注文の多い雑貨店
三話目に突入しました、やはり小説を書くのはかなり気力が削がれるものですね。ご感想はお暇な時にでも、次はまだまだかかりそうです。
「こんばんわー!!おじさん来たよー!」私の連れに負けないくらいに快活な声が店内に響いた。その子は金魚鉢の淵に手を添え、顔を出すとすぐにこちらに気付いてさっき以上の声を上げた。「わっ!ウッソーー!!もしかして人間さん?!きゃーーー!!初めて見たぁ〜!!あっ、オバケ君もいる〜!」瞳をキラキラと輝かせて頬を紅潮させながら、元気いっぱいにその人魚は私たちに手を振って自己紹介をした。「ね〜!人間さん!だよねだよね?あたしミウってゆーの〜!人間さんなんて名前?何でここにいるの?」「えっ、えーと…。」あまりのグイグイ来る話し方に少し気圧されてると、スペクターが間に入って代わりに紹介してくれた。「ソーリーシェリル、このマーメイド、ミスミウは人間に興味があって前から会いたい会いたいと夢見てたんデスヨ、ミスミウ、こちらはボクのフレンドのシェリル、とってもイイコだからお互い仲良くなれるハズですヨ〜♪」「えっ、あ、あ〜うん、よ、よろしく…。」若干笑顔が引きつったけど、ミウは気付かなかったようで嬉しそうに金魚鉢から出てきて、私の手を取ってぶんぶんと振った。「いや〜ん!本当?!やったーー!!人間のお友達だぁ!!あたしこそよろしくシェリル〜!人間の事いっぱい教えて〜!!」近くで見ると、すっごい美少女!目は宝石みたいなエメラルドグリーン、短い髪はサラサラしてて肌はまるで真珠のよう。けれど下半身はというと…。「た、タコ…?」「うんそう!あたしタコの人魚なの〜。」ヌメヌメとした何とも言えない青緑色の八本の足、その裏には強力そうないくつもの吸盤が見え隠れしている。私の知っている絵本の人魚とはかけ離れているが、その足だからこそ、金魚鉢から出てこれるのだろう。というか人魚っていろんな海の生物のパターンがあるんだ…。「良かったデスネ〜ミウ、でもショッピングをお忘れデハ?」「あっ、そーだ忘れてた〜!」パッと手を離し、ウネウネと足を動かしてお目当ての棚に向かうと、迷わず手にしたのは重そうな袋一つ。ジャラっという音からするに小石の様な何かがたくさん入っているんだろう。気になったので、出来たばかりの人魚の友達に聞いてみた。「それなぁに?」「わっ、話しかけてくれた…!これはね〜、サメ除けの花のタネなの!」「花?海に花なんか咲くの?」「咲くよ?」さも当たり前だと言うように言われてしまい、返す言葉もなく納得せざるを得なかった。「この花の臭いがね、サメは大っ嫌いなの!だからこれを住処の周りに植えて、サメが来ないようにするの!」「へ、へぇ〜…。」まぁここまでくれば何でもありか、と早くも慣れの恐ろしさを知る。そして支払いの時に渡された代金は、またとんでもない物だった。「こ、これって…!」「パールですネ〜。」「そー真珠ぅ〜、家の周りでめっちゃ取れるんだ〜。」手のひらいっぱいに掴んだくらいの数の真珠、こんな宝石が家の近くで取れるなんて…!やはり人外の価値観はぶっ飛んでるのね。頭がクラクラしてきた私の前で、何百万という価値が取り引きされた後、今度は海底に遊びに来てね、なんてさらっと言い残し、ミウはまた金魚鉢の泡の中へと消えていった。「…遊びに行ったらあたしにも真珠くれるかな。」「シェリル?なんかヤラシイ事考えてマスネ?」「なっ、なわけないでしょ!!」嘘です売ったらどれくらいかなんて考えてました。「つっ、次はどんなお客さんが来るのかしらね〜!」話を逸らすため様々な所に目を向けて、どこか変化しないかと探していると、背後に飾られていた豪華な装飾の姿見から何やら話し声が聞こえた。少し驚いたので慌てて連れの後ろへ隠れたら、その姿見はドアのように開き、声の主が現れた。「…ですから、あるかどうかは分かりかねますが少なくとも自分が来た際には見かけたような気が致します。」「ふふん、ま、無ければそれもまた運命…。」出てきたのは二人組で一人は金髪の男の人、パッカパッカと鳴っていたのは蹄の音で、まさしくそれは神話に出てきたケンタウロスと呼ばれる生き物だった。そしてもう一人を見て、私は凍りついた。「ひっ?!」茶色のふさふさした毛、大きな耳に、口に、牙。それは眼鏡を掛けて、スーツまで着込んだ狼だった。「らっしゃい旦那方。」「魚人様、このローレン様がとある品物を探していると仰られたので、自分がこの店舗にお連れした次第でございまして。」「ほぅ、中々神秘的な店だな…まるで私の様に…。」喋ってる喋ってる喋ってる!!狼が!牙剥き出しで!何を隠そうこの私、大の犬嫌いである。昔近所で飼われていた大型犬に吠えられ、習い事先で飼われていた小型犬に噛まれ、さらにパンを食べ歩いていた時に野良犬に散々追いかけ回されるという何とも犬運が無い私は、折れることの無いスペクターの腕をいい事に、叫びだしそうなのを手の力へと還元し、姿を見まいと背中に顔を押し付けて震えていた。そんな尋常じゃない私の様子にさすがの陽気な連れも動揺を露わにした。「うぇえ?!シェリル?!どっ、どうしたんですかぁ!?大丈夫?!」「大きな声出すなバカァァァァ!!」と誰より大きな声で叫んだ私に、一同の視線が集まった。「?!お、おい大丈夫か嬢ちゃん?!」「なっ、何事だ?か弱い乙女が怯えている声がするぞ!」「魚人様、この方々は?」狼冷静!怖い!「あ、あぁウチの常連とその連れの人間だ。どうやら旦那方のどっちかに心底怯えちまったらしい…。」それを聞いた二人組はしばらく黙ったていたらしかったが、そのうち金髪のケンタウロスが私達の方に近づいてきた。「恐れる事は無い、人間の乙女よ!私の荘厳さに打ち震えてしまうのはしょうがないが、この慈愛に満ちた微笑みをそなたに捧げてやろう!さぁ顔を見せるが良い!」このケンタウロス、かなりのナルシストだとお見受けした。私がそろ〜っと片目だけを覗かせると、その鼻先すれすれに端正な顔があった。「ひゃっ?!」近い近い!結局またすぐに顔を戻してしまうと、今度は自分から近づいてきて私の顔を見ようと背中の方へ回り込んで来た。「さぁ遠慮はいらない、私はどの種族であろうと女性は大切に扱う紳士なのだよ…ん、なっ?!」どうやら超ナルシストなだけで、私に危害は与えなさそうだと分かると、私は顔を上げ、ローレンとか言うケンタウロスと顔を合わせた。途端にローレンの顔がみるみる赤く染まっていく、それを見かねたのか狼までこっちに近づいてきた。「いかがなさいました?…おや、本当に人間でいらっしゃる…。」「いやああああ!!犬ぅぅぅぅ!!」ダメだ!犬はダメだ!!「あっ、もしかしてシェリル犬苦手なんですか?!ちょ、ちょっとスミマセン!ミスターウルフ!」ようやく気づいてくれたスペクターは慌てて申し訳なさそうに狼に目配せをした。「あ、自分のせいでしたか。それは申し訳有りませんでした、お嬢様。」どうやら狼は察してくれたらしく、私から離れた所へと行ってくれた。物分りが良くて助かった!しかし、ナルシストケンタウロス、ローレンの方は依然直立不動のまま私に熱い視線を送っていた。「ローレン様、自分達は人間のお嬢様を怖がらせてしまう様で御座いますよ。」別にケンタウロスにはなんの因縁も無いので彼まで離れる必要は無いのだが。「…う、美しい…!」「はい?」「なんと…なんッッッと可憐な!!愛らしい!!貴女様、お、お名前は?!」「…はぁ?」
タコ人魚!ケンタウロス!!獣人!!!お目汚し失礼いたしました!!!!(人魚がこんばんはと言ってるのはたまたま彼女の住む海が夜の時間帯だったんでしょう、分かんないけれど。)