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俺と及第彼女のありとある日の青春日誌。【1】

作者: 遥 かずら


 日誌に記していいのはその日の学級活動だけのはずだった。それがまさかクラスで一番目立つ彼女と公開交換日誌をすることになるだなんて、そんな……恥ずか嬉しすぎる学生生活が始まるなんて最高じゃないか。


「さくらは怒っています。その理由について述べよ」

「えー……何だろう。居眠りかな?」

「違います! 琥太郎君は何にも気付いていないからです。以上!」


 砂金いさごさくらは同じクラスの女子。彼女は頭が良く、ほとんどのテストが及第点だ。容姿にしても性格にしても、俺の中では一定レベルに達している。だからという訳ではないが、さくらはいつも誰かに告られている。


「こたろーは、告らんの? さくら、可愛いけどフリーって聞くぜ? ちな、俺は玉砕済みだ! 喜べ」

「俺は人前で告れるほど勇者じゃない。琉斗も知ってるだろ……1年の時のフラれっぷりをさー」

「まーな。アレだろ、課題の貸し借りでいい感じになってたけど、頭の悪さがバレて逃げられたアレ」

「言うなよ~へこんでるんだからさー」


 嘉月かづき琥太郎は思いの外、成績が良くなかった。そのことがまさか同じ学年の女子に拡散されていくなんて思いもよらないことだった。なまじ人の好さと普段の優しさで評判が上々だっただけに、たったいくつかの答えを間違っていただけで、それを頭の悪い男子の所に分類するなんてあんまりじゃないか。


「琥太郎君、わたしの書くべき欄は書き終えたので、残りを埋めてくださいね。じゃあ、これを受け取って」


「う、受け取る? 何を……?」


「日誌。先生に報告とかする学級日誌のこと。わたし、係なの。相方は琥太郎君。お分かりかな?」


「あー……そんなのがあったよね。は、はは……相方? それってふつー、クラス代表の奴が先生のとこに持っていくんじゃ?」


「そだよ。けど、わたし忙しいんです。だから琥太郎君が相方となってわたしをサポート。理解出来た?」


「お、おー?」


 よく分からなかった。日誌なんてその日のことを先生に渡すだけのことだし、基本は誰か一人が書くものだから、二人がかりで書くものじゃないことくらい俺でも分かることだった。


 そしてこの相方になって以降は、彼女と密かなやり取りが始まった。もちろん、先生が見る学級日誌なのであからさまな言葉の羅列では無かったけど。先生が目を通さない欄で、言葉のやり取りをするようになった。


「今日はいいことがあった。クラス人気のとある女子と交流の機会を得られたことだ」

「それは誰ですか?」

「彼女は俺の中では平均以上の素晴らしさを誇っており……すみません、匿名希望です」

「琥太郎君が書いているのに匿名ってそれはないんじゃないかな? きちんと答えてくださいね」

「さくらさん」

「正直ですね。お褒めのお言葉に甘んじていいですか?」

「いいんじゃないでしょうか」


 ……などと、スマホでやり取りすればいいことなのに、実際のところはそんな簡単にはいかないのがリアルな学生生活。教室が同じでも彼女と俺との距離は、とてつもなく遠い。男子と女子はよほど仲良くなければ、近づくことを拒まれるものなんだ。うっかり人気女子に近づくと、告白か? なんて声が聞こえてくるくらいに難しい。


「さくらさんは好きな……食べ物は何ですか?」

「ミルフィーユ鍋です。琥太郎君の好きな人は誰?」

「黙秘します」


 こんな交換日記のような学級日誌はあり得ない。それなのに、どういうわけか先生に何かを言われることもなく、俺と彼女との公開的な交換日誌は続いていた。これにはカラクリがあって、彼女とのやり取りに思えるこの言葉交換は、先に俺が書いてからさくらに渡すものだった。つまり、先生に渡される時には彼女の手によって消されているということ。そうじゃなければ先生に呼び出しを食らうのがオチだからだ。


「俺が書いたものを結局消しているのって、無意味だよね?」

「琥太郎君は、わたしとのやり取りを望みませんか? こうして言葉を伝え合うことでも繋がりを持てることに気づいて欲しいんだけどなー」

「な、何のこと?」

「うん、キミは頭は悪くないけれど、超が付くほど鈍感なんだね。それが分かったら、直に話しかけていいって言おうと思いましたけど、またの機会にしますね」

「えっと、ごめん」

「謝らないでね。さくらは、琥太郎君と接点を持ちたいだけなんです。そんなわけで、二学期もわたしは委員長になるので、次までに気づいて欲しいです。琥太郎君、キミから気付いてくれるのを待ってます」


 このやり取りを最後に、一学期目の学級交換日誌は終えてしまう。さくらとは普段、会話すら出来ない存在だったのに、まさか文字だけで仲良しになることが出来たなんて誰も知る由もないことだった。


「琉斗、俺がさくらに告って上手く行く確率は?」

「ゼロだな。下手すると声とかかけれなくね?」


 正確に言うと、声だけは最初にかかってそこから日誌上でやり取りが始まった。それが彼女との始まりだなんて自分でも思わなくて、だけど……好きな子と何かしらの接点を持つことが出来たのは良かった。


「こたろーもアレだ。テストで及第点取れば、振り向いてもらえるかもよ? 彼女は及第レベルなんだし」

「努力してみる。二学期から本気出す」

「見守ってやるよ。次にそうなって、こたろーが告るところをな」

「乞うご期待よろ!」


 俺と彼女、砂金さくらとはこれから関係が続いていくのだろうか。それは俺の努力次第なのかもしれない。

お読みいただきましてありがとうございました。



このお話は短編での展開です。

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