班長ヤベェ
葛西班長の爆弾発言にみんなが固まっている中、最初に口を開いたのは荒木さんだった。
「だからか、だからあんた、あんなにこっちで交渉するって会議で言ったのか」
震えながら葛西班長を指さす荒木さん。
「やだなあ、荒木君。そんな私情は挟んでないよ?ウチの班員の身内が魔女の弟子って言われているから、ウチの班で対応するって言っただけじゃないか」
班長、そのニヤケた顔で言われても説得力ないです。
「班長、坂城君とは話をしたのですか」
気を取り直した影野さんが葛西班長に尋ねている。
そうだよ。班長の爆弾発言に気を取られたけど、坂城さんは妹さんが魔女の弟子ってこと知らないよな。知ってたら、すぐに言うだろうし。
「いや。まだだよ。本部の交渉課の人が来てから話すことになってる。だから昼過ぎから坂城君の病院に行ってくるね。もし、今日出動要請があったら、2課の人に頼んでね」
頼んでねって、それ僕がするんですよね。2課の人って無愛想な人が多いから、頼み事しづらいんだよなぁ。
これで話は終わりと言って班長は自分の机に帰っていった。
荒木さんはソファの上でぐったりしている。
「大丈夫ですか。荒木君」
「いや、もう今日はダメだ。あんな会議になんで俺がでなきゃならないんだよ。こういうのは坂城が得意だろが」
「会議で何があったんですか?」
荒木さんが言うには、昨日の夜に魔女の弟子といわれる人物が坂城さんの妹だということが分かり、坂城さんに召集がかかったけど、ケガで入院中ということで、代わりに葛西班長が早朝から呼び出されたということ。荒木さんはたまたま早朝訓練にでていたため、葛西班長にWeb会議に連行されたらしい。
「会議の最初に坂城の妹が魔女の弟子かもしれないって言われてさ。俺は急に何言ってんだとか思ってたんだが、いつの間にか班長がこっちで交渉するって話をしてたんだよ。本部は交渉課の人間に坂城の妹と話をさせたかったみたいだけど、班長が拒んでた。あの交渉課の人間と班長のやりとり、……すげー怖かった。お互い目が笑ってないんだぜ」
そう言って、荒木さんは手で顔を覆った。
あの荒木さんが怖がってる。よかった、今日は遅く来て。
今思うと、班長が本部の提案をあんなに拒んだのは魔女の弟子が自分の彼女だからかぁ。班長って独占欲強いんかね。
そんなことを言いながら、自分の机に向かう荒木さん。
「ん?でも本部の交渉課の人って今日来るんですよね。結局班長が折れたってことですか?」
気になったので僕も荒木さんについていきながら訊いてみる。
「ああ?んなわけあるかよ。交渉課の人間が会うのは坂城だけだ。妹の方は班長が聞き取りするんだと」