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吟遊詩人・ユウリ

 目を覚ますと森にいた。木々の隙間から伸びている蔦はひとりでにうにょんうにょんと跳ねており、どこからか奇怪な鳥の鳴き声がする。

 一方私は部屋着と裸足のまま、右手には縦笛。

 まったく状況が掴めず、私はただ絶句した。

 右手に握った縦笛は木製のシンプルなつくりだ。なんかオシャレなリコーダーみたいな。

 いやいや、そんなことはどうでもいい。それよりも問題なのは「ここはどこ?」という記憶喪失の人が真っ先に言いそうな言葉が頭に浮かんだことだ。

 私は誰?

 ……これは流石にシャレになんない。

 私は記憶喪失にはなっていない……そう、たしか私は部屋のパソコンに向かっていたはずなんだけど。

 そこまで記憶を手繰り寄せて、ようやく私は思い出した。

 そしてその意味を整理する。次に周りの状況を加味する。

 やがて導き出された結論に、ついに声がこぼれた。

「わ、わ、私……異世界にひとりっきりで放り出されたー!?」



 日がなスマホやPCに向かって特定の誰かと延々お喋りしている人がそこそこに多い昨今、私も当然のようにネットで知り合った友人たちとお喋りするのが好きだった。

 けれど、よくあることの一つとして、特に仲の良かった友人が次第にチャットに参加しなくなり、やがてぷつりと連絡が途絶えた。

 多少の気がかりと未練はあったものの、リアルが忙しくなったりと理由はいくらでも考えられるから、名残惜しみつつも何があったのか積極的に調べたりはしなかった。

 その代わり、私はその友達と喋っていた時間を他のことで潰すことにした。

 ひたすらネットサーフィンする時間はそこそこ面白く、そしてある時ひとつの企画サイトにたどり着く。

「へぇ……ファンタジー世界の求人募集か~」

 面白そう、とうきうきした気分で『応募』ボタンを押す。

 すると空白だらけのゲームのステータス欄のような画面が現れた。

 いくつもの職業、そして人種、履歴書風に自由に特技や資格を書く欄まである。

 手始めに職業の項目をクリックするとページの右側にずらっと職業一覧が現れた。

 左側には検索機能とジャンル一覧がある。

 職業一覧はイラスト付の豪勢なものだ。

 どんな職業があるのだろう、とジャンルで絞る前に職業一覧をスクロールする。

 剣士……ファンタジー世界の代表的な職業だ。

 いやでも重い剣とか鎧とか、厳しい修行とかやってられない。却下。

 魔法使い……これは花形職といえるだろう。

 私もゲームをするときは魔法を重用するだけあって好きだが、すぐに決めてしまうのもアレなので保留する。

 シーフ、武術家、召還術士、ヒーラーなどありとあらゆる魅力的な職種が並ぶ。

 中には遊び人、町民、貴族子弟なんてものまである。

「何でも選び放題なんだぁ……」

 感心しつつ私はありとあらゆる職業を見ていた。

 そして、ある職業を見つけ、私の心が急速にそれに惹かれていった。

「吟遊詩人……!」

 説明欄には『気ままに音楽を奏で、自由に世界を巡り物語を収集する旅人』とある。

 私は音楽が好きだ。別に中毒ではないけれど、歌うのも、演奏するのも、聴くのも好きだ。

 そして、自由に旅をする……それはものすごく魅力的だった。

 誰に指図されることも、押さえつけられることもなく、ただ自由に……。

 気がつくと私は、『この職業にする』ボタンをクリックしていた。


 次に選べるのが人種だった。

 ノーマン。いわゆる人間。突出した技能はなく、すべてにおいて平均的。

 エルフ。魔力が高く、軽い身のこなしと優れた視力が特徴。オススメ職業は魔法使い、弓使い、シーフ。

 ビースト。獣人。見た目はほとんど獣のような姿の者から、人間に獣耳をつけただけのようなのもいる。模した獣と似た身体能力を得ることができる。オススメ職業は物理攻撃職全般。

 ハーフエルフ。ノーマンとエルフのハーフ。突出した魔力と知力を持つ。オススメ職業は魔法職全般。

 機人。肉体と機械が融合した人種。防御力が高く、手先が器用。オススメ職業はナイト、クラフト系全般。

 この5種類から選べるらしい。

 ノーマンだけオススメ職がないのはすべての職業に適正があるということなのだろう。

 エルフの幅が狭いのは何か意味があるのか、はたまた当てはめに苦労をしたのか、さすがにそこまではわからない。

 それはともかく、選ぶとしたらノーマンかビーストが良いのだろうけど……

「なんかどれもしっくりこないんだよなぁ」

 職業は数え切れないほどあったのに人種は5種類しかないし。まああまりたくさんあったら大戦争が起こりそうだけどね。

 ページの上部と下部を行ったりきたりしていると、不意に機人の下にリンクがひとつ貼ってあることに気づいた。

 星形のボタン。私はそれを期待をこめてクリックした。

 アルフ。ハーフエルフに似た、絶滅したはずのエルフの祖。魅了をもたらす特殊な種族。オススメ職業は幻術使いと芸術系全般。

 ん?どうして芸術系がオススメなんだろう。

 ……まあいいか。隠し人種っぽいし、レアな気がするからこれにしよう。とはいえ、こんなにあっさり見つかるなら当然他の人も見つけてるだろうけどね。


 特技欄は自由記入なので少し悩んだ。

「せっかくだしいろいろできることにしちゃおうか!!」

 すぐにチートに決定した。

 そして記入したのがこちら。

『初見の楽器であってもすべての楽器を弾きこなすことができる。

 自分の思い通りに完璧に歌うことができる。

 音楽で人を元気にしたり感傷的にさせたりできるほどの腕前。』

 吟遊詩人ということに気をとられて旅人的特技を入れ忘れたりしたのだが、記入した時にはまったく気づかず、そもそも本当に必要になるなんてこれっぽっちも思っていなかった。

 ちなみに吟遊詩人的資格は思いつかなかったので白紙にした。

 最後に、残しておいた名前などの個人情報だ。

 さすがに住所欄はない。あったらいろいろと疑う。個人情報の流出は、怖い……!

「名前かー」

 少し考えたが本名にすることにした。作ったキャラではなく、自分がそうだったらという想定で今まで埋めてきたのだからそれでいい。

「女、19歳……と」

 すべて記入し終えて、私は『送信』ボタンをクリックした。

『ありがとうございました! 採用の通知は3日前後でお届けします。お便りがなかった場合は不採用となりますのでご了承ください』

 画面がぱっと変わり、そしてそんなメッセージが現れる。

 メールアドレスも住所もないのに、こういうところまでこだわるのは何かいいね。

 最後に楽しかった、とつぶやいて、そして私は次第にこのことを忘れていった。


 そして、3日後、それは突然現れた。


 パソコンの画面が突然ブラックアウトし、次の瞬間には真っ白になる。


『おめでとうございます! 審査の結果、あなたは【採用】となりました! これからよろしくお願い致します』


 ――ファイト! 応援してるわ、ユウリ。


 頭に響く声。そして、気がつくと、見知らぬ森に倒れていた。



 うにょんうにょんと唸り(?)をあげる蔦からそっと目を逸らし、私は3日前の回想を終えた。

「嘘でしょ~……? ガチなの? いきなりこんなところ放り出されたら餓死するか獣に殺されるかどっちかだよ!」

 叫んで、そしてはっとする。

「獣に殺される……?」

 ここはファンタジー世界。そして職業には明らかにモンスターを狩ると思われるものがたくさんあった。冗談にならなさそうだ。冗談じゃない。せっかく念願叶って吟遊詩人になったのに。

 異世界に飛ばされたことは、突然過ぎたけどまあ良い。

 吟遊詩人になれたらしいのはとてもうれしい。それどころじゃないのはわかってはいるが、うれしいものはうれしいのだ。

 ただ、すぐにゲームオーバーはいただけない。

 とはいえ、どうしたものか……

 ただいまの所持品はなぜか手に持っている縦笛だけだ。

 おそらく初心者装備のようなものだろう。

 ふと私は履歴書に書いたことを思い出した。

『初見の楽器であってもすべての楽器を弾きこなすことができる。』

 私自身、弾ける楽器はピアノと金管楽器くらいだ。しかも弾きこなすことはできない。

 何せ小学生の頃金管バンドに入っていたっきりなのだ。木管楽器は触ったことすらない。

 それでも私は自然と縦笛に息を吹き込んでいた。

 まっすぐな、柔らかな音が鳴る。

 すると頭の中にメロディーが溢れ、指が意思を持つように動きだした。

 できる! ……私、音楽を奏でている!

 感動はさらに音楽を加速させる。

 音楽に気づき、蔦がこちらを向く。動物が顔をのぞかせる。見たことのない生物まで現れる。

 音楽は軽快に流れる。

 これはこの森のメロディだ。だから好意的に受け入れられる。

 知る由もないことを、私は感覚ではっきりと理解していた。

 そしてその音楽が終わるとき、私の目の前には複数の食べ物が贈られていた。

 さらに、好意的な目で私を見つめる動物が数匹残っている。

 ……勝てる! 私、なんとかこの世界で生きていけるはず!

「とりあえず、なにか飲めるものはないかな?」

 演奏を終えて、すっかり喉がカラカラだった。

ユウリ・タカナシ 19歳

元の世界では大学2年生。学部は神道学部

こちらの世界では吟遊詩人

種族はアルフ

体力E 魔力D

攻撃D 防御E

知力C 抵抗E

敏俊D

順応力SS


楽観的でマイペースな性格。

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