ジュリア姫
青木 雷鳥
16歳 現役高校生 陸上部所属
髪の色/黒
目の色/黒
特技/バーチャルオンラインゲーム内において前線トッププレイヤー『両手剣使いのヴィヴァ』であること。
桜川 紅姫
16歳 現役高校生 テコンドー部所属
髪の色/金
目の色/黒
特技/バーチャルオンラインゲーム内において前線トッププレイヤー『閃光の槍使い・ゼロ』であること
俺達は三歳からの幼なじみだ。
だから親の次に一緒にいた時間が長い。
相手の事はなんでも知ってる―。大まかな事は。
だからって、こんな所で会うと思っても居なかった。
ジュリア塔。
ここの正式名称は
バーチャルオンラインゲーム『ジュリア塔』。
だが、これはただのバーチャルゲームでも、オンラインゲームでも無い―。
五感。あらゆる触覚や、感情、情報があり、
それらを組み立て、合成し、追加し、出来たもの。
零点零1ミリの小型チップを呑んだあの日から、
俺は現実とパラレルワールドを行き来している。
ここは正真正銘の地球。日本国の東京都。現実世界。そして、もう一人の俺ことヴィヴァが存在するのも正真正銘の『世界』であり、名をジュリア塔。
だけどわかっていて欲しい。
俺は二人も居ないし、『本物の』俺はこの俺だ。
それは、彼女桜川紅姫も同じこと―。
ジュリア塔を詳しくかつ簡単に説明すると、
目的は『カムルの街に立つジュリア塔にいる姫を』
『殺すこと。』
普通のゲームなら助ける、とかだろうけど、
殺すってとこがこのゲームの斬新さで面白い。
カムルの街はゲーム開始時に開放された始まりの街から約二万キロ離れたまだ場所未特定の街。
その街に生物がいるか人間がいるかは全くわからない。
ちなみに二万キロといってもこの世界にはワープと飛行というものがある。
一度行った街にはワープ石を使えば行けるし、
初期設定でfairyの飛行可能、つまり『フッカ族』もしくは『アーネロ族』を選べば飛べる。
monsterでドラゴンを選べば飛行可能は可能だが、
成長が遅く武器も防具も使用不可、始まりの街にも行けず、森にほっぽりだされるのでまず選ぶ人はいない。
今一番人気なのは、水属性humanのウォーリア族。
攻撃力はあまり高くないが、魔法と体力に長け、
そして最も美しい羽を持つという―。
飛べないけど。
俺にはわからないな、飛べないのに。
肝心の俺達の種族はというと。
俺達はそのへんにいるプレイヤーとは違う。
一万人に一人、と言われるこのゲームのデータに適合する脳を持つ人間。それが俺たちだ。
そのため、俺達の初期設定は選択不可だった。
選べる種族はひとつしかなかったし。
選べたのは外見設定だけだった。
『聖騎士ウル』『聖女マリア』
種族と呼べない。呼べるものがない。
この世界にはあと数人、下手をすれば『聖』の名を持つプレイヤーは俺たちだけかもしれないから―。
ふたりぼっちとはこのことだね。
でも、俺達はゲームを初めてすぐ出会った訳でもなくて、始まりの街から2つ行ったセイドの街の酒屋でであった。初めてあった時、お互いのアイコンを見て目を見開いた。
『聖』の名を持つプレイヤーにしかみえない自分のアイコンと相手のアイコンが琥珀に輝き、やがて同時に白に変わる。―仲間?―貴方も?―そうか。
その三日後、お互いを知るために落ち合ったシラクの街で自分たちが長年付き合ってきた幼なじみだということを知る。これには本当に驚いた。
さて、話がとても其れてしまっけれど、
俺達は姫を殺すためにこのげーむにダイブしている。
つまらない、腐りきった世界に指した光にすがりついて。
地球温暖化、その他諸々がもうすぐ地球という惑星に猛威を振るうだろう。それはもう予想ではなくて、確実に、明確に、地球人の心を蝕む闇になっている。
さした光にすがりついていても、本物の俺が死ねばその世界もなくなり、消え去ることは皆わかっている。それでも離せないのが人間の性と言うものか。
みんな死にたくないのだ。消えたくないのだ。
そのために溺れるように飲み込まれたのがこのゲーム。爆発的売上を期に今では二万人待ちとなり、現プレイヤーは十万人を超えた。
これが今の地球という惑星の現状だ―。
「…青木…お前も?」
「…町田先生には関係ありません」
「ま、待ってくれ!頼む…!あれを譲ってくれ…!」
「…サヨウナラ」
「青木ぃ!わかっているのか!?大学行けなくするぞ!?」
「…大学に行く頃…この世界がまだあったらね」
「…頼むよ…頼むよォォ!俺は死にたくないんだ―」
町田は嫁がいる。子供がいる。
いつも疲れきった顔をして無理をして笑っていた
だから、俺はすっと足を勧めていつものように剣を持ち彼の首元に振りかざした―。
『切れる』感覚。恐怖に怯える顔を見た
寂しく、侘しく、この世界にたった一人でいるような顔をした男の手をあげて自分の額に当てる。
「欲しいのならばこれを切り捨てろ」
「…え?あれは…ヘットギアで…」
日が暮れた教室は嫌にシーンとして二人に早く出ていけと言った。もうすぐ闇が来るから、と。
雲が晴れて月が出た。空を食う月が出た。
今にも飲み込まれそうに黄金の光が降り注ぐ。
「…青木…お前…眼、眼が…」
琥珀に輝く瞳を見た。
黒髪の隙間から月の光よりも強くまばゆいもの。
窓際に降り立った、それはまさに。
「…もうすぐ闇が来る」
「…え?」
「もうすぐ光に地球は飲み込まれる」
「い…嫌だ!助けてくれ!青木―」
「…醜いよ 先生」
「あお」
「もういい…どうせ死ぬんだ。ここで死ねば?」
振り上げた。その剣を。
止めたのは黄金の髪を靡かせた彼女。
「…あらぶるな、馬鹿。落ち着け。戻れ。大丈夫だ。私はここにいる。お前も、ここにいるだろう」
「…フン…世の中にはこんな奴が死ぬほどいる
俺はいつまでこんな醜いものを見ていかなければならない?もう疲れた!!」
人振りでガラスが割れる。
破片が光を反射し、音を立てて地に落ちた。
「…あっちが…本物になればいいのに…」
彼女の眼は嫌いじゃない。だけど怖い。
すべてをわかりきった眼をしているから。
「…雷烏」
「…なに―。」
そのとき。なんて偶然だろう。体が宙に浮く感覚。
彼女も同じ。恐怖に怯えたその奥に、希望を持つ、願いを持つ顔をしている。
「闇が、来た…」
「雷烏…ッ早く行くよ!!!」
俺達は何処かで信じていた。
どちらかがなくなれば、どちらかが―
こちらの世界が本物になるんじゃないかと―。
「嫌だ…待ってくれ!俺も―」
「サヨウナラ、先生」
高らかに地が裂ける音が鼓膜を通じた。
次の瞬間、その教室から二つの黄金が消えた―。
世界が終わったのだ。
こんなにも早く。いや、遅いくらいなのかもしれないが、だが。確かに世界終わった。
赤褐色の色で縁どられた空間を早足で駆け抜ける。
黒い扉に立つとその前方に見えるのはあの髪。
「…雷烏」
きっと、人類は絶滅するだろう。
もしも、もしも本物の俺が死んだことによってこの世界も消えるならば―。
目を閉じた。願いではない。祈りでもない。
ただ、信じた。
隣の少女の手のひらが俺の手のひらを包む。
「大丈夫…大丈夫…わたし達は、ここにいる」
「うん…」
顔が見えなくてもわかった。
彼女の思い、顔、瞳。大丈夫、信じられる。
だって彼女の髪はいつだって光に輝いているから。
…。
どのくらいたっただろうか。
瞳をあけて、進む。ごくん、と唾をのみ、白黒のカウンターに座る受付に口を開いた。
「ヴィヴァ…と、ゼロ…ダイブ可能ですか?」
アクリル繊維と俺たちの脳で作られた受付の口からこぼれたたった一言の言葉。
「…初期ダイブお疲れ様です…
お察しの通り―、貴方達の体は、死にました。
ですが…この塔は消えていません。
本当はチップを呑んだ方々のみがこのゲームを続けられることになっていましたが、あまりに数が少ないので―。ヘットギアをつけた方々の脳のシンクロデータを取り、ゲーム続行を許可いたしました。」
繋いだ手を、固く握り締める。
「…何がいいたいかと申しますと―。
こちらがわが本物の貴方達という事になります。
現在ゲームダイブ者は32463人です。
この方々たちと協力し、
この世界を生きてください―。
尚、クリア後のことは今は何も言えません。
そして、3年以内にクリア者がいなかった場合は、全員を処分致します。」
前を向き、胸を張る。
前方に現れた四角い窓上のものに足をかける。
「それでは―。
クリアを目指し励んでくださいませ」
直視した彼女の瞳から流れた水を拭う。
「…行こう、ゼロ」
「…ええ。ヴィヴァ。行きましょう。」
閃光の光が体を包んだ。
見覚えのあるオレンジの街につくまでの二秒間。
これまでにないほど清々しい気持ちに囚われた。