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3.アタシは携帯電話です(スマートフォン)

 携帯電話の着信音がする。結構大きい。うるさくしていると、またあの小太りヤクザがやってこないかと、水谷は慌てた。早く探さなくては。


 まち子が使っていたらしい、ブランド物のバックのなかに、ごてごてしたアクセサリーやビーズで装飾された、ピンク色の携帯電話があった。


 表示を見るが、非通知である。水谷は、ひとまず出てみることにした。


「………。」


 誰かわからないので、黙っている。かけてきたなら、あちらからしゃべりだすであろう。


「もしもし、アタシ」

 アタシアタシ詐欺か、名乗ってはいけないな。


「うちに金はないが…」

「はあ…、まじありえないんだけど…」


 電話の相手は、ため息をつく。


「お前はだれだ」


 水谷は言ってから、今はいちおう、まち子ということになっているから、それっぽくした方がいいかなとも思った。しかし、ゆくゆくはこいつを殺すつもりなのだ。俺のふるまいのせいで、こいつの生活が破綻してもかまうものか。


「だから、アタシがまち子だって、おっさん」

「いまどこにいる、会いたい」

「会いたいじゃねーし、お前がアタシの体べたべたさわったり、眺めたのも見てたし」

「どこ、どこ」


 水谷は部屋を見回すが、誰もない。カーテンを開けてみる。誰もいない。もうすっかり日が登っている。


「しめろよ、お前、下着しか着てねーだろ! 変態に盗撮される」

「女性を見て興奮するのは、変態ではない」

「うるせーよ、変態おやじ! 死ね!」

「おい、あんまり態度がひどいと、自殺するぞ」

「別に、アタシ、なんか死にたかったし」

「わかった。お前がこの体に戻ったら、殺してやる。さあ、戻れ」

「それがわからないんだよ!」


 スピーカーが壊れるんじゃないかと思うくらい、電話の相手は叫んだ。


「で、今どこにいる」

「多分、電話の中みたい。ここから離れられない」


 どうしてそうなったかわからない。朝、暴行を受けたとき、水谷が女の足を掴んだときに、水谷の意識がまち子に入り、まち子の意識は、押し出されるようにして持っていた携帯電話に閉じ込められてしまったのかもしれない。


「そうか、天罰だな」


 水谷は携帯を思い切り床にたたきつけて破壊しようとした。電話の中のまち子は、なにも言わなかった。


「おい、いまから破壊するんだぞ、泣け、叫べ、助けて、ごめんなさいと言え」

「いいよ、別に」

「…つまらん、お前を幸せにしてから、お前が死にたくないと泣き叫ぶようになったら、殺してやる」


 水谷は、振り上げた手をゆっくりとおろして言った。


(つづく)


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