プロローグ
初めまして、こういった連載作品の投稿は初めてとなりますので色々と不手際があるかもしれませんが(実際執筆と投稿を間違えて、焦って一度本文全消去しました)生暖かい目で見守って頂けたらなぁ、と思います。どうぞよろしくお願い致します。
沈む。
恐ろしいほど心地の良い闇が身体を絡めとる。
静かに立ち上る気泡だけが、自分が何処かへ沈み行く事を教えてくれた。
沈む。
瞼を開いた視界の先、見えるのは無明の闇だけ。ここには何もない、在るのは自分一人のみ。それはまるで死そのもののようで。嫌な想像を振り払うかのように身体は震え、その度に気泡が溢れた。
沈む。
ふと、何かが映り込んだ。
それは、見覚えのある人だった。
その人は何かから逃れようと必死に暴れ、その度に気泡が撒き散らされる。
どれだけの時間が経ったのか、気が付けばその人は暴れることを止めた。いや、正確に言うならば暴れることが出来なくなった。
目は虚ろになり、口は半開き。まるで力の入れ方を忘れたかのように脱力し、闇の中で浮かんでいた。
先程まで身体から溢れ出ていた気泡は無くなり、生きているのか死んでいるのかわからないその姿は、妙に鮮明に映り。
変化は一瞬だった。
力なく開かれた口の端から、一際大きな気泡が吐き出され。
それが立ち上るより早く、その人は闇に融けた。
そう、融けた。まるで闇との境界が無くなってしまったかのように、一瞬で薄れて消えてしまった。
霞の掛かる思考でも、それが『死』であることは理解できた。
そして、同時に自分の末路も同じだと理解できてしまった。
――
言葉は出ない。
ただ怖くて、、身体から溢れ出す気泡を留めようと手を伸ばす。
その先に、腕があった。
生気を感じさせないほど白い、女性の両腕。自身から零れた気泡は、闇中から浮かび上がるように存在するその腕に絡み付き、音もなく消えてゆく。
まるで抱きしめようとするその仕草が、ただただ恐ろしかった。
あの腕に抱かれたとき、きっと俺は死ぬ。
理由などない。けれど確信に近い想像。身体中から気泡が吹き出し、闇に溶けて消えてしまう。さっきの人のように……?
(さっきの人って、誰だ……?)
その疑問に答えられず、泡が零れた。
(……俺は、さっき何を見たんだ?)
おかしい。何かについて思考を巡らせていた事は覚えているのに、その何かが抜け落ちてしまって。
口から一つ気泡が零れ落ちた。
そして、それすらも忘れた。
思考していたという事実だけ残り、内容が消えた。
(……まさか、この気泡は俺の記憶……なの、か?)
今も変わらず昇り行く気泡。もしこの気泡が溢れ尽くしてしまったら……。脱け殻のように動かず、ただ闇に横たわる自分。
(嫌だ……!)
そんな想像を振り払うように、気泡を掻き抱くように集める。
怖い。自分が自分でなくなっていくのが、堪らなく怖くて。
下策と理解して、必死で気泡をかき集めた。そしてそれ以上の気泡が腕に取り込まれた。
そして、何もわからなくなった。
苦しくもない、悲しくもない、怖くもない。もう記憶は全て失った。感情も全て溢れ出し奪われた。
ただぼんやりと、映り込む腕が迫ってくるのを知覚した。
腕が。
俺に。
触れた。