画家・メイ
「ふぁーんっ! こんなことなら何でも完璧に描けるって書いておけばよかったですよー!」
この世界に就職してからあたしはもうずっと林檎ばかりを食べています。
ファンタジーの求人募集の履歴書を書いたのは5日前。
そこの特技欄につい本当のこと……いや、ほんのちょっと盛ったけど……だ、大体本当のことを書いてしまったせいで豊かな生活ができていません。
本当に……どうして人物画と静止画と……あと建物(デマ)が描けるって書いちゃったのでしょうか……。
実は、私がなった画家という職業は完成させた絵を画龍点睛の故事のように実体化させることができます。
ただし、上手く実体化させるには紙の質と絵の上手さが重要みたいで……カレーを描いてみてもカレーっぽい半透明の物体が出来るばかり。ここのところずぅ……っと林檎ばかり食べています。
はぁ……ほかほかのご飯、食べたい……。
ご飯のためになぜか最初から持っていたスケブと色鉛筆セットで今日もせっせと絵の練習をします。
「あー! どうしよう……赤がなくなっちゃいそうです! これからは青りんごを食べるしかないのですかっ!?」
赤い林檎と比べたら青りんごはこう、テンション上がらなくなるんですよねぇ。
はぁ……とアンニュイになりながらあたしは湖のほとりで溜息をつきました。
そして、ぐぅ~というなんとも情けない音がお腹から発せられて、湖のほとりに響いていきます。
「お腹……減りました」
「さっきすごい音してたけど、大丈夫? 食べてる?」
「ふおあああああっ!?」
まさかの返事! 返事返ってきました!! 人に会うのは久しぶりですーって後ろを振り返ったら、人……というかノーマンじゃありませんでした。
「ハーフエルフ……?」
その姿は人種選択のところにあったハーフエルフに似ていました。けど、何か、どこかが違うような……。
そのハーフエルフは突然大声をあげたあたしにびっくりしたのが若干引いてしまっています。
「あ、お、脅かしちゃってごめんなさい……?」
恐る恐る謝ると、そのハーフエルフはにっこり笑いかけてくれました。
「平気だよ。あ、私はユウリ。一週間前にこっちに来たばかりの新米吟遊詩人なの。よろしくね」
「来たばかり……あ、あたしはメイ!画家ですっ!あのっあの……もしかして、ユウリさんも求人募集で?」
「よろしくね、メイ」
ユウリさんはのんびりとそう言って、それから一拍呼吸を置きました。
も、もしかして……見当違いのこと言っちゃったのでしょうか……?
「あ、うん。そうだよ。じゃあメイもそうなんだね」
あっさり! しかも普通それは先に答えてくれるべき事なのではないでしょうか!?
でも逆にこの反応は私達の状況をわかっているのかもしれません!
一週間前に来たと言っていましたし、私よりこの世界になじんでいる風です!
これは頼りになりそうな予感ですね。
「そうなんですよ……ところでユウリさん。ここがどこだか知ってますか?」
「え? ああ、ここ? 私もよく知らないなぁ」
「えっ」
「いや、実はさ……まだこの森から出たことすらないの。えへっ」
「う、うわあああんっ! 私の! 私の安心感返してください!!」
思わずユウリさんの服の襟をつかんで揺さぶってしまいました。
「あわわわわわわ」
ユウリさんの口からうめき声がもれます。
そこではっとして、つい襟から手を放してしまいました。
どさりと倒れ込むユウリさん。そこであたしは重要なことに気付きました。
「あれ、ユウリさん。じゃあその服はどうしたんですか?」
ユウリさんが着ていた服は明らかに現代世界のものではなく、漫画かテレビの中でしか見たことがないようなローブでした。
「いたたた……いきなり何かと思ったよ。……あ、服?これはね、なんか魔物がおみやげに持ってきてくれたの。やっぱり服はいつまでも同じの着てられないよねぇ」
え、なんですかそれ。吟遊詩人って魔物を手なずけられるんですか。初耳なんですけど……って。
「……魔物?」
「うん、魔物」
あたしとユウリさんはしばらくじーっとお互いの目を見つめ合いました。
魔物。……それはもしや。
「人を襲う?」
「あ、うん、襲うみたいだね。討伐隊が来てたよ」
「この森に?」
「けっこういるよ。見かけなかった?」
「し、知りませんよー!! いやああああっ」
「大丈夫だよー」
「大丈夫じゃありませんよ!」
何が根拠で大丈夫って言ってるんでしょうか、この人はっ!
魔物は普通大丈夫じゃありません!!
「でも今まで会わなかったんでしょ?」
「……それはそうですが」
「じゃあここは魔物が来ない場所ってことだよー」
どうやら彼女なりにちゃんと理由があったようです。
というかそれならそれでそんなのんびり言わないでちゃんと説明して欲しかったですが。
「ねね、それよりもさ。このテントはどうしたの?」
ユウリさんは湖のほとりにおよそファンタジー世界に似つかわしくないテントを指差して言いました。
「それはあたしが絵を描いて実体化させたものです」
本当は建物系は描けないんだけど、なぜか描けるのだ。それはたぶん、あの特技欄のせいで……そしてあたしは『何でも完璧に描ける』と書けば良かったのにと思ったのでした。
「へぇ」
ユウリさんがにんまりと笑いました。
「それって食べ物も?」
「それが……うまく実体化できなくて、リ、林檎くらいしか……」
「あ、よかった」
あたしは全然よくありませんよ。
「じゃあ私が食べ物と身の回りのもの用意するから、私に寝るとこちょうだい? あ、そうだ。パーティ組もう、パーティ」
にこにことユウリさんが言います。
「た、食べ物」
一方あたしは、ごくりと喉が鳴るのをおさえられませんでした。
「……お肉とか、食べたくなってない?」
その時のあたしには、ユウリさんの微笑みが女神の微笑みに見えました。
「ぜひ! ぜひよろしくお願いします!!」
そしてあたしは異世界で生き抜く術を手に入れました。
その選択肢が合っていたかどうかは別として。
メイ・ハナエ 20歳
元の世界では大学3年生。学部は文学部
こちらの世界では画家
種族は秘密
体力F 魔力C
攻撃E 防御E
知力C 抵抗C
敏俊E
素直A 常識A
常識人。怒ると口調が豹変する。
変わり身が早い。




