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しゃもじ おひつ の オムニバスゥ   作者: しゃもじ おひつ
17/17

嗚呼、青春の日々!!-2

20代

人によっては大学生だったり、社会人だったり

はたまたすでにリタイアして永久就職(例えが古い)

年老いてから振り返ると毎日が忙しくかつイベント目白押し

・・・だった様な気がする

「・・・シガか?」

寮の扉から弱弱しい声がする

間違いなくヨコタニ・・・職場の先輩・・・の声だ


日々を工場で働く俺・・・シガ・マサル・・・は

とある週明けに出勤時間にもかかわらず出社しない

ヨコタニの様子を見に寮の部屋まで来たのだが

「大丈夫すカ?」

余りに弱弱しい声にこちらも心配になって小声になる

きい

と年代物だがしっかりとした作りの鉄の扉が薄く開く

「おう」

薄く開いた扉の隙間からでもハッキリと分かる

ヨコタニの片目が「ぼっこり」腫れあがっていた

「ど、どうしたんすカ?」

更に小声になって問いただす

「でかい声出すな」

小声で言ったにもかかわらず、でかい声とか言われてしまう

少し沈黙があた後

「・・・仕事・・・」

俺は絞り出すように声をかける

「あ、ン・・・これじゃあよぅ・・・」

ヨコタニは下を向き、ぼそぼそと呟く

「とにかく、このざまじゃ出社できねぇ。悪いけど係長には上手く言っておいてくれ」

それだけ言うとヨコタニは扉をがちゃんと閉めてしまった。

一体全体、何がどうしたっていうんだ?


仕方が無いので

どうやら酔って階段から落ちてケガをしたようです

ですので今日は休ませて下さいと言っていました

と、係長に報告した

ったく、しょうがねぇなぁ

等と言いつつ事務所で新聞を広げる係長

頭を下げて事務所を出ようとすると

「シガ~。ヨコタニのノルマ、お前と誰かでフォローしとけよー」

こちらも見ずに言い放つ

心の中でげー、と思いつつも

「うぃス」

と返事を返して作業場に戻る

今日は残業だな、こりゃ・・・


休み時間になり俺は昨日の休みに起きたであろう事件

すなわちヨコタニ主催の飲み会の”生け贄”達に話を聞きに行く

何人かの”生け贄”達の話を纏めるとこうだ

何時もの居酒屋、何時ものスナックに向かった後

スナックにいた”お気に”のオネーチャンをめぐり

他の客とトラブったらしいのだ

その帰り道に待ち伏せされていて

ヨコタニだけが

右の目ん玉

まぶたが「ぼっこり」腫れあがるほどの打撃をもらってしまった

・・・というのが話の流れだ

「お前等何人で向こう何人いたのよ?」

”生け贄”達に問い詰める

「いや、こっちはヨコタニさん含めて4人ス」

「相手は?」

「4人ス」

「同じ数じゃねぇか。何で先輩だけやられた!?」

思わず声が上ずる

酒癖が悪いとはいえ

約3年は一緒に居た仲だ

少々の情もある

それに後輩とは言え先輩がやられて

黙っていたのか?という憤りも多少ある

「や、やつら電柱の陰に隠れてて」

「先頭にいたヨコタニさん、一発殴って逃げてったんスよ」

「俺らびっくりして、ヨコタニさんぶっ倒れちゃうし」

食ってかかるような勢いの俺に押されて

”生け贄”達は小さくなる

「・・・」

少し興奮したようだ

これ以上”生け贄”達を問い詰めたところで・・・

そこまで考えて肩の力を抜く

「わかった、もういい」

暗に解散、と匂わせて踵を返そうとする

すると

「シガさんが居てくれれば・・・」

「そうスよ。何時も一緒だったのにどうしたんすカ」

思いがけない反撃を喰らってしまう


実は休みの日

俺はひょんなことから知り合った事務の女の子

コトブキ・イズミと湘南海岸までドライブ・デートをしていたのだった

そのデートに行く事で恒例のヨコタニの飲み会をパス

事件には立ち会えなかった、という訳だ


ドライブ・デートの件はヨコタニには言ってないが

よりによって俺が居ない日にそんな事件が起きるとは・・・

その日の残業も終わり重い足取りで寮に帰る

そしておもむろに売店で買ったドリンクと駄菓子を手に

ヨコタニの部屋へ向かう

ノックをして声をかける

「オレッス」

「・・・おう」

きい

と扉が薄く開く

「これ」

と言って売店で買ったドリンクと駄菓子を渡す

それを受け取ったヨコタニは

「ったく、お前もかよ」

そう言って苦笑いを浮かべる

()()()

「さっき、一緒に飲んでた奴らも来てよ。似た様なの置いてったんだ」

ああ、成るほど

休み時間に問い詰めた”生け贄”達が気を利かせた様だった

心の中で少しは気を回したかと感心していると

「で、係長にはなんと?」

「あ、酔って階段から落ちてケガしたって話に」

「何だよひねりがねぇなぁ」

右目を腫らして休んだ理由を

素直にぶん殴られましたと言えない

代わりの言い訳にしては

ひねりがないと言われてしまったが

他に上手い言い訳も無く・・・

「ま、しょうがねぇか」

朝方見た時よりは少し腫れの引いた右目を

軽く手で触ると

「ッテェ」

ヨコタニは悪態をついた



俺、シガ・マサルは週末に一人で例のスナックに来ていた

ヨコタニの敵討ち

ではないが

どんな奴らがヨコタニを殴ったのか

それを確かめたかったのだ

何時もならヨコタニの横には俺が居て

トラブルになりそうな時は

俺が間に入り未然に防いでいた

それが女にうつつを抜かしていたばっかりに

尊敬まではしていないものの

それなりに世話になっていた先輩をやられたのだ

多少の後悔

何かしないではいられなかった

「ダメよ、シガさん」

店のママが察したように俺に話しかけてくる

「ヨコタニちゃんには悪いけど、彼、くちが悪かったからね。いい薬よ」

細いメンソールのタバコをもみ消すとママはそう声を落とす

にしても

俺が声を出そうとした瞬間

スナックのドアが勢い良く開いて客が入って来た

「いらっしゃい」

「ママ、ボックス空いてる?」

「どうも!」

「こんちゃす!」

目線は向けなかったが4人位の人間がどやどやと店に入って来た

ママが接客に向かった為、俺の前には別の女の子が来た

確かこの子は・・・

「こんにちは」

明るい笑顔であいさつされる

あぁ、ヨコタニのお気に入りの子だ

・・・という事は例の事件の・・・

俺が口を開こうとすると

背後のボックス席から声がかかる

「ミキちゃんもこっちおいでよ!」

「え、えぇ・・・」

呼ばれたお気に入りの子”ミキちゃん”が

少し戸惑った感じがしたので

いぶかしむと

どうやらボックス席に着いたママと目配せして

何かしらの合図をしている

不穏な空気を感じて

そのまま無言でいると

背後のボックス席の話声が大きくなる

「大丈夫だって、こないだの奴はもう来ねぇから」

「そうそう、こないだ帰りにバーンしといたから」

・・・どうやら求めていた”お客さん”らしい

心拍数がどくん、とあがる

落ち着くために目の前のグラスをくい、とあおる

おもむろに立ち上がろうとすると

「・・・!」

目の前の”お気に入りの子”ミキちゃんが

俺の手をぎゅっと押さえた


視線を上げて目を見ると

強張った顔で顔を左右に細かく振る

そしてさらに強く手に力を込められる

「さあさ、取りあえず乾杯しましょ」

「何ヨ、ママ~」

「ハイハイ、カンパ~~イ!」

ボックス席に着いたママが強引に客とカンパイを始めた

わいわいとカンパイの音頭で雑談が再開する

いまだ力を込める”お気に入りの子”ミキちゃんに

わかった、と口の動きで意思を表示する

するとゆるゆると手から力が抜けていく

「・・・意外と力あるね?」

「え、やだ・・・!」

小声で言うとようやく顔から強張りが消え笑顔が戻る


もう一杯グラスを頼み

空にしてお愛想を告げる

勘定を払いカウンターから立ち上がる際に

ボックスの客の顔をちらりと確認する

威勢は良かったが

どの顔もくたびれた”中年オヤジ”の顔だった



酔い覚ましに歩いて帰る俺

顔の腫れたヨコタニを思い出す

ボックス席に居た”中年オヤジ”達の顔も

そして思う

自分もいつかああなるのかな、と

酔った頭でぼんやりと考えながら

コトブキ・イズミと次のデートの約束をしていなかったことに気づいた


思うより先にカラダが動く

若い時にはそれが多々あるが

それをタイミングを見て止められる

そんな人達もまた存在する

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