頑張れサクラちゃん
とりあえず、応接のイスに座っている班長達にお茶を持っていく。
たばこを吸ってリラックスしている班長を見て、苦い顔をする達見さん。
関わり合いになっては危険だと僕の本能が言っている。慌てて机に戻り、サクラちゃんにお茶をだす。
「お疲れさま。大丈夫?佐倉君」
力なくお茶を受け取ったサクラちゃん。
で、何があったのさ。坂城さんに妹さんのことを聞きに行ったんでしょ。
「最初は良かったんだよ。あなたの妹が魔女の弟子の疑いがあるので、話をさせてもらえませんかってお願いしていたんだ。突然そんなこと言われて坂城さんは戸惑っていたけど、どうやって突き止めたかを説明したら、一応納得してくれたんだ。でもその後……」
その後どうしたんだよ。早く話せ。
サクラちゃんはチラッと達見さんを見た後、小さい声で、達見さんが何かを坂城さんに言ったら、部屋の空気が凍ったんだと言った。
何かって何をだよ。ちゃんと聞いとけ。そんなことを思ったけど、疲れた顔をしているサクラちゃんには言わないでおく。
要は、最初はうまいこと話が進んでいたけど、達見さんがいらんことを言って話がこじれたってことか。
「こじれただけじゃねぇよ。何だよ、あの人。なんで俺らの個人情報を知ってんだよ。達見先輩の性癖なんて知りたくなかったよ」
そんなサクラちゃんのつぶやきを聞いて爆笑している荒木さん。顔を背けているけど笑ってるのわかりますからね、影野さん。
「お前ら、坂城にスキャンされたんだな。よっぽど怒らせないとあいつはそんなことしないぞ」
坂城さんには異能があって、それが影を使って人や物をスキャンして情報を得ることができる能力らしい。でも、かなり集中しないといけないし、情報の選別が大変だから、よほどのことはない限り使うことはないらしい。
それを使ったということは、達見さんに言われたことに対して、かなり怒ったってことだな。これから絶対坂城さんのことを怒らせないでおこう。僕の性癖とか知られたくない。
とにかく、坂城さん経由で妹さんに接触することができなくなったんだな。まぁ、どっちみち葛西班長が会わせないようにしてるし、無駄だったんじゃないの。
僕がそう言うと、がっくりするサクラちゃん。
「達見さんが、一族以外の影使いに対していい感情を持っていないのは分かるけど、あそこでそれを言うべきじゃあなかったね。鬼の交渉人が、どうしちゃったの」
葛西班長がうなだれている達見さんをいたわるように言った。
「彼に言ったことは間違っていません。ですが、ケガ人に言うべきことではありませんでした。私の配慮が足りなかったと思います。しかし、これで彼の妹への接触は難しくなりましたね」
「接触はさせないよ。まだ彼女が魔女の弟子だって決まったわけじゃないし。一般人にこちらの事情を話すのは規律に抵触するんじゃないの」
妹さんへの接触を諦めない達見さん。それをやんわりと拒絶する葛西班長。
段々と下がっていく部屋の温度。
えっ?またやるのこれ。