班長ヒドイ
そっと、みんなが班長から視線を外して何も言わずに立ち去っていく。
そして、何事もなかったかのように僕に話かけてくる葛西班長。
「まぁ、周子ちゃんの話はいいよ。それより、東条君」
名前を呼ばれたので背筋を伸ばして居住まいを正す。
「一応軍の規律では一般人に内情を話すのは規律に抵触するんだよね。特殊5課の彼は職務上そういうこともあるからいいんだけど、特殊3課の君はだめなんだよ。周子ちゃんは一般人に該当するからね」
規律違反……。減給ですか、減給なんですね。
僕が減給されることに一人で慄いていると、二本目のタバコに火を付けながら葛西班長が僕の目の前に立った。
床に正座している僕は、自然と葛西班長を見上げる形になる。天井の照明が逆光になって、班長の顔が見えない。
「君、1ヶ月間本部に行っておいで」
まさかの本部送り。
タバコの煙を横に吐きながら葛西班長が言うには、どうやら魔女のご指名らしい。
今日本部のお偉いさん宛に魔女から電話かかかってきたらしい。自分に協力してほしかったら、今から言う二人を寄越せと。
で、その二人が僕とサクラちゃん。
ちょ、魔女さん仕事早いですね。てか、サクラちゃんだけでいいんじゃないの。
「昨日、周子ちゃんから電話があってね。魔女に東条君のことも話したら会いたいって言ってると。で、世話係に佐倉君と東条君を指名するからよろしくってね」
なんで僕のことも話してんの、あの人。
「そういう訳だから。でも、四六時中魔女の傍にいるわけじゃない。本部の特殊3課に君のことは頼んでおいたから、しっかり働いておいで」
本部って入隊時の研修の時に行ったきりなんだよな。
……行きたくないなぁ。あっちってここのスーパーほど食品が充実してないし。
しかし、上司から命令されたのならば行かないとね。
って、もう立ち上がっていいですか。そろそろ足がしびれるんですけど。
「ダメ。もう少しそのままでいなさい」
葛西班長が僕を見下ろしたまま言う。
絶対さっきのお付き合いしていない発言を根に持ってますよね、班長。
「そんなことはないよ。周子ちゃんとはいずれ結婚する予定だし」
それって班長の中でだけでしょう。やっぱり班長ってちょっとヤバイよな。
葛西班長が立ち退かない限り僕は立ち上がれない。
班長を見上げるとニヤニヤ笑っていた。こういうのってパワハラっていうんですよ班長。
「葛西班長、東条君も反省しているようですし、そろそろ解放してあげて下さい」
影野さんが班長に向かって言うと、しぶしぶ僕の前から退いてくれた。
何でそんなに不満そうなんですか。部下をいじめて楽しいですか。
「東条君って小さくてかわいいから、ついいじめたくなるんだよねぇ」
誰がかわいいですか、誰が。それに僕が小さいんじゃなくて周りがでかいだけです。
「いや、お前。155㎝ないだろ。十分小さいだろ」
あんたいつも一言多いんだよ、荒木さん。
影野さんに御礼を言って席に戻る僕。
はぁ、仕事しよう。
「あ、そうそう。言い忘れてたけど、明日から本部に行ってね」
明日っ?招集早すぎるだろ。