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どーる  作者: るーたん。
2/3

リニア

最初に見たのはオレンジの光。

みかん、の意味じゃなくて。

最後にプレイしたときのセーブポイントのデールの街は、レトロというかムーディーというかな雰囲気と証明だからである。

デールの街は二週間前に探索終了され、まだまだ未開発でプレイヤーも少ない。が、ちかくの洞窟から鉱石が沢山取れることがわかり、始まりの街から非属性の商人プレイヤーが押しかけている。

いま最前線のプレイヤーたちが殲滅、探索を続けているマリカの泉も近いことから、セーブポイントにはいつもここを使っていた。


ちなみに、というと

セーブポイントは街の至る所にあるが、自分専用のコマンドにもセーブというものがあった。

セーブをし、ログアウトしたその場所からスタートするので、安全な場所でログアウトした場合は良いが、モンスターや魔物がうじゃうじゃいるところでログアウトした場合危険があるので、ゼロと合意していつも最前線の場所に一番近い街でログアウトをしていた。


だが、もう俺達のコマンドにセーブ、ログアウトというものは、無い。勿論、街を歩き回っても無い。

お分かりの通り、セーブする必要がなくなったから。



ダイブしてから一時間ほど経って、俺たちの目の前に大きなビジョンが現れた。

街のプレイヤーたちが一斉にそちらを見る。

写ったのは先ほどの受付員。

俺たちに説明したことを順に話していく。

違ったことは現在ゲームダイブ者が増えて52880人になったことと、死の説明。

このゲーム内の死は本物だということ。

尚、お亡くなりになられたプレイヤーの方々は、

各街の入口に石碑を設立致しましたので、お亡くなりになられた時点でその石碑にプレイヤー名をお書き致します。

そして、最後にあの言葉。

クリアを目指し励んでくださいませ。―と。

そしてビジョンが閉じる。

そしてもう開くことはなかった


街のプレイヤーたちの顔は希望を持っていた。

だけど、反対に死の再来に心を病み、涙を流すものもいた。

これまでは、死ぬということがなかったから。

自覚を持つ必要もなかったから。

少しの金と、再ダイブのライフの減少でそれはすべて終わっていたから―。


これは、もうゲームじゃない。

これが、世界だ。

これが、俺であり、彼女であり、全てだ。

死は平等にはもうお訪れない。

弱者は死に、強者が生き残るのだ。

これだけは、旧惑星地球の社会理論に基づいて同じと言えることだろう。


俺はなんだか怖くなかった。

自分の腕にそこまでの自信が無い訳でも無かったし

彼女の腕を心配する必要もなかったから

だって、彼女の髪は、今も黄金であるから―。

最初の一歩は重いというけれど、想像よりはるかに軽かった。楽しんだ。状況、情報、今のすべてを、俺達は楽しんでいたんだ。

恐るものは何もない。

醜いあのものたちはもういない。

光は光のまま、俺たちを照らし続けている。


「…行きましょうか、ヴィヴァ。」


「ああ、ゼロ。」


俺達は歩き出した。

オレンジ色のレンガ、赤色のレンガ、黄土色のレンガ。そんなことはどうでもいいのだけれど、踏みしめた大地は硬かった。

柔らかい手のひらのぬくもりはまだ消えないまま、

熱を持って皮膚を伝う。


俺達は生きている。

生きているんだ。俺達は―。


風が吹き抜けた。

冷たくも暖かくもない風だった。




マリカの泉とは別にもうひとつ探索中の場所がある。サニーの森と言う所で、ボス発見から討伐不能状態が続く場所だ。

今となってはボスの館に立入るものは居ない。

それは『死』があるから。であって、サニーの森は現在マリカの泉よりも難所になっている。

何故こんな事を言うのかというと―。

只今現在なう。サニーの森に居るからだ。


遡ること一時間前。

俺達は街でも有名な鍛冶屋アントルメの元に居た。

それはダイブ前の最終プレイの際に依頼していた剣

『魔剣マカリュフテス』を引き取りに行っていたのだ。マカリュフテスはアントルメの最高傑作と言われる魔剣で、ジュリア塔の中の両手用剣の中でも五本の指に入るそれはそれはすんげー剣だ。

お値段と素材も一線はくだらないが。


光沢と美しい刃。

ずしり、と重い剣の柄は純白にかかる漆黒。

有り余る力を感じた。

ひと振りした切っさきからかまいたちのように鋭い風が舞い起こる。ニコ、とアントルメの広角が上がり、お粗末さま。と一言いうと、店内に消えていった。

…先程からゼロの視線が熱い。

俺に、ではなく『マカリュフテス』にだ。

突然だが、魔剣聖剣と呼ばれる物達には精霊が宿る。その精霊と契約を交わすことでその剣の本領を発揮するのだ。ゼロの眼はまさにそれを早くしろ。というものだった。


「…広場に行こう、ゼロ。

精霊の契約をするからさ―っと、うわゼロ早い!」


何時もの槍使いより毛頭早い豪速球で街を駆け抜ける。引っ張られた腕が痛いと感じ始めた時に、ちょうど広場に着く。


「初めて!」


急かされて躓きそうになりなぎらも、

広場の石畳に魔法陣を描き始める。

書きおわり、円の中心に立ち―。


「…魔剣マカリュフテスに宿りし精霊よ

我の想いに答えよ…我の盾となれ我の矛となれ

我の翼となり空を凌駕しろ―…いでよ精霊!!!」


魔法陣が青白く光り、空を裂く閃光となる。

天を荒ぶ風が舞い上がる。

静まりかけたそれに映る影。


「…初めまして 我が主人。

我はこの魔剣マカリュフテスに宿る魔の精霊

名を…リニア…と、申します」


漆黒の髪に映える銀の瞳。

黒の衣装に身を羽織り、銀の鎖を全身に纏った。

それはまるでカラスと言うべきか。否か。

威圧感が痛かった。

まるで目の前に絶対に勝てないと言われた敵が何全体も居るような―上手く言えないけれど。


「俺はヴィヴァ。お前と契約を交わしたい。

条件はない。俺の剣となり力となってくれ。」


「…我は強い者にしか従わない」


鋭い眼光が俺を問い詰めるように指す。


「…どうすればいい」


「…サニーの森に…ケルベロスという火の魔物がいる。それを…倒せ」


「…精霊はなんでも知っているんだな―…はは」


ケルベロス。

サニーの森のボス。攻略不能の―。

俺たちが一度致命傷を与え、与えられた。

あれは、とても月が綺麗な夜。

飛び散った血が火の様に燃えた。

ゼロの判断で、俺達はそこから逃げ帰った―。

とどのつまり、俺達は負けたのだ。

悔しい思いは3日間俺を蝕んだ。直ぐにマリカの泉へ最前線が写ったから、俺達はそれからサニーの森には行かなかった。


「…行こうか?リニア。」





そして今に至る―。

暑い。実際気温は36度位なのだろうけれど敗北の事もあるからかもしれない。体感温度は余裕で40度を超えている。手汗も止まらない。

だけど。負ける、という感覚がなかった。

勝つ自信ではなく、負けない自信。

過信ではない。俺の力は本物だから―。

重い扉に指を動かす。

ボスの館へ入りますか?と、ウィンドウが開く。

躊躇い無くyesのボタンを押す。

ギイイ、とその扉が開き、俺達はその奥に足を踏み入れた。




「うわぁ…変わらずでっけー」


緋色の巨体に二つの頭が目立ちすぎた。

吐いた息に火の粉が飛び散り一気に気温上昇。

グガアアア、と雄叫びを上げる。


「さーって、ちゃっちゃと終わらせますか!

行くよー、俺の愛犬ちゃんッ…オラァ!!!」


最初からフルマックスで剣技をブチ込む。

マックススピードで懐に入り込み切り刻む。

ケルベロスの皮は思った以上に硬い。

何度切っても最層部まで刃が届かない。


「ヴィヴァ!!!入るよ!」


「はいってくんな―!!!」


ゼロの閃光が目の端に入り、強引にそれを出す。


「倒れちまえ!ブレアスソニック!!!」


ブレアスソニック―。

空中剣技の奥義技。流石にこれは入ったか―


グルルルルル…。


「まじかよ―…」


倒れない巨体にイラついた。

受けたダメージなんかもう気にならなかった。

打ち付けられた体を強引に起こし、切り込みに行く。自分のライフゲージが黄色に染まるのが見えた。

楽しかった。

切り刻む、殺す快感いうもの。

死ぬわけには行かない。でも今止まるわけにも行かない。


「おらァ!!!倒れろォ―――――!!!」


渾身の一撃。

確かにあれの首元にクリティカルヒット。

荒く溢れた息に等しく、己の血だらけの体を改めて見つめた。


「ハア…ッ…ハア…ッ…なんで倒れねーの…」


あれも血だらけなのに。

かみきられた唇辺りから血と唾液が溢れている。


「もぉフラフラなんですけど〜

しんどいん…です、けど…」


チラ、と目視したライフゲージは赤に近づいた黄色を保っている。


「…ヴィヴァ。」


落ち着いた彼女の声は俺を落ち着かせる。


「…お前はこの状況どう判断する?」


「このまま続行よ」


「…うん。」


走り出す。

大地を蹴った足が痛むことをも忘れた。


「…女…ゼロとか言ったっけ?」


「なによ、リニア」


「あいつは…面白いな」


「…強いのよッ!あたしの幼なじみなんだから―」


「…好きなの?」


「さあね?」


「フン、まあいいけど。もおそろそろ終わりそーだね」






ズガアアアアン!!!!!!!!




「…あ〜死にそう…。もお、寝る…おやすみ…」




暗黒に飲み込まれていく意識の中。

リニアの微笑みが見えた気がした。

視界の端で己の腕に契約の紋章が見えた。

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