月夜の晩
よく「月夜の晩ばかりじゃねぇぞ!」
という脅し文句があります
ホントの所はどうなんでしょうか?
がらがらがら
「ちょ、ちょっとアニキ。大丈夫ですか?」
「るっせぇ」
路地裏に突っ込み
ゴミ箱をひっくり返している
アニキと呼ばれた男、ジーマは千鳥足でふら付いていた
「タクシー呼んできますから、ここで待ってて下さいね」
舎弟分のタキは座り込んだジーマに声をかけると
タクシーを呼ぶべく大通りに向かっていった
「ふーふー」
ジーマは酔いの回った頭で少しばかり考え事をしていた
「・・・久しぶりのシャバで、少しばかり飲みすぎたかい?」
不意に声を掛けられる
見上げるとベースボールキャップを目深に被った
痩せ型の男がタバコに火をつけているところだった
「誰だ、おめぇ?」
ジーマが声をかけると
タバコに火をつけた男は
その問いには答えずに
煙をジーマに向かって吐いた
「ぷっ、けむ・・・」
顔に煙をかけられたジーマは
苛立ちから立ち上がろうとするが
その肩を痩せ型の男に抑えられる
「10年前も、こんな感じの夜だったかい?」
痩せ型の男にそんな言葉を掛けられる
ジーマは10年前の記憶を思い出していた
ジーマは組織のメンバーだった
体格もよく格闘技の経験もあり
腕っぷしも強かった
背中一面に和彫りの入れ墨も施し
順調に出世街道を歩んでいた
だが
敵対する組織にトレーラーではねられて
下半身を複雑骨折してしまい
組織からの引退を余儀なくされてしまった
長く入院生活を送り
ようやく退院となったが
組織から見放されたジーマには迎えは無かった
そんな中
地元の学生時代の仲間が彼に手を差し伸べる
未だ足の不自由だったジーマの為に
車を持つ後輩を連れて来て彼を送迎してくれたのだ
その仲間も学生時代の悪仲間なのだが
現在は落ちぶれて細々と生きている口だった
ジーマは彼に感謝しか感じなかった
「そんな”彼”を、貴様は殺したな?」
心の中を見透かすように痩せ型の男はジーマに詰め寄った
「ち、違う!殺すつもり何て、無かったんだ!」
ジーマは被りを振る
10年前、ジーマは件の彼と酒を飲み
口論になったことから
彼を殴り倒していたのだ
意識不明になった彼はその後、帰らぬ人となり
ジーマは10年の服役刑を受けて
今日、出所して来ていたのだ
「気を失ってるあいつを、何度も何度も殴ったって、な?」
ふと見るともう一人、痩せ型の男が増えていた
「違う!あいつは、あいつは!」
「言い訳なんて見苦しいぜ」
ジーマが狼狽する横に、新しく人が増えていた
よくよく見るとジーマの周りは何時の間にか
大勢の人間で埋め尽くされていた
その全員が、ジーマに殺意のこもった目を向けていた
「ちが、むぐっ・・・」
喚き散らすジーマの口にガムテープの様なものが張り付けられた
その身体は身動き出来ない様に既に押さえつけられている
「むーーっ、むーーーっ」
ガムテープ越しに何かを叫んでいたのだが
言葉にならない
正面に最初に話しかけてきた
痩せ型の男がしゃがみ込んで
ジーマに話しかける
「アンタ、やりすぎたんだよ」
そう言って帽子を取った男の顔は・・・
「あれ?アニキ・・・?」
タクシーをようやく見つけて
ジーマが座り込んでいた路地に来た
舎弟分のタキが見つけたのは
小さな水たまりだけだった
その頭上には
真っ赤な色になった
満月が浮かんでいた
時が経っても許せない出来事がある
調子に乗ってると必ず返しがくる
自分も気を付けよう・・・