о●第17話●о
とある空き教室。 目の前にはあんまり見覚えのない男子生徒3人。 多分3年生…かな?
「生徒会長補佐の、杉倉波那君…だっけ?」
「覚えて頂き光栄です♪」
にっと笑ってみせる。
「本当はねぇ、あの木松靖佳って子が1番言う事聞いてくれそうだから、
あの子にお願いしようと思ってたんだけど……」
「生徒会を内側から潰したいんだよね、俺ら」
「で、君にスパイ?みたいな事をお願いしたいんだ」
台詞を3人で分割するなっ! 1人でしゃべれよこの野郎。
「どうして生徒会を潰したいんですか?」
「どうしてって…、そんなの何となくだよ」
何と…なく……?
「何となく気に食わないから潰したい。それだけだよ」
笑顔で言い切るそいつらに、嫌悪感が溢れて来た。 ただ気に食わないから潰したい? お前らは何様だ。
確かに変態やら腹黒万年笑顔さんもいる。 それでも…、それでも、俺にとっては大事な居場所なんだよ。
「ねぇ、先輩」
俺から居場所を奪うな。
「もしかして…、嫉妬してんの?」
居場所がない辛さは十分過ぎる程知ってる。
「自分にはない権力とか…、人望とか」
だからもう、俺から居場所を奪わないでくれ。
「会長達に嫉妬してんでしょ?」
――――ガッ!
1番近くにいた短髪の奴に殴られ、俺の体は床に叩き付けられる。
一瞬意識がとびそうになるが、何とか持ち堪えた。 口の端に血が滲む感覚がする。
大丈夫だ…。 これくらい、あの頃に比べたらどうって事ない。
「チビが!調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」
無防備になった腹部に蹴りを入れられる。 吐き気が一気に込み上げた。
「……っぅ…」
「―――あれぇ?」
男の声に、ゆっくりと顔を上げる。 その手には、赤いボンボンの付いた見慣れたゴム。
殴られた拍子に、ポケットから落ちたのか…。
「杉倉君、男のくせにこんなの持ってるんだぁ?」
「…かぇ…せ……っ」
よろよろと立ち上がる。 それは樹のだ。 汚い手で触るな。
「何?そんなに大事な物なの?」
必死に奪い返そうとする俺を、馬鹿にしたように笑う。
「返せ…っ、…返してくれ……っ」
それは、俺が樹にあげたんだ。 “初めての友達の証”として…。
「そんなに返して欲しいなら返してあげるよ」
その言葉に安堵した時だった。
「ほらっ」
あろう事か、窓から外に向かってそのゴムを投げたのだ。
「な…っ!」
慌てて窓から身を乗り出し、手を伸ばす。 ゴムを掴む事に夢中で、ここが3階だって事なんか忘れていた。
届け、届け、届け…っ。
「…ぁ…っ」
やっとの思いでゴムを掴んだ時、ぐらりと反転した俺の視界。 落ちる、と認識するまで時間は掛からなかった。
『杉倉君の事は、俺が護るから。どんなに辛い事があっても、このゴムに誓って俺が護る』
不意に脳裏を過ぎる樹の言葉。 ふざけながら交わした、幼い日の約束。 このゴムは、約束の証。
あぁ、そうか。 お前が時折泣きそうだったのは、俺があの約束を忘れてしまっていたから。
お前はちゃんと、約束を守ろうとしてくれてたんだな…。
ごめん…、樹――…。
波那は忘れていた些細な約束事。
それでも、樹の中では生き続けていたんだ…。
第18話へ続く。。