【100】 ガグンラーズ
レッドゴブリンは『Lv.1』に落ちた。
レベルが極端に下がったモンスターの動きは鈍く、先程の狂暴さは消えてしまっている。これでは『ゆるキャラ』のようだな。
Lv.1ということは、ステータスなんぞ『ALL1』。
スライムも同然なのである。
これでソレイユでも余裕で倒せるだろう。
「必殺!」
彼女は声高らかに突進。ハンマー聖剣を強く握り、迅速に間合いを詰め――華麗にハイジャンプしてみせた。
……なんて美しいフォーム。
そのひとつひとつの動作があまりに鮮烈で、呼吸を忘れてしまうほど魅入ってしまった。そして、ソレイユはスキルの名を叫び、聖剣『マレット』を下した。
『――――――ガグンラーズ!!!!!』
火・水・風・地の属性魔法が大嵐のように吹き出し、敵に向けて莫大なエネルギーを放射。レッドゴブリンを覆った。……いくら何でもオーバーキルだが、派手でカッコイイので良しとする。
気になって俺は、彼女のスキル詳細を覗いた。
★★★ ★★★ ★★★ ★★★ ★★★
【ガグンラーズ】Lv.5(MaxLv.5)
【系列】攻撃
【習得条件】ファントムブレイズ
【効果】
対象:敵/広範囲レンジ
聖騎士専用。
ハンマー系武器限定スキル。
二連攻撃を発生させる。
①
敵に対し破壊的な一撃を放つ。
四属性魔法ダメージ3000%。
②
火・水・風・地の属性魔法を放つ。
あらゆるスキルが発動する。
魔法ダメージ1000%。
[Level.1]:①を+1000%。
[Level.2]:②を+1000%。
[Level.3]:①を+1000%。
[Level.4]:②を+1000%。
[Level.5]:有効レンジ+10。
★★★ ★★★ ★★★ ★★★ ★★★
――で、油断していれば、
『――――――!!!!!』
更に大爆発が起き、火は敵を焦がし、水は途轍もない水圧が、風は鎌鼬を起こし、地は大地を槍のように突起。そのコンボ攻撃が続いたのである。
こ、これは隙を生じぬ二段構えってヤツか! すげぇな。
「なんて風圧っ……!」
ルナの『グロリアスプロヴィデンス』が無ければ、今頃吹き飛んでいただろう。おかげで命拾いしたな。いやしかし、二回も大爆発が起きるとはな。
さすがのレッドゴブリンも力尽きて消滅した。
まったく、ソレイユのヤツ……こんなカッコいい必殺技を持っていたとはな。あれだけの威力で必殺だから、相当な魔力がなければ発動できないだろうな。ひょっとしたら、あの『聖剣』自身が持つ特殊な効果があるのかもしれん。
「グッジョブ! お疲れ、ソレイユ!」
「カイトのレベルダウンのおかげよ。ごめんね、大事な資金使わせちゃって」
「いや良いんだよ。これで無事に帝国へ入れるし」
「ご苦労様です、ソレイユ。素晴らしい活躍でした。お身体の方は大丈夫ですか?」
「お気遣いどうも。いや~、カイトのおかげだって。ルナこそ、なんか色々スキル使っていたわよね。も~、みんな隠し持ちすぎでしょ~」
そうかもしれない。
でも、ミーティアじゃないけどサプライズがあった方が面白いからな。結果オーライってことで。
「うぅ、私ももっと貢献したかったです。……今度は、私もダークコメットを披露しますよ!」
そういえば、ミーティアのそれはまだ見た事なかったな。余裕で街ひとつ吹き飛ばせる禁呪スキルだからなー。使う機会があるのかどうか……。
「――さて、これでもう入国できるよな」
そう俺がつぶやくと、ルナが俺の前に。
「ありがとう」
ペコリと丁寧にお辞儀された。
「いや、俺の方こそありがとう。ルナがいなかったら今の俺はなかったわけだし、ソレイユやミーティアにも出逢えなかった。あのセイフの街から、この帝国・レッドムーンまで来れた。これは凄い奇跡だよ。だから寧ろ感謝するのは俺の方さ」
顔を近づけてくるルナ。かなり近い。
赤い瞳――まるでストロベリームーンのような色彩。手を伸ばしても届かないような、儚げな存在がそこにはあった。
これは……あの雨の日。
俺を救ってくれたあの時、彼女が向けてくれていた瞳そのもの。
雨の音が聞こえる。
傘をさす少女の姿が見えてきた。
腰を低くし、泥まみれの俺を見下ろす少女。
あの刹那――ルナは、なにか、つぶやいていた、ような。
(…………ありがとう…………)
…………そうだ、思い出したよ。
ルナはそう俺に声を――。
「……カイト様?」
心配そうに顔を覗き込んでくるルナ。
……あれ、あの不思議な感じがもうない。気のせい……だったか? 何だったんだ今のは。白昼夢でも見たのか、俺は。
「ああ、いや……何でもない。
それより、俺はみんなと一緒にお店を続けたいし、もっともっと儲けて世界一の商人になりたい。もちろん、シャロウにも復讐できる機会があればする」
そう、まだ『No.3』の男・バオを倒しただけ。
これからきっと、俺を追放した張本人で『シャロウ』のギルドマスター『アトモスフィア』と対決する日が来るだろう。それと、少し前に姿を現した副マスター『エキナセア』とも。
現在、世界最強ギルド『シャロウ』は【共和国・ブルームーン】に拠点を置いているらしい。そこで息を潜め、不気味なくらい静まり返っているのだとか。
とても嫌な感じだ……。
でもきっと大丈夫。
この【帝国・レッドムーン】にいる限り――安全だ。
――――さあ、始めよう。
レベル売買を。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――――。
わたしは彼に出逢い、たくさんの大切なモノを貰った。返そうとしても返せないほどに。だから、わたしはメイドとして彼に尽くし続ける。ずっと穏やかな時を過ごしてゆく。
それがわたしの望み。
その悠久を壊そうとするのであれば……
わたしは絶対に『シャロウ』を許さない。
この【帝国・レッドムーン】に帰郷した以上、シャロウもより活発に動き始めるに違いない。でもいい、今は干渉しないのなら様子を見ましょう。
わたしは、カイト様と一緒にいられるのなら……
それ以上は望まないのだから――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ああ、今宵は―――赤き月が―――きれい―――だ―――。
◆あとがき
【セイフの街】編はこれにて完結です。
ここまでお付き合い戴き、誠にありがとうございました。多くの評価やブクマをして戴き、大変嬉しいです。ただただ感謝の言葉しかありません。
以下はオマケの登場人物のスペックです。
(※多少変更される場合があります)
◆カイト
JOB:商人
SPEC:170cm / 63kg / 男
基本Lv.1。
世界で唯一【レベル売買】が出来る。
大手にして世界最強のギルド『シャロウ』に所属していた。追放された後、ルナと出逢い、世界で唯一の店を出す。店の名は『イルミネイト』。
◆ルナ
JOB:メイド
SPEC:154cm / 42kg / 女 / 推定16歳
元Lv.999。現Lv.1。
カイトを救い、店を一緒に出したメイド。
シャロウに所属していた為、カイトの気持ちを理解し、支えている存在。どん底にいたカイトを助け、レベルの全てを売った。そのお金で店を作った。
赤黒いメイド服。髪の色はクリーム色。ロングヘア。巨乳。カイトから買って貰った黒いリボンを結んでいる。
◆ソレイユ・エクリプス
JOB:帝国騎士
SPEC:160cm / 45kg / 女 / 推定16歳
元Lv.2750。現Lv.750。
帝国の女騎士。
男遊びをしまくった結果(?)、貧窮してしまった貧乳。その剣技は確かで、店の用心棒として大活躍。
聖剣『マレット』を持つ。
※ゲートボール用クラブ。ハンマー形状
帝国・レッドムーンに仕える。
特権で『ワンマンアーミー』を許され、自由行動をしている。
明るい性格。ミニスカフトモモが特徴。
モミアゲのような長い髪をしている。
甘いものが好き。
◆ミーティア・クラールハイト
JOB:魔法使い
SPEC:152cm / 40kg / 女 / 推定14歳
Lv.1200。
エルフとダークエルフのハーフ。
敵対する『ファルベ家』の罠に嵌められ、2億の借金返済のため、レベルを売りにカイトのもとを訪れた。だが、ルナの説得のおかげで、それを肩代わりしてもらった。イルミネイトで働くことで、借金の返済をしている。
丁寧な言葉遣いで、常に冷静。たまに饒舌。
薄着のワンピースのような衣装。ローブ。
おでこを全面に出したセミロング。
金髪(ちょっと黒も混ざってる)。
辛いもの好き。