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「何なんでしょう、こいつら」

 と足元に砕け散った人形を見つめて千波が言った。「敵であることは間違いないんでしょうね」

「敵なんでしょうか?」

「敵でしょう。襲いかかってきたのですから」

「でも、殺気は感じなかったでしょ?」

「そうでしたか? あまり気にしませんでした」

「そうなの?」

「私の場合、かかってくる奴を叩きのめすだけです」

 そのシンプルさが千波らしい。「そもそも、ここは何なんでしょう? 鏡を突き抜けてはきましたけど、鏡の世界ってわけじゃなさそうですね」

 千波は右手につけた時計を見て、それが反転していないことを確認してから言った。

「そうね。確かにおかしな空間だけど、別空間に飛ばされたような感じはしないわね」

「別空間……お嬢様は行ったことあります?」

「そうね。行ったことないからわからない」

「私もです。一族のなかで、そういう術を使える者がいるという話は聞いたことがあります」

「ホント?」

「そもそも、別空間ってどんなものなんでしょうね。世界が反転してるとか? 妖精がいるとか?」

「魔法使いがいるとか? 魔王がいるとか?」

 千波に合わせ、一緒になってイメージしてみる。

「疲れそうな世界ですね」

「そうね、私もあまり行きたくないかも」

「あ、思い出しました」

「何を?」

「術の使い手ですよ。確か美月の一族がそんな感じのものが使えるって」

 ずいぶん身近にいたものだ。機会があれば、今度、あやのに訊いてみよう。

「あ、千波さん、ちょっと」

 と言って、瑠樺は千波の手に指を伸ばした。さっき、鏡を割って出てきた時のものか、手の甲に一筋の傷が出来て、そこからうっすらと血が滲んでいる。

 その傷をそっと瑠樺の指先がなぞる。ピタリと血が止まり、傷が消えていく。

「これは? お嬢様、傷を治す力が?」

「いえ、傷を治すというより、血の動きを活性化させるみたいです。でも、きっと千波さんの治癒力なら必要なかったかもしれませんね」

 自分の指先についた千波の血に気を送る。それは小さな羽となって、瑠樺の指先でクルクルと踊る。

「凄いですね。人の血をも自由に動かせるんですか?」

「そういうわけじゃないです。動かすことが出来るのはあくまでも表面に流れ出た血だけ」

「血の羽ですか。血羽とでも呼びましょうか? それとも羽血……これじゃ鼻血みたいですね」

 そう言って、千波が笑う。

「さて、これからどうしようか」

「あちこちぶっ壊せば外に出られるんじゃありませんか? それほど頑丈には思えませんし」

 千波がコンコンと壁を叩いてみせる。

 その時、再び屋敷の形が微妙に変わった。まるで千波の声が届いて、屋敷自身がそれを嫌ったかのようだ。

 気づけば、長い廊下の一番奥にドアが現れていた。

(誘っている?)

 一気に突っ込んでいきそうな千波をおさえながら、瑠樺はドアのほうへと慎重に近づいていった。

ドアの向こうに人の気配がする。さっきのような人形の気とは明らかに違うものだ。

 瑠樺はドアノブを握ると、一呼吸置いてから、瑠樺は一気にドアを開けて踏み込んでいく。

 しかし、目の前に広がる光景に、瑠樺は思わず呆然として立ち止まった。

 そこはさっきまでとはまるで違う場所だった。

 ハッと気づくと、今、自分が通ってきた背後のドアすら消えている。

 千波も同じように驚いて周囲を見回して呟く。

「どこですか? ここ」

 さっきまでの真っ白な洋館と比べると、真逆だった。灰色の壁、壁一面に棚が並べられ、そこには白いものや土色のものなど、さまざまな器が並んでいる。

 それはなにかの作業場に見えた。

 部屋の中央には、一人の女性が瑠樺たちに背を向けて一生懸命に土をこねている。

 その後姿を眺めていると、女性は瑠樺に気づいたらしく、手を止めて振り返った。

 その顔を見て、瑠樺は唖然とした。

「なんだい? わざわざこんなところまで追いかけてきたの?」

 それは久しぶりに見る母、美也子の姿だった。


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