о●第14話●о
波那視点に戻ります。
「おはよ、波那」
不意に後ろから聞こえた声。 聞いた事があるというか、毎日のように聞いていた。
……なのに。 今日はどこか違う。 不思議に思いながら振り向くと―――……
「………誰!?」
「誰って……、酷いな…。樹だよ」
いやいや、分かってますとも。 何年一緒にいたと思ってんだ。 俺が言いたいのはそういう事じゃなくて……
「何で今日は前髪下ろしてんだ?」
いつも赤いボンボンの付いたゴムで結い上げていたのに。 今日は茶色い髪がパサリと下ろされている。
「…別に――…。何となく?」
にへらっと笑うその顔は、いつもとさほど変わりなかったけど。
前髪下ろしただけでかなり雰囲気って変わるもんなんだな…。 元々顔は良かったけど、
いつもあの馬鹿っぽい髪型のせいで打ち消されてた気がする。 だから今日はホント誰だか分からなかった。
「お前、下ろしてた方がいいんじゃね?」
ぐっと背伸びして樹の頭をガシガシと撫でる。 すると樹は目を見開いて、切なそうに顔を歪めた。
…? 俺、何か悪い事した? 頭撫でられたの、嫌だったのか?
「……波那、本当に忘れちゃったんだ…?」
そう言ったこいつの声が、泣きそうだと感じたのは俺だけだろうか。
ふと、樹は俺の手のひらの上に何か置いた。
赤い――ボンボン…?
「波那が持ってて。それ元々波那のだし」
「樹…?」
「俺にはもう、必要ないから」
樹はそう言って、歩き出した。 口調も表情も、明らかに怒っている。
でもどうして?
どうしてお前の目はそんなに泣きそうなんだ―――……?
樹も一応美形なんですよ。
一応ね。
そんなこんなで第15話に続く…