07 ミッキーの死角
ずーーっとケイタイ鳴ってる。イヤ遠慮しがちに鳴ってる。
さすが、女の人の事を分かり切っている対応をしてくるなコイツ、
さすがヒモ男だ。
「セリノ携帯鳴ってるぞ、取らないのか?」
「うん・・いい・・」
「おお、そうか・・・あっ初馬!?」
「え!?」
マジかコイツ、何でこっちにいるの?
「お父さん!!お父さん!!無視、無視!!早く車出して!!」
「..ってもうこっち来てるよ、バレてるぞ!!」
「滋おじさん!!久しぶり。」
「おぉ初馬元気か!?」
「うん元気だよ。滋おじさんも元気そうだね。」
「セリノがずいぶん面倒になってる見たいだな。」
「そんな事ないよ。」
「いっその事、お前ら結婚した方が良いんじゃないか。はははは・・・」
「そうかな。はははは・・・」
おい!!カス共お前らは黙ってろ!!
私の前から消えてくれ、それにお父さん、あんたも分かってるだろ。初馬兄ちゃんが昔女の人をレイプした事・・・何も心配してないのかよ。
私はあんたから、その話しを聞いたんだよ!!
前に・・・
・・・知らないのは洸だけだよ・・・多分。
「はははははははは・・・・」
まだ笑ってるのかよコイツラ!!バカじゃないの?
「と言う事だセリノ行ってらっしゃい!!」じゃねーーよ!!オッサン!!マジ、私の自尊心を尊重してくれよ!!
「行こっか。セリノちゃん。」じゃねーーよ!!
平気か!?
お前は平気か!?
「・・・うん。」
「これ、楽しいでしょ。」
「・・・・・うん。」
「ホラ!!釣れた!!釣れた!!でも小さいな~~。」
「あっ!?セリノちゃんの糸引いてるよ!!」
「・・・・・・うん。」
「よし!!引いて!!引いて!!」
頭の中は空っぽ。
「おお。結構大きいね!!」
「・・・・・うん。」
頭の中は空っぽ。
「やるね。セリノちゃん。これ結構ポイント高いよ!!」
「・・・・・うん。」
「ピチピチしてるね。」
「・・・・・うん。」
「この魚食べられるのかな?」
頭の中は空っぽ。
「僕の魚と合わせて120ポイント位だね。景品どうしよっか?」
「何が良い?」
「・・・・・・」
「あっスティッチあるね。スティチ良いね・・このマグカップ。」
全然聞こえないよ。あなたの言葉なんて聞こえないと言うか無言。音は、するけど言葉として聞こえない。
ただ、聞こえるのは、この大きな湖のピチャピチャとカラスかどっかの鳥が水の中に落ちた虫を食らう音と、静かな風が林を動かす音とそして・・・あと電車が通り過ぎてレールをつたう音。
それ意外は、何も聞こえない。
もし仮にあなたの声が聞こえたとしたら今スグにでも私の前から消えて・・・ホラ。
さっさと消えて。だってあなたの言葉は、私とって無意味な事だから、知ったとしても私のプラスには、何もならない。
・・・・「セリノちゃんハイ!!。スティチのマグカップ・・・おそろいだね。」
週3の時間のあなたの無音って一体なんだろ。この時に一体何の意味があると言うのだろうか。
しかし、私は無事だ。
だって・・・・
この時間の流れがすべて、何もなかった事になってるからだ。だけど、初馬兄ちゃんは、私に洸の事を思い出させないようにと必死だったのかも知れない。でも・・・
カスのこの心遣いが余計私を狂わせようとするのだ。
だから、私はまた無音の空間に身を潜めているのだろう。
暗く静かな病室に男と女の影があった。
男はベットに仰向けになり眠り、女はそのベットに眠っている男の右手を両手で優しく握っていた。
そして、女は彼の手を握ったまま、自分の体を上げ男の顔の方まで近づけていた。そして、ゆっくりと自分の顔を近づけて、軽く彼に口づけをした。
「ごめんね。洸。」
そう言うと女の目からは多量の涙が出ていた。
・・・朝になると、病室のドアが開きミチルが姿を表した。
「リカちゃんおはよう。」
「・・・・・・」
下をうつむいて返事を返さない女。
「ご飯作ってきたから、一緒に食べましょう。」
「・・・・・・」
袋から、プラスチックのクマの絵が描かれている弁当箱を取り出すミチル
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・」
「・・どうしたの?」
もう完全に女はその男の手を離していた。
「・・・私もう無理です・・・私はもう無理なんです。」
するとミチルは、ニッコリ笑みを浮かべ女の近くまで来て、その女の背中を優しくさすった。
「いいのよ。あなたは良く頑張ったわね・・・洸もホラ喜んでるわよ。」
そう言われて女がその男の方に顔をやると女はそのまま泣き崩れた。
私は思い出していた。
ミッキーの姿をした、人に洸が後ろからイタズラしている頃を
「オイ!!セリ。ミッキーには死角があるんだぞ。」
「えっ!?」
「ホラ。ここ!!全然気づいてないだろ。この俺の存在に。」
「えっ何が?」
「俺真横にいるんだけど気づかないんだぜ・・・ホラ横!!顔。ツンツンしてるけど気づいてないだろミッキー。」
「やめなよ。」
「ホラ。反対側もツンツンしても気づかない・・おっ!?勘付かれたか?。オイ、ミッキー俺はお前の目には、決して映らないぞ!!覚えとけ!!」
「ねぇ洸やめないよ。あんまりツンツンするとミッキーかわいそうだよ!!」
無邪気な顔をした。洸は、その頃、苦いコーヒーが嫌いだったセリの顔より幼く見えた。
「セリノちゃんすごいね。あそこあんなに小さく見えるよ!!」
カス!!お前は黙ってろよ。せっかくの私の良い思いでにお前は入ってくんなよ!!
「・・・・そうだね。」
「あそこ六本木ヒルズじゃない?」
「・・・・そうだね。」
「あっ!?あそこスカイツリーあるよ!!」そんなにはしゃぐなよカス!!お前はガキか!!ってガキ入ってきたな。何だあの集団?地方の修学旅行か?小学6年生位かな?
そういえば私も小2の頃にこっちに来た事あったけ。何かの社会科見学だったけ。そう言えば役員さんにインタビューしたなー。
「何でこんな高い所で皆の税金調べてるんですか?」ってそしたら役員のお姉さん結構困った顔してたなー。
「確かにそうだよね。何でこんな高い所で仕事してるのかな・・・この高さからなら皆の街が見渡せるから、皆の顔を思い出して責任感を感じられるんだよね。」って明らかに苦し紛れのウソとついていたな子供だった私はまんまとそのウソを見破れず今思い返して、今あの時のお姉さんの言葉がウソだったんだなって・・・さっき気づいたよ。
今日の収穫はコレだな。と・・
思ってたら突然ケイタイのベルが鳴った・・・・・・・・あの女からメールだ。『セリノちゃんゴメンね。』たった、これだけの文章だったが私は思いっきり走った。
息が上がってお腹の横ら辺がパンパンになっても我慢して走った。そして、ドアを勢いよく開けた。
「洸!!洸ゴメンね一人にさせちゃって!!」そして、私はずっと洸の手を握った。もう絶対、洸を一人にさせないからね。安心してね。その日から私は学校に行かなくなった。
でも皆何も言わなかった。
「洸。今日も天気良いよね。」
「あそこの木上で鳥が鳴いてるよ。」
「あっ!?」
「ゴメンねて握ってなくて、今から握るからね。」・・・・・・
ずっとこうしていたい。
ずっと洸の側にいたい。
私は、絶対あなたから離れないから。
私はあの女とは違う・・・洸の為だったらなんだって出来る。でも、あの女は洸から離れた。あの女は軽い気持ちでしか洸の事思ってなかったんだ
・・・でも私は違う。
するとドアから初馬兄ちゃんが現れた。
「セリノちゃん。洸どう?」
「う~~~ん多分、元気かな?。」
「そっか、じゃあ今日は洸とデートなんだね。何か焼いちゃうな僕・・・・次は僕とデートしてよ。」
「・・・・・うん。」しねーけどなオメーとは・・って言うか。これから、一生しねーけどな。
だってずっと洸と一緒にいるって決めたから。じゃあ、とっとと帰って下さいね、お兄さん。
お前はもう、ココに来なくていいわ!!
ムードが壊れるわ。
この私と洸とのムードが・・・・「そうだよね。洸とのムードが壊れちゃうよね。」って
私、今心の中で言った言葉言っちまったよーマジかー!!やっちまったなー!!
今、完全に心の中で洸とのムードが壊れるって言ったと思ったのになー完全にやっちまったわー私。
「じゃあ・・又ね。」って、とっとと行けやクソ!!
「ごめんね、とっとと今行くからね。」って、また心の声出ちゃったよ~~!!やっちまったよー!!クソ~~!!
「あっ!?セリノちゃんおはよう。」
「おはよう。」
ミチルおばちゃんが静かに病院のドアを開けていった。
「良いわね~~洸は。・・・セリノちゃんにずっと一緒にいてもらって・・・でもセリノちゃん。洸はちょとワガママな所あるから他の女の人が良いって言ってくるかも知れないから。その時は洸と離れても良いのよ・・・」
「・・・そうだね。」
・・・・遠回しに言ってんだ・・・
・・・もう無駄って・・・・
そうにしか聞こえないよ・・・
・・・でも私は諦めてないから「・・・ね。洸!!」。