第一話
時代物です。もしかしたら間違った要素が入っているかもしれません。
言葉も違うかも…。ご指摘をお願いします。
創作で考えた要素も入っています。
空も森も川も大地も、全てを吹き荒れる風で支配する野分の季節。
漆黒の空から雨がとめどなく降り、はるか遠方から届く嵐。それはこの世の禍々しいもの全てが集まって、自らの力を抑えることなく暴れているかのように、治まる気配を見せない。
そんな大荒れの天気なので誰もいない。だがしかし、平坦に続く道に一つの黒い影があった。その影はその場から動かず、静かに佇んでいた。旅の者だろうか。風に逆らうかのように羽織をはためかせ、叩きつけられるような雨にもろともしない。
男はずっと自分の手の中に視線を落としていた。それはとある城からの御触書だと思われた。力強く書かれた達筆で、ある国の名が明記されている。
男はゆっくりと顔を上げた。それでも顔はよく見えない。手に持っていた紙を静かに離す。そして男は静かに歩き始めた。放した紙が暗黒の空を舞い、どこまでも飛んでいく。
普段は颯爽と茂り大人しくしている木々も、この日ばかりは騒々しい音と共に自らの大きな体を蠢かせる。
どこかで大きな雷が落ちた。耳に大きく響く音がした筈なのに、驚くことなく平然と立ち尽くす様はおぞましささえ感じさせる。雷光が男の顔を照らす。僅かに見えた男の額に、小さな傷が見えた。
そして男の姿は嵐の中に呑まれるように消えていった。
外は当分止むことはないだろう嵐が吹き荒れている。御簾を揺らす風に混じって雷の音が遠くから聞こえ、おもわず眉を寄せてそこでやっと書物から顔を上げる。
時刻は亥の刻に差し掛かろうというところか。とはいってもこの様子では正確な時刻は分からなかった。
自分が座っている隣に眼を向けると、さっきまで読んでいた書物が乱雑に積まれていた。その代わりに書庫から持ってきて乳母が丁寧に揃えてくれた大量の書物が消えていた。
書物を読むことに夢中になるとこういうことはしばしばあるので驚きはしなかった。前に一度、新しく入ってきた女房に驚かれたことがあった事を思い出す。
そろそろ床に就こうと思って立ち上がる。ずっと座っていたせいで体が固まっていたようだ。骨が僅かに軋んだのが分かった。
ふと首を御簾の方へ向ける。外まだ治まりそうにない。明日には止んでくれるとよいが。
おもむろに御簾を上げ廊下に出る。空はどこまでも続くような雲が広がり、大粒の雨を降らしていた。なびく風と落ちる雷がより一層嵐を大きくさせている。
空を見上げる。その時、何か白いものが空に浮いているのを認める。
それは紙だった。上等な物なのだろう。雨に打たれているにも関わらず、遠くからでもまだ原型を留めているように思えた。
そしてその紙は次第遠くへ飛ばされ見えなくなってしまった。それはまるで白い鳥が黒い雲に呑まれるようだった。
見えなくなってもしばらく空を見つめていた。また白い鳥が現れることを期待して。だがその鳥はもう現れることはなかった。
私もいずれは呑まれてしまうだろう。あの闇のような雲に。
だがそうなっても後悔はしない。
なぜなら私は自分の意志で呑まれに行くのだから。
翌日、昨日の嵐が嘘のように晴れ渡った空が広がっていた。
だが白い鳥の行方は定かではない。