オオエヤマ の オオテング 終章
ケイチョウ22年
祖国を旅立ち、思い人であった女の敵討ちをするため
元凶となった侍大将の国を目指して幾年月・・・
ついに”てんぐ”は侍大将”オダ”と対峙していた
「ついに対面なったな。侍大将”オダ”」
”てんぐ”は大きく足を踏み出しながら
静かながらも怒気をはらんだ声をあげて
燃えさかる天守閣の天辺に座る
戦鎧に身を包んだ男
侍大将”オダ”を睨み付ける
「貴様か。わしの国を潰したのは!」
侍大将の”オダ”もまた
怒気をはらんだ声で”てんぐ”に返す
「国を、つぶ、す?」
一瞬何の事か理解できずに、オウム返しをする
「貴様がここに来る為に、わしの兵共を全て殺したであろう?」
国を潰された、と言うのは
”てんぐ”がここに辿り着くまでに
倒してきた配下の事であったのだろう
「警告は、したぞ。邪魔をするなら殺す、と」
強く握りしめた拳からは今まで倒してきた
”オダ”配下の侍共から吸収した
欠片から発するチカラが溢れる
「貴様・・・」
そのチカラの形が見えたのか
”オダ”は更に低く呟く
「問答無用。貴様を殺せば、戦はなくなる。平和が訪れる」
言うが早いか”てんぐ”は猛然とオダに躍りかかる
腰に差した刀を抜く間もなく
両雄は手四つで組み合う
その瞬間二人の間に強烈な水蒸気が発生し
辺りはもうもうとした湯気と
熱による暴風が吹き荒れる
「ぐう」
「ぬう」
欠片を身体に取り込んだ二人の「元」人間は
その熱量を物ともせずに更に気合いを込める
水蒸気は更に激しく発生し
摩擦で帯電も帯び始める
ばりばりと帯電した水蒸気は
周りの火を吹き飛ばしていく
まるで嵐の渦の真ん中のように
二人を中心に暴風が吹き荒れる
お互いが譲らず激しい力比べをする内に
お互いの着物まで弾け飛び
天守閣の頂上で輝く光の玉のようになっていく
弾け飛んだ着物や鎧の下から
お互いの素肌が見えるようになると
”オダ”の胸には半身を覆い尽くすように
欠片を吸収した証ともいえる痣が
広がっているのが露わになった
それは”てんぐ”も同じ事
「くくく。ふはははは」
突然笑い出す”オダ”
「何が、可笑しい?」
”てんぐ”が返すと続けて”オダ”が言う
「貴様の胸を見ろ。そんなになるまで、同胞を殺したのか?」
”オダ”は”てんぐ”にそういうと
自分と見比べてみろ、とばかりに顎をしゃくる
「それが、なんだ!」
我関せずとばかりに
”オダ”に食ってかかる”てんぐ”
「あの日。空から飛来した、ほうき星から落ちた欠片」
にやりと口角を上げて”オダ”が話し始める
「その欠片を吸収した同胞が、自身の命を奪った者に欠片を取られると知ってから」
手四つの状態から”オダ”が”てんぐ”を蹴り上げる
不意を突かれた”てんぐ”は宙に舞う
「わしは、貪欲に欠片を集めた!」
宙に舞った”てんぐ”に向けて
”オダ”も飛び上がり追撃を加える
「そして同胞を殺し、欠片を吸収する度に、わしは、強くなった!」
両手を組み”てんぐ”の背中に振り下ろす
追撃を食らった”てんぐ”は
勢いのまま下に見えていた天守閣に突っ込んで
床を突き破りながら最下層まで叩き付けられる
「ぐふっ」
叩き付けられてなお”てんぐ”は意識を失わず
咳き込んだだけで立ち上がる
その背後に燃えさかる火を背に
”オダ”が眉をつり上げた形相で回り込んでいた
「だが!吸収する度に思った!このチカラを持ってすれば、この戦だらけの国を治められると!」
”てんぐ”の背後から強烈な片足蹴りを叩き込む”オダ”
城の最下層の石垣を吹き飛ばしながら
”てんぐ”は外に放り出される
「むぅ」
流石に肉体にダメージを感じ
”てんぐ”は四つん這いになる
「そこでわしは、ある程度欠片を取り込んだ者を配下に置き、戦を始めたのだ」
一糸まとわぬ二人が再び対峙する
「それと同時に、ヒノモトに散らばった同胞集めも行ったのだ」
四つん這いになっている”てんぐ”の首根っこを掴むと
片手で引き上げる
「それがこんな裏目に出るとはな!」
片手で”てんぐ”の喉元を締め上げつつ
”オダ”は忌々しげに語り出す
「集めた同胞は、わしのチカラには遠く及ばぬ者達。だが、まさかそやつらを殺して欠片を奪える者が現れるとはな」
”オダ”は喉元への締め付けを強める
そしてもう片方の手を手刀の形にして弓引くと
”てんぐ”の心臓目掛けて突き出した
どずっ
鈍い音がして”てんぐ”の胸に手刀が突き刺さる
が
手刀は僅かに先端が胸にめり込んだだけであった
「ぐは」
”てんぐ”がうめくが”オダ”は舌打ちをする
「やはりな。もはや貴様はわしと同等の欠片を、手にしてしまったようだ」
その時、突風にあおられて飛んできた着物の一部が
一瞬ではあったが”オダ”の視界をふさいだ
その隙を逃さず”てんぐ”は、喉元の手を
おのが両手でむんずと掴むと
その手を軸に両足を胸元まで抱え上げて
”オダ”に思い切り蹴り込んだ
「ぶが」
躱そうにも両手で片手を掴んで固定されていたので
もろに両足の蹴りを胸元に食らってしまう
力の逃げ場がない蹴りを食らった”オダ”は
苦しそうに喉元の手を離し
逃れようとするが
”てんぐ”は離さない
そこを支点にしたまま何度も両足の蹴りを
キツツキのように叩き込んだ
ぶちり、と身悶えする様な音を立てて
”オダ”の片腕が肩から、ちぎれる
激しい出血と共に”オダ”は後方に倒れ込み
支点を無くした”てんぐ”も、仰向けにひっくり返る
いち早く起き上がった”てんぐ”は
ちぎれた片腕を放り投げて
出血した肩を押さえている”オダ”に近付く
息も荒くお互いが視線をかわすと
”オダ”が先に口を開いた
「ヒノモトの民は皆、莫迦ばかりだ」
その口から更に吐血する
「だから我々、欠片を持ったチカラある者達が、統制しなければ、いけなかったのだ」
ごぼっ
「だのに、貴様のおかげで、ヒノモトは、滅びに向かうぞ」
ごぼっごぼっ
「そんなことはない」
”てんぐ”が息を整えて答える
「確かに統治は必要かもしれん。だがそれは、一部の勝手で行うべきではないのだ」
トドメを刺すべく片手を握りしめて力を込める
「お前は、やり方を、誤った」
突然笑い出す”オダ”
「莫迦め。貴様はもはや、人ではない。そして統治者にも、成れない」
「そんなことは、分かっている」
「わしを殺して、欠片を吸収すれば、この国に落ちた欠片は、全て揃うだろう」
「・・・」
「そうなったとき、果たして貴様は、人のままで、いられる、のかな?」
「・・・」
「ヒノモトの民は、全て、我々の、食い物に過ぎん」
「・・・」
「貴様も、喰ったんであろう?」
「・・・あぁ。喰った」
「であれば、その飢えに、抗えまい?」
「・・・」
「貴様の、苦しむ様を、あの世で、楽しませてもらうぞ」
ぐちっ
最後の問答は終わったとばかりに
”てんぐ”は”オダ”の頭部を
力を込めた拳で砕き潰した
”オダ”の遺骸からひときわ大きな欠片の光が
”てんぐ”の身体に飛び込んでいく
光を取り込んだ”てんぐ”の身体は
欠片の証である痣が全身に広がり
やがて真っ黒に染まった
その状態で目を閉じていた”てんぐ”は
静かに息を吐き出すと
くわ、と両目を見開き
背中から翼を生やして宙に舞った
そのままヒノモトの土地外れまで飛んでいき
人気の無い活火山の噴火口へ飛び込んでいった
暫くして噴火口から大きな塊が飛び出して
そのまま成層圏を突き破り
真空の彼方へ消え去っていったが
それを知るものは、誰もいない。
偶然にも手に入れてしまった大きな”力”
仮にあなたが”力”を手にしたら・・・
さて、どう使いますか?