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■06■
両親の怒りは想像以上にものすごく、母親に何発もビンタを食らった。
口から飛び出す言い訳も「ケガをしてしまったので、手当てをしてくれた友達の家で眠ってしまっていた」と言う、何の捻りも無いものだった。
「誰の所に行っていたのか名前を言え!」と凄まれ、「それは迷惑になるから出来ない!」と拒否をする。
一秒でも早くその怒りから解放される為、母親の鉄拳制裁を黙って耐えるしかなかった。
それに、自分の対応が悪かったのだ。
「帰宅が遅くなる」と一言、連絡を入れておくべきだった。
まぁ、ひとつ勉強になった。
翌朝、寝不足のまま登校した。
体力が戻っておらず、とにかくシンドい。
脇腹の後遺症は、そうでもない。姫君からのフォローが効いたのだろうな、と思う。
考えてみれば昨日も寝不足だったのだ。妙な夢を見せられて。
何とか一日を過ごして放課後、櫛絽のお見舞いに行く事にした。
担任に教えてもらった救急病院へ行き、ナースステーションで部屋を教えてもらった。
すると、もう退院の支度をしているのだと言われた。
教えてもらった部屋へ向かうと、六人部屋の一スペースに彼女が居た。
一番奥のベッドへ腰掛け、こちらに背を向け、窓の外を見ている。あの後ろ姿が櫛絽だ、間違いない。
腕には点滴が繋がっているけれど、もう私服を着ていた。
「櫛絽さん」
その背中がビクッと反応し、上半身を反転させ、こちらを向く。
「貴堂くん!」と、凄く驚いた表情をする櫛絽。
彼女は慌てたように立ち上がり、全身で振り向き、恥ずかしそうに頬を染めた。
柔らかそうな生地のワンピースで、膝丈より少しだけ短いプリーツがひらりと揺れた。色は紺地で、ブルーとホワイトの小さな花柄がプリントされている。
品があり、清楚で、よく似合っていた。
「あのっ。ど、どうしたの?」
「先生が隣の人から連絡もらった、って言ってたから」
「え、やだな。先生、みんなに言ったの? ただの疲労らしいから、恥ずかしいな……明日から学校行くし」
「いや、聞いたのは俺だけ。他の人は知らないよ」
「そうなんだ、よかった」
櫛絽は、ホッとしたように笑顔を浮かべた。
「よかった。櫛絽さん、元気になってる」
「え……」
「一昨日はもう限界、ってカンジだったから」
櫛絽は真っ赤になって苦笑いを浮かべた。
弱っている場面を他人に見られるのは、確かに恥ずかしい事だと思う。
――あ~、要らん事を言ったかな、俺。
まだまだ未熟である。
「あのね、明け方かな……夢を見たの」
「ふぅん、どんな?」
「うちのお庭が元気になって、キラキラと春の日差しにきらめく夢。それで私、元気になれたような気がしてる」
そうか。反応するのだったな、彼女の精神は。
精霊が言うには櫛絽は特別に敏感らしいが、強弱はあれど、人は皆、このように彼らと影響を与え合っていると言うのは本当のようだ。
「うちの狭い庭に立って、銀色に輝く十字架の杖で元気になる魔法をかけてくれたのは……貴堂くん、だった」
――う。敏感過ぎるから、それ。
「ありがとう」
「いや、だってそれ夢なんだろ」
「うん。夢だけど……ありがとう、貴堂くん」
「いや、だけど、えっと、でも……うん」
「うん。ふふっ」
「は……ははっ」
それから一時間ほど話している間に点滴が終わって、退院。
手続きの後、帰宅する櫛絽に付き合う事にした。
――櫛絽さんの自宅、か。
もう一度、あの庭に顔を出した方がいいのかも知れない。
けど、挨拶するのも何だか面倒くさい気がする。
――あの庭、精霊多過ぎるんだよなー。寝不足だし体力不足だし……今日は遠慮させてもらお。
例の坂道の下で、櫛絽と別れる。
下から櫛絽を見送ったけど、彼女はそんなに怯えもせず、坂を上り行ってしまった。
植物達の溜飲が下がり、少しでも正常な状態に戻ってくれていれば――いいのだけど。




