早く行ってください
突然の引き抜きの話をにこやかに断って、席に戻った。
びっくりしたけど、そんな冗談を真に受ける僕ではない。サクラちゃんはがっかりした顔をしていたけど、あんなの社交辞令に決まっているじゃないか。
葛西班長と影野さんが帰ってきた。
「すみません。お待たせしてしまったようで、申し訳ないです」
達見さんに挨拶をする葛西班長。にこやかに対応している達見さん。
普通の挨拶に見えるんだが、あそこだけ何か気温が下がってないか?
サクラちゃん、震えているし。
「あれだよ、あれ。今朝の会議でもあんな感じだったんだぜあの二人」
荒木さんがこそこそ話してくる。
「交渉課の人が到着したって聞いたときの班長の顔も怖かったですよ」
影野さんもこそこそ話してくる。
「あんな感じで病院へ行ったら、坂城さん悪化しませんかね」
僕もこそこそ話してみた。
坂城さんの妹さんと話がしたい達見さんと絶対に会わせない葛西班長。
会議ではずっとこの話でもめていたらしい。今も隙あれば会わせてほしいと言う達見さんに、にこやかに拒絶している葛西班長。そして震えているサクラちゃん。
「班長、そろそろ病院に行く時間ではないでしょうか」
この空気に耐えられなくなったのか、葛西班長に声をかける影野さん。グッジョブです。僕にはあの空気の二人に声をかけることができません。
「あ、もうそんな時間か。では行きましょうか、達見さん」
車のカギを取り出しながら葛西班長が言う。
早く行ってください。部屋が寒いです。そして頑張れサクラちゃん。無事帰ってくるんだぞ。
班長達が出ていった。
あの二人を相手にする坂城さんを想いながら、仕事を片付けていく。
坂城さんを切りつけた異形について、あちらから返事がきた。
どうやらむこうでも探していたヤツだったようで、捕まえたことに対して感謝をされた。
引き渡し等の日時の調整をして、関係各所へ連絡をいれる。
「影野さん、坂城さんが捕まえた例の異形ですが、向こうへの引き渡し日時が確定しました。報告書を作成したので、確認お願いします」
影野さんに報告書を渡して昼休憩に入る。
何かあったかいものが食べたいなぁ。そんなことを思いつつスーパーへ向かった。
今日の業務もそろそろ終わるという時刻に、葛西班長たちは帰ってきた。
難しい顔をしている達見さん。いつも通りの葛西班長。目が死んでるサクラちゃん。
何があったんだろう。
応接セットへ向かった一行からサクラちゃんをこっそり呼び出す。
「東条、お前恐ろしい人たちと一緒にいるんだな」
僕を見てサクラちゃんが言う。
何を言っているのか分からなくてサクラちゃんの顔を見つめる。
「大方、坂城のヤツにやり込められたんだろ」
いつの間にか後ろに荒木さんがいた。
うなずいているサクラちゃん。
何したの坂城さん?