【102】 高レベル症(ルナ視点)
わたしの病気は『高レベル症』だった。
レベルというものは、一度上げたら下げられるものではない。二度と下がらないし、そんな便利な技はない。
これは人間のステータスを決めるものだと、父は言っていた。
わたしは何故か幼い頃からレベルが高くて、気づけば『Lv.9999』だった。どうやら【月と太陽の誓約】がそうさせてしまうらしい。理屈は分からないが、一種の呪いのようなものかもしれない。
原因不明とはそれだけで恐ろしい。
理由が分かればせめてもの救いはあった。
でも、分からない。
あるのは結果だけ。
それは『不治の病』として診断され、死の宣告へと変わった。わたしはもう間もなく死へ誘われるだろう。
そう思っていた。
――だが、ソレイユがわたしの目の前に現れ、運命を大きく変えてくれた。
……彼女は『キッカケを与えたにすぎない』と謙虚に引いた。それでも、わたしはあの時、チャンスをくれた彼女こそが救世主だと思った。
だって、彼女は教えてくれた。
『かけがえのない残りの人生じゃない』と。
だから私は必死に生きた。
生きて生きて、毎日を生き延びた。
――ある日。
「へぇ、ルナ。最近、微笑むようになったわね。その方が可愛いわ」
わたしの髪を優しく梳いてくれるソレイユ。
今日は特別にそれを許した。本来、わたしには専属のメイドがいる。けれど、そのメイドにすら髪は絶対に触れさせない。他人の手が触れるなんてゾッとする。今まではそう思っていた。
「……ありがとう、ソレイユ。とても嬉しい」
「うんうん。ルナってさ、お淑やかならすっごく可愛い。そんな皇女らしい威厳ある雰囲気じゃなくてさ、もしも恋人とか出来たら、絶対メイドのような落ち着きのある性格が似合うと思う。ていうか、男を落とすならオススメよ」
――と、ソレイユは外の世界で流行っているらしい、女の子らしさを教えてくれた。……なるほど、そういう慎ましい性格が男性には人気があると。
でも、わたしには分からない。
恋人ってどんなモノなのだろう?
◆
それから、夜。
また赤い月がまん丸と――。
どこか青味の掛かった色合い。
そんな大きな満月。
もう死期が近いのかもしれない。
今夜の月は、まるでわたしを嘲笑うかのような――そんな、光をわざとらしく向けていた。とてもとても残酷で――
ああ、今宵は―――赤き月が―――きれい―――だ―――。
◆
翌朝……。
早々に『クラールハイト』のブラック卿が姿を現した。男は我らと盟約交わす者。七人いる貴族のひとりだ。
ブラック卿。
髪の毛から細部に至るまでその全身がほぼ黒い。唯一、肌だけは白いがそれだけだ。年齢は40前後だろう。黒い髭を蓄えそれなりに貫禄があった。
皇帝は顎をしゃくり、彼に問う。
「そのような慌てた様子で何用じゃ、ブラック卿」
「――はっ、その……昨晩はあの百年に一度の『スーパーブルーブラッドムーン』でありました……」
「ほう、そうであったか。それは耳に入れておらんかった。しかし、それがどうしたのだ」
「はい、その現象と我が娘『ミーティア』の魔法が偶然にも重なり……『召喚魔法』を唱えてしまったのです……」
「召喚魔法とな? そういえば、お主には養子の娘がおったな。そうか、その娘が……だが、そのような幼子であれば、たいした魔法ではあるまい」
ブラック卿は恐縮し、震えた。
そして、土下座し詫びた。
「もももも申し訳ございません、皇帝陛下!
なんと――その『召喚』を奇跡的にも成功させてしまったのです。娘は……ああ見えても、ダークエルフの血も流れています故。しかも、人間の男を呼び……『レベル売買』などという特殊で特異なスキルまで与えてしまったのです。つまり、これは伝説と呼ばれた【月と太陽の誓約クエスト】の達成と同義なのです」
ガタッと……玉座から倒れる父。
その顔は青ざめ……今にも失神しそうだった。
「あ……ありえぬ! あれは数千年に及び……代々へと語り継がれた伝説のクエストであるぞ!! それが、なぜ、勝手に達成された!」
「わ、分かりかねます。で、ですが……ひとつ朗報がございます」
「……申してみよ」
「ルナ様です。ルナ様の不治の病を治療できるのではないでしょうか! ここはどうか、ルナ様にお役立てをと……申し上げたい次第であります」
「…………!」
父はその事の重大さに気付いた。
いや、わたしでさえ目を白黒させ、過呼吸になりかけていた。
「ブラック卿。その情報は確かなのだな!」
「――もちろんでございます。ですが、今……男は『エクリプス家』へ預けているのです。我がクラールハイト家では持て余すもので……」
後々聞いた事だが、ブラック卿は責任追及を逃れる為に、男をエクリプス家へ押し付けたのだとか。――今となっては不問となったが、エクリプス家とは少し関係が悪化したとか何とか。
それから直ぐだった。
わたしとその男の面会が決まった。




