重傷者に無茶振りするなんて
「どうも。坂城吉継の妹の周子です。28歳、独身。会社員と古道具屋をやってます」
妹さんは丁寧に頭を下げて挨拶してくれた。
「ど、どうも。坂城さんの後輩の東条です」
「お前、妹いたのか?聞いてねぇぞ、俺」
妹さんの挨拶を無視して坂城さんに問いかける荒木さん。
おい、無視すんじゃねぇよ。
妹さんがニコニコしてるからいいものの、挨拶に返事をしないとか社会人としてドン引きだぞ、あんた。
坂城さんの話によると、家族には治安維持関係の仕事でケガをしたと話していて、一番仲がいい妹さんに今回入院するにあたって必要なものを持ってきてもらったそうだ。
「いやー。でも、よう生きてんな。その傷、刀で切りつけられたってきいたで。お兄ちゃん、なかなか物騒な仕事してんねんな」
笑いながら、お見舞いの品を片付けていく妹さん。
……普通、身内が刃物で切りつけられたら心配するんじゃないの?
僕にはそんな身内がいないからよくわからないけど。
僕のそんな疑問をよそに、荒木さんはこの後の勤務体制について坂城さんに説明していた。
「お前が入院している間は、3班から人員を割いてもらって対応する。でもあいつら全然使えねぇからな。だから、早く復帰しろよ。3日で戻れ」
重傷の人になんて無茶ぶりをしてんだ。あの人。
あと、坂城さんは身内にこの仕事のこと秘密にしてるっぽいのにここで話すなよ。
「ケガは自分が未熟だったから負ったんだ。早くこの失態を取り返さないとね」
そんな荒木さんに笑いながら了解している坂城さん。
あんまり長居してもアレなので、葛西班長たちが来る前だったけど、僕と荒木さんは退出することにした。
とりあえず、坂城さんが大丈夫そうでよかった。
荒木さんはこのあと、晩御飯に誘ってくれたけど辞退する。
申し訳ないが、僕は勤務時間以外に仕事場の人と一緒に過ごすことを好まないのだよ。
てか、あんな大柄な男と一緒にいたら、僕が子供みたいに見えるじゃないか。
ただでさえ、25歳にしては低い身長を気にしてるのに……。
にしても、坂城さんと妹さん、全然似てなかったなぁと思いつつ、ちょっとだけ話した彼女について考えてみた。
あれ、なんかおかしくね。
さらっと言ってたけど、会社勤めなのになんで古道具屋の経営してんだ?
何やってんの?
そもそも古道具屋って何売ってんだろ?骨董品か何かかなぁ。
ん?骨董品?なんだっけ?
何か気になってたことがあったような……。
そうだ!前に魔女の話で気になっていたことがあったんだ。
そうだよ、総務の人は刀の売買で魔女の家に電話したって言ってたんだよ。
刀って所有するときに何か登録証がいるんじゃなかったっけ。
それを調べれば魔女の弟子って人が分かるんじゃないの。
なーんて、そんなのとっくに本部の人間がやってるよなぁ。
僕の考えることなんて本部の頭のいい人たちはとっくに思いついてるって。ははは。
くそっ。いい案だと思ったのになぁ。
はぁ、賞金欲しい。