鍛治師・マリア
ハンマー片手に街を歩くウチは異世界歴10日目の鍛治師やった。
それも必ず大成功の本来より2段階は強い装備を作り、製作に時間をかけず、あらゆる道具を作り出す最高の鍛治師や。……たぶんな。
たぶんっちゅーのは、異世界求人募集の履歴書にそう書いたからであってやな……ウチ自身はまだ一度もこのハンマーを使って道具を作れていない。
街で集めた情報によると特技欄に書いたことは本当になるらしいから間違いないはずや。けどもウチには……工房が、なかった。
「チクショー! ぬかった! 工房がなければ作れへんとか何でそんな現実的なことに考えが至らんかったんや!」
むしゃくしゃして思いっきり髪をかきむしる。そうでもせんと収まりがつかへん!
それじゃあ街で工房をって思うてもまずお金がない。
そんなわけでウチは宿代と工房レンタル代を稼ぐため、今日もゴミ拾いに勤しんだ。
……仕方ないやんか! ウチ戦闘職とちゃうし!
そんなわけでウチは毎日街から外へ繰り出しては魔物や狩人に置いていかれたもんを拾う日々を過ごしておった。
ときどき手に入る鉱石はいつかウチが武器作って売り出す用に取っとく。
さて、ここで闇雲に外に出るのはシロートや。情報収集してから、落し物の多そうな場所を行く。
……べべ、別に初日それでほとんどものが拾えなくて食うに困ったとか、そんなこと、なかった。そんなこと覚えとらんしぃ……。
……こほん。えー、それで、ウチの情報源は街の広場におった。
「おっちゃーん」
「よお、マリアちゃん」
にっこりと魔物討伐隊の隊長のおっちゃんが手を上げる。
実はこの人こそほとほと困り果てとったウチに物拾いの極意を教えてくれた恩人である。
い、いや。困ってへんかったけどな? そんなことなかったけどな?
ちなみにこのおっちゃん、ウチの大先輩や。半年前に戦士として異世界就職したらしい。
今では街の討伐隊の隊長や。毎日のように街の周辺へ出ては魔物を狩っておるつわものなのだ。
「おっちゃんお帰りー! 今度はどこ行っとったんや?」
「あー……それが、なぁ」
いつになくおっちゃんの歯切れが悪い。
「どないしたん?」
「それがよ。ちと遠出してアクア湖の森に行ったんだけどよ……ちと妙な感じでな」
「妙?」
アクア湖の森といえばこの街の南に位置する、聖なる湖を囲んだ森のはず。そこにはわりとそこそこの魔物が生息してるらしい。行ったことないからようわからへんけど。
「こう、魔物に敵対心がなくって全然ヘイトが発生しねーんだよ」
ヘイトっちゅーのは敵意のことや。敵のヘイトを集めると攻撃のターゲットをもらうことになる。それは攻撃をすればするほど集まるはずなんやけど……
「それは変やな?」
「あーでもなんか人がいたかな? たぶん俺らと同じ……」
「なんやて?」
それは聞き捨てならんかった。
「しかもマリアちゃんと同じで来たばっかって感じだったな」
「当然連れて帰ったんやろな?」
ウチがそう訊くと、おっちゃんはそろそろと目をそらした。
「おっちゃあーん……?」
この世界に来たばかりの新人は街に連れて帰っていろいろ教えてやることが法で決まっておる。
そうでもしないとせっかくの才能が無残にも散ってしまう可能性が高いからや。
ウチは街に落ちたんでそんな心配はほとんどなかったんやけど……森に落ちたとなると、魔物に襲われる可能性が高い。そうだというにこのおっさんときたら……
「いやいやしょうがないんだって! なんか魔物狩ってたらすっげー睨まれてたし! 逃げられたし!」
「はぁ? なんやそれ」
魔物横取りでもされて機嫌が悪くなったのか? 遠距離タイプの職業なんかな?
「そいつ、特徴は?」
「ハーフエルフ、かな? ドロップ品っぽいローブを着てたな」
「そんなんどこにでも居そうやんか……」
「いやぁ、アレは見ればわかるぜ。ハーフエルフ……だよな? みてーな感じすっから」
「なんやそれ。まあええわ」
そろそろ誰かとパーティ組みたいウチはそいつを勧誘しにアクア湖の森に向かうことにした。
おそらくそいつはウチと同じ、レア人種な気がしたからという理由もある。
森はきれいなもんやった。森が綺麗というわけではなく、なーんも落ちとらへん。
誰かが既に全部持っていったような感じやった。
……魔物が飛び出してくる気配もナシ。ウチは森の奥の湖へ行くことにした。
ちなみに、ここ最近ハンマーが武器になっている。武器のハンマーでなく、鍛治用の鈍いハンマーなのに、や。
湖に近づくと、なんや声が聞こえてきた。けど遠いせいか内容は聞き取れへん。
そっと木の隙間から伺うと、二人の女がおった。
……間違いない、あのハーフエルフだと思うけどもなんか違う感じ。片方はおっちゃんが言っとったやつに違いあらへん。
こんなにすぐに見つかるとは思ってなくて、ウチはガッツポーズをとった。
いける。これはいけるで! ついてる、ウチ!
少しずつ近づきながらウチは出て行くタイミングを計った。
近づくにつれて会話が聞き取れるようになってくる。
「いや、私はもうちょっとモダンな方が好きかも」
「えー……レンガじゃ駄目なんですか?」
「悪くないんだけどさあ。でも木造が良いと思うんだよね」
「……まあ森の景観的にも木造は良いと思いますけど、それならやっぱりログハウスの方が……」
「うぅぅぅ……」
ハーフエルフ(?)がうなる。
それにしても何の相談をしとるんや? 建物っぽいけど……
そんな話をしつつ、もう片方の女は忙しなく手を動かしている。
あれは、スケッチブック? デザインでも考えとるんやろか?
じっと見てると、スケッチブックの方ができた! と声をあげた。
「……なんやと?」
すると、スケッチブックからしゅるりと建物が現れた。
2~3人は優に暮らせそうな別荘、という感じやった。
「できたー! 拠点完成だね!」
「はい! では約束のお肉を! お洋服をください!」
「建物の中見てからねぇ」
「ちょ、ちょっとユウリさん!? 待って! ……ず、ずるい。あたしもー!」
あっという間に二人の姿が見えなくなる。
ウチは胸の鼓動を落ち着かせるのに必死やった。
なんや、あれ。あの力があれば……ウチの工房が、作れるんやないか?
思い立ったらもう耐えられへんかった。ウチは建物に走り寄って、そして力の限りドアを叩いた。
「頼む! ウチも入れてくれ!」
何事かと慌てて家に招き入れられたウチは二人に囲まれ縮こまってしもうた。
い、いや。そんなことないし。むっちゃ堂々としてるし。
「あ、あの……」
スケッチブックの女がおずおずとウチに声をかけてくる。
「そんなに怯えなくても大丈夫ですよ。ここには魔物、来ないらしいですから」
「おおお怯えてなんてない! 魔物が怖いんとちゃうわ!」
「え? じゃあなんでそんなに挙動不審なの?」
「あ、知らない人にいきなり声かけられたら不安ですからね。自己紹介をしていませんでした」
スケッチブックの女が微笑んでそう言い出す。
そういえばまだお互い挨拶も交わしておらんかった。
「う、ウチはマリア……。10日前に異世界就職した鍛治師やねん」
「わあ! あたしもなんですよ。異世界5日目のメイです。職業は画家。よろしくお願いしますね」
「私は7日のユウリだよー。吟遊詩人なの。よろしくね!」
「そ、それならウチが一番の先輩っちゅーことになるな! 仕方ないからいろいろ教えてやっても、ぱ、パーティとか組んでやってもええで!」
……なんや、二人のまなざしが生暖かい感じがする。メイなんか頼りになるなぁ~と敬語を崩して子供扱いまでしてきおった。
なんでや!
「ウチならこの異世界で生き抜く術を教えられるで!」
「生き抜くのなら何とかなっちゃってるんですよね」
メイが苦笑する。
「そ、それなら! ウチを仲間にすればタダで武器と防具が選び放題や!」
「私は武器も防具も使わないけどね」
「ご、ごめんなさい……」
しれっとユウリが、申し訳なさそうにメイが言う。
「魔物と戦えたりしないの?」
「ウチは鍛治師や。武器は作れても扱えるわけやあらへん!」
ふふん。これが鍛治師の矜持っつーもんや。
「あ、そう……じゃあ特に必要でもないなぁ」
なんやて!? ウチ、今まさに捨てられそう? いやもともと拾ってもらってないけど、でも!
「お、お願いやから仲間に入れてやー! 工房欲しいねんっ! 売り上げは山分けするからぁ!」
思わずメイに泣きついてしまう。けど欲しいものが目の前にあるのにプライドなんか持ち続けていられへん。
「あ、そうだ」
おろおろするメイの傍ら、ちっともウチを気にしてへんユウリがぽん、と手を打った。
「何か弾く楽器作れるなら、どうだろう」
「作る! この際何だって作るで!」
そしてウチは念願の仲間を手に入れた。
あ、いや念願じゃなくて……そう! 偶然! 偶然パーティを組むことになったんや!
マリア・レンジョウ 18歳
元の世界では大学1年生。学部は心理学部
こちらの世界では鍛治師
種族はビーストっぽいレア人種
体力C 魔力E
攻撃C 防御D
知力E 抵抗E
敏俊C
人見知りB 強がりS
心の中と実際にギャップがある。
ちんまいので妹ポジから抜け出せない。
エセ方言の関東人。




