【123】 最強ギルドの目的
トニーによれば倒れている男はなんと……。
「シャ……シャロウのメンバーだって?」
「そうだ、この男……『ビザール』は、カイト、お前の情報を買いたいと僕のところを訪ねて来てね。大切な友人を売る真似ができるかと、追い返したところだった」
そうだったのか……。
さすがトニー! 俺の大親友である。で――まさかのシャロウとはな。やっぱり、この【帝国・レッドムーン】に潜入済みだったか。
「カイト様……」
不安気に俺を見つめるルナ。
彼女は守らないと。俺は目でソレイユとミーティアに合図した。
「分かっているわ。ルナ、こっちへ」
ソレイユにルナを任せ、ミーティアは何故か俺の前に。
「え、ミーティア?」
「カイトは我々の社長ですよ。トップの身に危険がある以上、部下が守らねば……そうでしょう」
そんな真剣な眼差しで俺を――。
ちょっと泣きそうになっちまったじゃねぇか。
ミーティアは本当に成長したな。
けど……。
俺はミーティアの肩に手を置き、感謝した。
「ありがとう、ミーティア。でも、この男には聞き出さなきゃならん」
地面で無様に倒れているシャロウメンバーの男、ビザールの前に立ち、俺は警戒しつつも訊ねた。
「おい、お前……俺の情報をどうするつもりだった?」
「…………クク、クククク。カイトォ、久しぶりだなァ……。お前は覚えていないと思うが、オレサマは覚えているぜぇ」
あの一人称と荒っぽい口調……どこかで。
雰囲気もどことなく『バオ』に似ている。
……そうか、顔が随分と変わっていて忘れていたが、その声は分かった。こいつはバオの弟だ。名前も変えていやがったとは……犯罪にでも手を染めていたのか?
「お前……マッドか」
「そうさ、やっと思い出したか! きええええええ!!」
ビザールは発狂し、俺に向かってきた。
瞬時に自身をレベルアップさせ、緊急回避。
迫りくる拳を躱した。
「――――っぶねぇ!!」
「……外しただと! 貴様……自身に『レベル売買』スキルを! 使用はしないんじゃなかったのかよ……! 一丁前に豪語していた商人のルールとやらはどうした!」
キッと睨んでくるマッド――いや、今はビザールか。
「遵法精神を曲げた覚えはないよ。だが、ルールやマニュアルというものは、常に最良のものへと改定されるものだ。それが絶対とは限らない……臨機応変こそ商人足りえる。てか、お前に以前言ったのは俺ルールであり、心得みたいなものだからな」
「へっ、そうかよ。じゃあ、この女を人質に貰うぜ!!」
ビザールは、ダンッと飛び跳ねるとルナを――くっ!
「……ヒヒヒヒッ、形勢逆転だなァ! カイト! このメイドがよっぽど大切らしいな。お前はこの女ばかり気にしていたから……分かりやすかったぜぇ~」
クソッ……視線を追われていたか。
「要求はなんだ、ビザール」
「……シャロウへ戻ってこい。それがギルドマスター・アトモスフィア様の望みだ。それとアニキがお前を待ってるぜぇ~。あの【セイフの街】以来、アニキはご立腹だ。お前に傷つけられた後遺症が残っちまったからなァ……」
じゅるっと舌を出し、ルナをガッチリホールドするビザール。
野郎……!
だがなるほど、バオはまだ生きていたか。
「俺はシャロウへは戻らない」
「戻らねえ? いいのか、このメイドがどうなっても……」
ビザールは、ルナの顔を舐めるような動作を――クソ、クソが!! それ以上はもれなく殺す。
頭に血が上りそうだが、冷静になれ俺。
どうするか悩んでいる最中――、
クイクイと服を引っ張られた。
ミーティアだ。
「どうした……」
「魔法を使います。ソレイユさんとも打ち合わせ済み……いけますよ」
ほう、これは乗るか。
俺はソレイユにもアイコンタクトをした。すると、向こうも『オッケー』と認識してくれた。ルナ救出作戦開始だ……。
まずは俺がヤツの気を逸らす。
「……分かった、ビザール。でも、ひとつだけ教えてくれ」
「なんだ」
「あの独裁者・アトモスフィアは……どうして俺なんか必要にしている?」
「おっと……マスターを悪く言うんじゃねぇ。あのヒトはいずれ……世界の王となるのだからな……ククク」
世界の王?
そんな話は聞いた事がないぞ。
「どういうことだ」
「不可能とされている【月と太陽の融合クエスト】をマスターなら達成できるだろう……。その境地に到達した瞬間……あのヒトは世界の全てを手に入れるのだ」
【月と太陽の融合クエスト】!?
まて……
【月と太陽の誓約クエスト】は知っているが……なんだそれは! そんなクエストが存在するのか――。
「…………」
「驚いているな、カイト。気になるなら戻ってこい……! 今ならアトモスフィア様が世界の真理――『プラグマティズム』へ導いて下さるぞ!」
プラグマティズム……結果主義のアレか。
「それを目指している? なんの意味がある」
「あるさ。この世界は『レベル』という厄介な呪いに縛られている。どのような種族もレベルが全て。この世に生まれた者は、全員がレベルによる結果で決まってしまう。そんなクソみたいなモノを失くす……それがギルドマスター・アトモスフィア様のご意思だ!!」
「なんだって……」
本当か嘘か分からない。
俺はギルドマスターとは、まともに会話した事がないからな。
思った以上の返答に焦っていると――
ミーティアが服を引っ張って来た。
救出開始……!




