。




 この感じ……


 鈍い独特の金属音。間違いない。




 あんな独特な赤く燃えるハンマーを扱う騎士は、世界でただ一人しかいないだろう。帝国の騎士にして、ワンマンアーミーの特権を持つ少女。



 桜色の髪を(なび)かせ、彼女は手に持つ聖剣『マレット』を力強く振るった。




『――――――ガグンラーズ!!!!!!!』




 火・水・風・地の四属性魔法攻撃が一気にバオへ襲い掛かる。思わず見惚れてしまうほどの四色が煌めく。怒りの業火となったそれは、バオに鉄槌(てっつい)を下す。




「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――ッ!!!」




 バオの腹部に重く激しくメリ込むハンマー。あの破壊的な威力――肋骨(あばらぼね)を確実に砕いただろう。



 ヤツはゴミのように吹き飛ばされ、トラモントの方へ激突しようとしていた。だが、トラモントはキャッチするどころか回避。



 バオはそのまま固い壁に衝突してしまった。

 ありゃ……起き上がれないな。



「――――ソレイユ」

「おまた~、カイト。ルナ」



 ニッとご機嫌に笑うソレイユは、ハンマーをブンブン回し――華麗に収めた。そうか、駆けつけてくれたんだな……!



「我が騎士・ソレイユ」

「ルナ、あたしは貴女だけの騎士。皇女殿下を守護するのが役目です。――でも、それ以上に友としてルナを守りたい。カイトもミーティアも」



 毅然(きぜん)とした態度でソレイユはまた笑った。



 ……まったく。

 これじゃ文句のひとつも言えない。



 ありがとう、ソレイユ。

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