о●第6話●о
「姫はどうするの?」
だから姫じゃないっつーに。
「どうするって…何が?」
「寮生活。俺は今日から入ろうと思うんだけど」
「え?荷物は?」
「送ってもらう。姫はどうするの?」
「んー…。俺は一応今日は帰ろっかな」
母さん達にも話さなきゃいけないし。
「そういえばさ、静って誰と同室?」
1年3人だから、1人余んじゃん。 俺は愛しの靖佳ちゃんとだし?
「俺は悠さんと。身内だから気も楽だし」
「ふーん」
俺達が下駄箱でそんな会話をしていると。
「波那ーっ?」
あの忌まわしい声が辺りに響いた。 静に教えてもらった噂は本当のようで、
辺りにいた生徒が一斉に俺の方を向く。
おいおい。 “美少女顔の杉倉波那”っていうフレーズ(?)だけなのに
よく俺がその杉倉波那だと分かるな。 そんなに俺って女顔?
――――なんて暢気に考えてる場合じゃなかった!!
「逃げるぞ静!!」
「はぁ!?」
ぐいっと静の腕を引っ張り、走り出す。
「ちょ……っ、何で俺まで……」
慌てているような、呆れているような。
あんま感情を表に出さない静のこういう所を見るのは結構楽しい。
眼鏡君なんだけど、決して運動が苦手ではないらしく、普通に俺と同じペースで走っている。
助かるな〜。 あいつに捕まりたくないし。
「おい波那っ!何で逃げるんだよっ!!」
「それはお前が―――…ってうわぁっ!!?」
逃げていたはずなのに、いつの間にか追いつかれていた。
振り返った途端、俺の瞳にそいつの顔がかなりのアップで映し出された為、俺は驚いて転びそうになる。
それを支えるように、そいつ―――鳩羽樹は俺の腕を引っ張り上げた。
14cmの身長差。 こいつに追いつかれたのは、もしかしなくても脚の長させいだ。
「何で逃げるんだよ波那ぁ」
「お前が毎回過剰なスキンシップをして来るからだッ!」
マジほんと勘弁してくれ。 俺をどこぞのイケナイ世界へと引っ張り込むつもりか。
「…ね、波那。どちら様?」
静を指差しながら、控えめに聞いて来る。 人を指差すんじゃありませんっ!
「俺は菅野静。そっちは?」
「……鳩羽樹」
あり? 樹、キャラ違くない?
「おい樹!もっと愛想良くしろよ!俺と静はクラスも生徒会でも一緒なんだから……」
「えっ!?波那生徒会入ったの!?」
「うん。あ、俺明日から寮生活だから朝一緒に登校は無理」
そうだ! もう朝樹に抱き付かれなくてすむんじゃん! good job 生徒会☆
喜ぶ俺とは裏腹に、どことなくムスッとしている樹。 だからキャラ違うって。
「なぁ、鳩羽」
おう、静。 俺の事は“姫”って呼ぶくせに、樹に事は普通に名字なんだなっ。
「お前って――…同性愛者?」
――――はいーっ!?
「ななな何聞いてんだお前っ!!」
動揺のあまりめちゃくちゃ噛みまくった…。 なんて事はどうでもいい!!
そんな質問して、もし樹が“YES”と答えたら明日から俺はコイツとどう接していいのか分からなくなるぞ!?
「………………」
無言の樹。
うわあぁぁーっ。 真剣に悩むなよ頼むからぁ…。 そんな真面目な顔、お前に似合わないって!!
「……た、樹……?」
「……波那……」
「な、何…っ!?」
「“どーせーあいしゃ”って何?」
…………………………。
「………樹が馬鹿で助かった…………」
「んー…。つまりホモかって事」
おいィィ!! 何説明してんだ静ぁぁッ!!!
お馬鹿な樹も、さすがに質問の意味が分かったようだ。
「違うよー」
ふるふると首を横に振る。
だよなーっ。 いくらお前でもノーマルだよなーっ。
「俺は男が好きなんじゃなくて、“波那”が好きなの」
ぞわわっ
今頭ん中で、会長と樹、どっちがマシか真剣に考えてしまった自分が悲しいぜ……。
樹君のアブナイ一面発見。
第7話へ続く。。。