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 あまりに突然の再会に瑠樺は驚いていた。

「何してるの?」

 そう言ってから、すごく間の抜けたことを訊いた気がした。

「何って、見りゃわかるだろ? 土をこねてる」

 当たり前のように美也子は答えて手を広げてみせた。確かに手は土で茶色く染まり、頬にまで土がついている。

「どういうことです? 誰なんです?」

 瑠樺の隣で、千波が不思議そうな顔をして美也子を見つめる。

「私の母なの」

「え? お母様でしたか」と姿勢を正す。

 そんな様子を見て、美也子がーー

「あんたたち、いったいどこから入ってくるんだよ。で? そっちの子は誰?」

「えっと、蓮華千波さん。私の先輩の妹さん」

「へぇ、よく来たね。二人で来たの?」

「そうよ」

「なんで?」

「なんで……って? だって、お母さんが急にいなくなるからーー」

「あーー」

 と千波が突然、声を出した。「私、ちょっとその辺を見てきていいでしょうか?」

 どうやら瑠樺たちに気を遣ってくれたようだ。既にさっきまでの怪しげな気配も消えている。きっともう危険はないだろう。

 千波が出ていくのを見送ってから、美也子は瑠樺に声をかけた。

「瑠樺、あなた……もしかして私を捜しに来たの?」

「そうよ」

「ひょっとして心配かけちゃった?」

「当然でしょ」

「悪かったね」

 そう言いながらも、どこか口元は笑っている。

「お母さんはどうして仕事を辞めたの?」

「私、今、ここで陶芸を習ってるんだ」

「陶芸?」

 確かに周囲の棚にはさまざまな形の器が並べられている。

「前からやってみたかったんだけど、なかなか時間が取れなくてね。でも、大好きな先生の展示会に行ったら、先生に会うことが出来て、弟子にならないかって誘ってもらったんだ。良いチャンスだと思ってね」

「え?」

 瑠樺は美也子の顔を見つめた。

「何?」

「まさか……それだけ?」

「それだけって?」

「陶芸をやりたくて病院を辞めたの?」

「そうだよ。本当はあなたが学校を卒業するまでは我慢しようかとも思ったんだけど、あなたの場合、もう私の手をはなれているようなところもあるからさ」

「本当にそれで看護師を辞めたの?」

「そうだよ。他に何があるの?」

 その顔は決して冗談を言っているわけではなさそうだ。

「え……あの……私のこととか……妖かしの一族のこととか?」

「そんなこと私に何も関係ないでしょ」

 そう言って、軽く笑い飛ばす。

 その笑顔を見て、瑠樺はホッとした。それと同時に、自分はいったい何を今まで悩んでいたのだろうと自分自身に呆れてしまう。

「良かった」

「何、それ。そんなこと心配していたの?」

「……うん」

 いつの間にか涙が溢れていた。

「バカな子だね。あなたはまだ16歳の高校生なんだよ。そんなにいろんなものを抱えこむ必要はないんだよ。そもそも抱え込んでいるなんて思うことが錯覚なんだよ」

「じゃあ、どうしてずっと連絡してくれなかったの? 携帯だってつながらないし」

「面倒くさかったんだよ。携帯だって、いつまでも古いのを持っていると、前の仕事のことでまた連絡がきたりしたから。生活をちゃんと切り替えるためには、携帯なんかも全部捨ててしまったほうがいいかと思って」

「だからって私にまで内緒って」

「内緒にしたわけじゃないよ。教えていなかっただけ。そのうち教えるつもりでいたんだよ。忘れちゃっただけ。これでも結構忙しくてさ」

「な……」

 唖然として、何も言えなくなった。

「それで? 今夜は泊まっていけるんだろ?」

 あっけらかんとした表情で美也子は訊いた。

 ちょうどその時、千波が戻ってきた。


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