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どーる  作者: るーたん。
3/3

天使の涙

目が覚めたのは傷んだ木材の木の芽。

手入れされない植木。

テーブルの上には光に透けるティーポット。

注がれた橙色の液体。湯気と花の香り。

それと、彼女。

ゼロの腰にはいつもの槍ともうひとつ―。


「…リニア」


ふ、とそれに触ると黒髪に銀のチェーンが光る。


「しょーがないから、力を貸したげる…よ。」


その白い頬がほんのり赤く染まる。


「うん。これからよろしく、リニア。」


リニアはフン、と鼻をならすと剣に戻った。

もう、それはただ重い剣では無かった。

光を反射しているから彼は光り、輝ける。

ならば俺は、月を照らす太陽になりたい。

彼の力を最大限まで引き上げたい―。楽しませたい。この世界を。この運命、俺の手に渡ったことを―。


「…リニアってさあ、希に見る90%ツン10%デレのツンデレだよね―」


彼女の口もとが綻び、緩まる。

俺はしばらくその彼女を見ていた。綺麗だった。

我が光り輝く彼女は俺を照らしている―。


「ん~?なあに?見すぎだって、ヴィヴァ」


俺を向き笑う。

その笑顔のために俺は戦いたい。

何かのために何かを犠牲にしろと言うのならば

彼女のために俺を犠牲にしたい。

彼女の涙は見たくない―。


「ゼロは笑ってる顔が一番可愛いよねぇ」


「はぁっ…!?いきなりなに―」


「皆強くて男勝りとかゆってるけど…ゼロはちゃんと女の子だよね、泣くし…弱いもんね。可愛いよ?」


「いきなり何よお…煽てても何も出ないんだけど?」


「…出なくていいし、俺が出すから」


「今日変なんだけど―?」


君の笑顔が好きだ。

君が好きだからじゃない。ただ、好きなんだ―。


「まあ、そーゆーことで前線に復帰しよーぜ。

二、三日狩ってないし、訛りたくないしね。」


「どーゆーことよお!!」


少し怒った顔をしておれに頭突きを喰らわせる。

ゼロの石頭はとにかく、硬い。

漫画によく出てくるごっちぃ〜ん。とかゆー擬音語が何処からともなく流れてきそうで流れない―。


「マリカの泉の現在前線プレイヤーは?」


「んーっとね。セルバスのパーティとウンディーネの正騎士団の奴等よ」


「正騎士団…うざい奴らだな〜」


正騎士団。

その名の通り、騎士の軍団。自称正義。

この世界の中の軍団の最大規模を誇る。

が、今となっては上の上以外はただの数集めの様な物になっており、少数団の月陽炎に討伐数は抜かれ気味になっている。


俺達は団に所属しておらず、セルバスのパーティの様に大勢で組み、前線に行くわけでもない。

俺達は生粋のソロプレイヤーであり、この世界生涯のコンビを組んでいる。

死ぬまでお前とだけコンビを組む、という契約。

形だけでいつでも破棄は出来るものの、それは信頼の証であるからして―。



俺はこのゲームに入りたての頃。

花組 という団に所属していた。組 というのも、この団は五つのグループに別れており、花組はその中でも二番手を張る優秀プレイヤーの巣だった。

花組、星組、風組、光組、闇組。

この五つは団募集掲示板には乗らない闇結社だった。俺はそれを知った上で入団し、鍛錬した。上に行くためだった。


だけど入団して2ヶ月。

俺は悠々と団長より遥か上へと上り詰めた。

もう、そこに俺に叶うプレイヤーは居なかった。

必然的に俺はその団を抜けた。


と、団の説明はもうここで終わるとして―。


「ん?ヴィヴァ?どーしたの?」


「…いや、なにも。」


マキ・アラロウネ と キース・チターニア

彼等もまた、俺と同じ理由で団をぬけたプレイヤーだ。彼等は今どうしているのだろうか―。


「置いてくよ―!!」


「えっ、待てよ―」


些か強くなっているだろうか。

また、どこかであうことはできるだろうか―。


















「…キレーだね、ジュリア」


「…キースね…お久しぶり」


マリカの泉のほとり。

二人の男女の影。

水浴びをする女性と、それを眺める男性。


「ねえ、ジュリア…殺してもいい?」


「どうぞ?」


彼の刃が彼女の喉元を突き刺す。

赤い花びらが水面に散らばった。



「…ジュリア」


「…なに?」


「俺を殺して」


「…………………だめよ。」




赤い花びらが、透明な水に飲み込まれていく。

突き刺さる剣を抜き、彼は彼女に口付けた。



「つぎ会うときまで 死なないでよねジュリア姫

お前を殺すのはこの俺しか居ないんだからさ」


「楽しみにしているわ、キース・チターニア」


緑黄色の葉が彼等を隠す。

それはまるで夢のように諸刃の剣も水のように

サラサラと、溶けてゆく。









「ちょーろーいーんーだーけーどー♪」


「マキ、うるさい。」


「アリスこそ、そんな返り血浴びててあたしに説教たれないでよねえっ!こんなとこ、さっさと攻略して終わらせましょーよ!あたしケーキ食べたい!」


「…ボス、倒してから言ってよね、

これ、返り血じゃなくてあたしの血だし…」


「…え?」


「雑魚ばっかりやってて、見てないの?

あのボス…一筋縄じゃ行かないんだけど?

ケーキは…おご…るから、て…つだって…」


「ちょっとちょっと!アリス…?」


どさ、と倒れたそれのHPバーは赤く染まっている。

琥珀色の髪の少女はそれを見つめている。


「…マリカの泉のボスがこんなだって聞いてないんだけど…絶体絶命なんですけど…」


グチグチと零しながら彼女はコートを脱ぐ―。


「…1分で終わらせるからあ、待っててよアリス!!」











「な…何よ、コレ…さっきボス攻略終了!?」


「みたいだねえ、」


ゼロの顔が歪む。彼女は一番じゃないと気が済まないタイプだからだ。


「いったいどこのどいつよおおおお!!」


愛槍を振り回し、吠える彼女。

相変わらず彼女の手元の槍は長く清く美しい。

天使の涙―。

この世界に二つとない強剣。いや、強槍。


「次んとこ一番乗りすればいーじゃん?」


ギラリ、と俺を睨むゼロ。


「さっさといきましょ!ワープは出来ないし!」


俺の手首を掴み、走り出す彼女。

長い髪が揺れ、ちくちくと痒い。


俺は幸せ者だなーって思う瞬間でもある。


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