Go West!
映像を見終わって、ケネスはレオの方を向いた。
「坊ちゃま。ロック王がいなくなったとあれば、この国は混乱します。
その隙に脱出するべきです。」
ロック王は“愚王”の呼び名の通り、あちらこちらで考え無しに子供を作っている。
ケネスの言う通り王がいない国はその座を争って内乱が起こる可能性が高い。
「だけど、ケネス。この国を出たとして何処へ行けば・・・?」
「レオ坊ちゃま、いえ、レオ様とお呼びします。」
ケネスは真剣な顔で
「レオ様はお父上ティーゲル様の妹君リオナ様を覚えておいでか?」
「確か僕が小さいころ西の国の宰相の家に嫁いだという?」
「はい。西の国、ガートハラの宰相であるガルドマ様の元に嫁がれた方です。
リオナ様ならレオ様のお力になってくれる。
そのことを、このケネス、確信しております。」
ケネスは真剣な表情でそう言い切った。
「なぜならレオナ様はレオ様の名付け親だからです。」
名付け親と言うのは後見人がなる場合が多い。
ケネスの言う通り、リオナはレオを助ける可能性が高いと言えた。
「判った。爺の言う通りにしよう。
だが、そこまでどうやって行くかだけど・・・。」
「ふむ、それもこのケネスにも考えがあります。
ここでは何ですので、場所を移しましょう。」
「ああ、そうだな。こんなに長く立ち話をして誰かに見つかったかもしれない。」
「いえ、その可能性はありません。」
話を聞いていたアウロラが口を挟んだ。
「お話が長引かれるようなので、周囲5mにサウンドキャンセラーと光学迷彩を施しています。」
「?さうんど?こうがく?」
ケネスには何か判らない言葉だった。
「あ、爺。アウロラが言うには判らなくしているから大丈夫らしい。」
「ふむ。ところでレオ様。この方はいったいどなたですかな?
レオ様と共にやって来られたので敵ではないと考えておりましたが・・・。
先ほどからの言葉やスキルは記憶にありません。」
「爺、その辺りの事も詳しく話そう。」
「判りました。ではこちらへ。」
ケネスはレオ達を屋敷からそう遠くない所にある家へ案内した。
家の中から出てきたのは、メイド長のマイヤーだった。
マイヤーは驚いた顔でケネスの顔を見て、その後、レオの顔を見た。
「よくご無事で・・・」
「アウロラが助けてくれたからね。」
「そうでしたか、この度はレオ様を助けていただきありがとうございます。」
そ言うとマイヤーは深々とお辞儀をした。
「どうぞ中へ。狭苦しい所ですが。」
ケネスとマイヤーの話によると、突然、王宮の親衛隊が踏み込んで来たそうだ。
罪状は横領と収賄。
見たこともない商人や敵対する貴族が証言に立ち、あっという間に処刑が決まった。
「弁明の機会も与えられず、王の即決により死刑が決まった。
旦那様は商人と癒着する貴族や官僚を厳しく処分しすぎたのかもしれません。」
レオの父は先代王の頃から辣腕を振るい、不正を正してきた。
先代王からもロック王の後見として頼まれていた。
だが、愚王にとって目の上のタンコブでしか無かったのだろう。
「旦那様は引き際を間違えたのかもしれません。」
ケネスがそう言うと、アウロラは
「ケネス殿、それは違います。
遅かれ早かれ起きることなのです。」
「それは一体どのような理由なのでしょうか?」
疑問を浮かべるケネスにアウロラとレオは今までの詳しい経緯を話した。
「何と!
それなら一刻も早く王都から脱出しなければなりません。」
「ロック王は死んだのだろう?
それなら少し時間があるのでは?」
「いえ、宮廷魔導師のサイノスがいます。」
「ロック王と一緒に消し炭になったのでは?」
「かもしれません。ですが、サイノスは魔導師です。
何らかの対策をこうじている可能性があります。」
ケネスの危惧した通り、サイノスは生きていた。
「入れ替わりの呪文が発動したから良かったものの、
手駒が二体も失ったわ。」
彼にとって弟子は単なる手駒に過ぎない。
師のために犠牲なるのは当然の事なのだ。
(さて、あの達はどうするか・・・。)
サイノスは追手をかけるか迷っていた。
確かに異界の技術は眼を見張るものがある。
喉から手が出るほど欲しい。
だが、アレを制御できるとは思えなかった。
(愚王の息子どもに情報を流して様子見だな。)