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しゃもじ おひつ の オムニバスゥ   作者: しゃもじ おひつ
3/16

オオエヤマ の オオテング

ケイチョウ6年

ヒノモトの国の夜空に

怪しいホウキ星が流れた


ホウキ星は大小無数の欠片に分かれ

国のあちこちに落下した

その欠片は国に住むヒトや獣に

吸い込まれるように消えていった


・・・そして10年の時が流れた・・・

「ぬぅん」

背中に生えた翼のはためきが真空を巻き起こし

カマイタチとなって前方に繰り出される

風の刃はそのまま真っ直ぐに飛んで行き

前方に見える山肌の木々の枝を切り倒し

剪定を行った

「ふむ・・・まずまず、か」

宙に浮かぶその人物

背中に大鷲のごとく生えた翼でもって

空中姿勢を保っている

自身の起こしたカマイタチで

自身の住まう”オオエ山”の木々の剪定を行っていたのだ

「てんぐ、さまぁーーーーーーー」

「む?」

遙か下方から呼ぶ声がして

空中に浮かぶ人物はそれを目視した

見ると村娘のオキクが

手にカゴを持ち

此方に手を振っている

「ふふ、あやつめ」

そんな言葉を漏らしながら

”てんぐ”と呼ばれた人物は

村娘のオキクの側へ降下していった



「今日も、お山の枝を切っていただか?」

ややなまりのある話し方で

話し掛けてくる

「前にも言ったであろう?むやみにこの山へ近付くでない、と」

ややきつい口調でいさめる”てんぐ”

「でもぉ・・・おらぁ・・・」

もじもじしながら答えるオキクに

少しばかりの欲情を起こした”てんぐ”は

「おほん。まぁ、よい。して、今日はどうした?」

無理矢理上を向き

咳払いなどをしつつ質問する

「えへへ。今日は、畑のお芋の差し入れだぁ」

照れた風な”てんぐ”の気配を感じつつ

手に提げたカゴを差し出す

中には見事に肥えたサツマイモが数本入っていた

「おぉ、何時もすまんの」

答えつつ、サツマイモの入ったカゴを受け取る

「えへへ。今日はもう畑仕事が終わったけぇ、時間あるんだぁ」

「なんじゃ。また空の散歩がしたいのか?」

照れながら話すオキクにずばり核心を突いた台詞を言う

「お願いだ、てんぐさまぁ」

両手を目の前で合わせて拝むような仕草をするオキクに

やれやれ、といった感じで頷く”てんぐ”

「やったぁーー」

喜ぶオキクをぐい、と抱きかかえると

「いくぞ!」

叫ぶやいなや

背中の翼を展開させ

大空へ羽ばたくのであった


「うわぁ、村があんなに小さく見える」

空中散歩と称した飛行行動を楽しむオキク

「ふふふ。ワシも初めて宙を飛んだ時はそうであったな」

オキクの嬉しそうな声を聞いて

”てんぐ”は自身が初めて空を飛んだ時の事を述懐する

「えぇぇ?てんぐさまも、初めて宙を飛んだ時は嬉しかっただか?」

「無論じゃ。ワシもそれまでは宙を飛んだ事は無かったからの」

「へぇぇ、以外だぁ」

たわいも無い会話が続く中

”てんぐ”はオオエ山の周りをぐるりと周回する

「あ、おっとうとおっかぁだ!お~~~い!」

ふもとの村に近付いた時

オキクの両親の姿が見えた

それに向かって手を振り

大声を上げるオキク

・・・もう何度目になるのだろう?

”てんぐ”は初めてオキクに出会った時の事を思い出し

感慨にふける

「ところで、てんぐさまぁ」

急に真剣な声色を出しオキクが尋ねてくる

「ん、どうした?」

”てんぐ”も調子を合わせて問い直す

「何でも都の方じゃ、また戦が始まりそうだって・・・」

そう言うとオキクは”てんぐ”の上着を握りしめる

「ほう?何も珍しい事ではあるまい?」

”てんぐ”はそう返す

確かに戦は珍しくは無い

一昨年までこのヒノモトの国では戦続きだったのだ

「折角、都でエライ侍大将がお殿様になったと聞いたのに」

そう言いつつもオキクは上着を握る手を緩めない

「お殿様がだまし討ちに遭ったって」

「その話、どこから?」

”てんぐ”も気になりオキクに問いただす

「うん。昨日薬売りに来た行商さんから」

「・・・そうか」

”てんぐ”も世俗にはうとい方だ

こんな田舎では都の動きなぞ分からない

最も、背中に生えた翼でひとっ飛びすれば

直ぐに情報なぞ集められるだろうが

この異形は目立ちすぎる

「・・・てんぐ、さまぁ」

「ん・・?」

「おら、戦になって死んじまう位なら・・・」

「・・・」

「てんぐさまに・・・」

オキクのうるっとした声色に

”てんぐ”は心の中で頭をぶんぶん振ると

「これ。その様な事を考えるでない」

と、無理矢理大人ぶって空中を急旋回した



オオエ山の天辺にある

”てんぐ”の住処に二人は降り立った

「あぁ楽しかった!」

地に降りるなり、オキクはそう言って

ぴょんぴょんと地面を跳ね回る

「これこれ、あまり跳ね回ると転ぶぞ?」

”てんぐ”は空の散歩から戻ったばかりで

恐らく平衡感覚が鈍っていると思われるオキクを心配した

「大丈夫だぁ~~」

何処かのコメディアンの決め台詞みたいなことを良いながら

オキクはくるくると回りながら踊っている

やれやれといった感じで”てんぐ”は

土産のサツマイモの入ったカゴを家屋の台所に持って行く

カゴを台所の台の上に置くと

自身の手が震えているのに気が付く

「む・・・」

最近、頓にこういった震えが来るようになった


10年前のあの日・・・

大きなホウキ星が流れたあの日

分かたれた欠片の一つは

この胸の中に吸い込まれていった

その晩、激しい痛みが一晩中起こり

一睡も出来なかった

翌朝気が付くと

体は二回りも大きくなり

背中には大きな羽根が生え

顔は醜く焼け爛れたようになってしまった

・・・それ以来人目を避け

オオエ山に籠もり

”てんぐ”と呼ばれる所以となった面をつけて

生活するようになったのである

「あれは・・・何だったのだろうか・・・」

手の震えを見ながら昔を回想する”てんぐ”

「きゃっ」

外でオキクの悲鳴が聞こえる

きびすを返して外に出ると

案の定、オキクが転んで倒れていた

「ほーら、いわんこっちゃぁない」

言いながら助け起こす

「いたーい・・・」

オキクも言いながら膝小僧をさする

「そら、そこの切り株に座りなさい」

”てんぐ”はオキクを庭先にある

木の切り株に座らせる

天然の椅子代わりだ

「大丈夫か?怪我などは無いか?」

痛がるオキクに優しい言葉をかける

「うぅ・・膝小僧が・・・」

オキクが着物の裾をめくり上げ

膝小僧を確かめる

その仕草や、現れた艶めかしいふくらはぎが

”てんぐ”の欲情を刺激する


ごくり



思わず喉が鳴る

だが、しかし

これは



”食欲”だ!!



それに気付いた時

思わず”てんぐ”は立ち上がった

「・・・?てんぐ、さま・・・?」

何事が起きたのか分からず

オキクは訝しむ

「・・・今日はもう帰りなさい」

「え・・・」

「送っていく。裾を直しなさい」

有無を言わさぬ”てんぐ”の迫力に

オキクも思わず姿勢を正す

「ゆくぞ」

先程とはうって変わった態度の”てんぐ”に

オキクは戸惑うばかりであった



「ぬがぁぁぁぁっ!!」

”てんぐ”は自分の家屋で荒れた

オキクを村まで送り

オキクの両親に御礼などを述べられたが

そんな交わす挨拶ももどかしく

自宅に飛び帰ってきたのだ

そして

「なぜだっ!!なぜっ!!」

先程沸いた”欲情”ではなく”食欲”に

”てんぐ”の心はかき乱されるのであった

ひとしきり暴れて

柱などをへし折り

半壊してしまった家屋を出て

先程オキクが腰掛けた切り株に腰を下ろす

大きく溜息をつき

オキクとの出会いを思い出す


オオエ山は深い谷もある自然豊かな山だ

麓の村に住む人々が

山の幸などを求めてよく出入りしているのだ

そんなる日

切り立った崖から落ちそうになって

泣いているオキクを発見した

恐らくだが山菜等を取りに来て足を滑らせたらしい

危うく谷底に落下しそうになるのを

たまたま通りかかった”てんぐ”が

空を飛んで助けたのが始まりだった

オキクは面をつけた”てんぐ”を怖がらず

むしろ、好意を抱いて接してくれていた

オキクの両親も概ね、その事には寛大だった

何しろ10人程の大所帯の家族だ

娘の一人位、どうと言うことは無いのであろう

それからというもの、事ある毎に

オキクは”てんぐ”の元に遊びに来ていたのだった

だが・・・



大人びた風情を醸し出してきたオキク

とはいえ年の頃はまだ13,4才か

戦国の世の習いでは

その年頃で嫁に行くのも珍しくは無い

”てんぐ”とて年の頃合いは

まだ20代後半だ

人里離れた山奥で暮らしているとはいえ

いっぱしの大人だ

若い娘に欲情を抱いても何らおかしくは無い


しかし


”食欲” だ



10年前に姿形が変わったあの日から

”ひと”としての生活は諦めた

だが己を慕ってくるオキクや

身なりで差別をしないオキクの両親

その縁で知り合った麓の村の住人達

ようやく化け物となった身に

人並みの”幸せ”が訪れようとしている矢先に

”食欲”だとッ!?

”てんぐ”は昼間のオキクに感じた情を思い出す度に

自己嫌悪におののくのであった





滝に打たれていた

オオエ山の奥には

ケゴンの滝と呼ばれる滝があった

”てんぐ”はそこで座禅を組み

丸一日滝に打たれていたのだ

無論、脳裏に浮かんだ

オキクに対する”食欲”を打消す為に

すると

「!」

気配、を感じた

これまで感じたことの無い

胸がざわざわする、この感じ

・・・ホウキ星の欠片が飛び込んだ胸が、アツイ!

「これは・・・!」

”てんぐ”はただならぬ予感がして

直ぐさま滝から飛び出た

身支度を調えると

自分の住処へ急ぐ

「やぁやぁ、こんなとこに隠れてやがったか」

半壊したままの家屋の庭に

二人の、いや・・・

二匹の、化け物が立っていた



「・・・ヌシら何者ぞ?」

”てんぐ”は二匹にそう尋ねる

「俺ら?俺らか?」

「フフフ。分からぬ訳ではあるまい」

二匹はそう言い放つと

着物の胸をはだける

「!」

二匹の胸には鈍い光を放つ痣があった

それは奇しくも自身の胸にもある

ホウキ星の飛び込んだ”痣”だ

慌てて”てんぐ”も自分の胸をはだけると

同じように痣が光を放っていた

「ほぇ!驚いた!アンタの痣は、でかいな!」

「御同輩、だよ。俺達はな」

二匹はそう言うとげらげらと、笑った

「御同輩、だと?」

胸のはだけを直し

警戒心を強める”てんぐ”

よく見ると二匹とも

焼け爛れたような顔を隠そうともしていない

「そうさ!アンタ、てんぐの面なぞかむってるが、その下にゃ俺達と同じ」

「焼け爛れた顔があるだろ?」

そう言いながら二匹は何かをぼりぼり食べ始めた

「何の用があってここに来た?」

”てんぐ”はまだ警戒心を解かない

「何の用って、アンタを呼びに来たのさ」

「呼びに来た?」

「そおよぉ」

二匹の内、片方が木の切り株に腰を下ろす

「10年前のホウキ星が、俺達をこんな姿に変えちまったよな?」

「・・・」

「おかげで男前が台無しだ・・・だがよ」

立っていたもう一匹が庭隅に歩いて行き

そこに生えている杉の木を片手でメリメリと握りつぶした

「常人離れした”チカラ”を手に入れたって訳だ」

超常的な力で幹を失った杉の木が轟音と共に倒れる

「それがワシに何の関係がある?」

「大ありよぉ!」

膝をぱん、と叩いて大袈裟に身振りをする座っている一匹

「この”チカラ”を使ってこの国をまとめようって”大将”が現れてな」

更に腰からぶら下げていた物を取り出し、ぼりぼりかじる

「こうやって国のあちこちに居る”お仲間”を探してたって訳よ」

ぼりぼり

「まさかこんな田舎の山に居るとはねぇ。気が付かなかったって」

ぼりぼり

「で、どうだい?一緒に帰って”大将”にそのチカラぁ貸してくんねぇか?」

ぼりぼり

「・・・人と話している時に、モノを喰いながら話すんじゃねぇ・・・」

先程から会話の合間にぼりぼり何かをかじる二匹に

”てんぐ”はすっかり嫌悪感を抱いていた

「ん?あぁ、ははは!こりゃあすまねぇ!うっかりしてたな!」

額に手をぱん、と当てて

切り株に座っていた一匹が

「そら、これをやるよ。”お頭付き”だ!」

そう言って腰にぶら下げていた何かの中から一つ

”てんぐ”に放り投げた

どさりと、足下に転がった


それは


無残にも胸から袈裟懸けに引き裂かれた


オキクの



亡骸 だった








もはや何がどうなったのか

覚えてはいない

”てんぐ”は、ようやく我に返った

周りを見ると

細切れの挽肉と化した

二匹の死骸が散らばっており

オキクの生まれ育った村も

恐らくだが二匹の襲来によって

焼け野原になっていた・・・

ふと、手元を見ると

オキクの頭だけを

しっかりとわしづかみにしていた

こんなにも小さかったのだな・・・

そんな事を思いながら

”てんぐ”は涙を流し

オキクの頭を

ひとのみにした


細切れにしてやった二匹から

ホウキ星の欠片が抜けだし

自身の胸に吸い込まれていったが

”てんぐ”は気付いていないようだった

ぎり、と奥歯をかむと

”大将”の住まう都へと

”てんぐ”は向かうのであった

実際の時代背景と実在する地名とは

何の因果関係も繋がりもありません

※つまりフィクションです

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