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いい加減な冒険始まる

  よう! 俺はリタバリー・ターキー。18歳の魔法使いだ。ま、18歳とは言っても、見た目が18歳ってだけなんだけどね。本当の歳は……、まぁ、そのうち話すから今は聞かないでくれ。


  だけど好きでこうなったんじゃないぜ。ある妖術使いの呪いで、18歳で見た目の成長が止まっちまったんだ。何かとんでもない事をした代償じゃないかって? 冗談じゃない。悪いのは俺じゃないんだよ。何せ、俺がまだお袋の腹の中にいた時にかけられた呪いなんだからさ。


  お袋がその妖術使いにどんなひどい仕打ちをしたかは正確にはわからない。俺がまだヨチヨチ歩きの頃、男を作って出て行ったらしいから。ま、これも親父や他の親戚に聞いた事であって、本当の所はよくわからないんだけどね。


  とにかく俺は18歳から歳をとらなくなった。いわゆる不老ってやつだ。だけどご丁寧にもう一つオマケが付いてきたんだよ。不死ってオマケがさ。つまり不老不死ってわけだ。


  え? 不老不死なら万々歳じゃないかって? いきさつを知っている連中からは良くそう言われるんだけど、実際はそうでもないぜ。色々と苦労も多いんだ、不老不死ってやつは。どうしてそう思うかも、おいおい話していくよ。


  俺は一年中、旅をして歩いてる。そうしなきゃいけない事情があるんだよ。ちょっと考えてみな。俺も最初は、ひとっところに暮らしていたさ。女房に捨てられた親父が腰の曲がる頃くらいまではね。だけどだんだん周りがウルサくなってきたんだ。


  無理もないけどね。だってそうだろう。同じ頃に生まれた連中はもう結婚して子供もいる。いるどころか、その子供も成人してイッパシの働き手になってるんだ。それなのに俺はいつまでも18歳のままなんだぜ。友達の何人かは、孫まで生まれてるってのによ。


  そんな状況でいつまでも同じ所に住んででいるのもツライもんだ。一緒に育った友達の何人かはちゃんと理解してくれたけど、やっかみの目で見る連中も多かったからね。ま、自分はいいオッサンになっているのに、俺は18歳のままなんだから、奴らの気持ちも分からないんじゃないんだが……。


  それにだんだんと、呪いのいきさつを知らない若い世代の連中が増えてきちまってさ。そいつ等から見れば、俺はある意味バケモノと変わらねぇのかも知れないな。これも仕方のない事なんだろうけどね。


  で、ある事件が起こって、俺はウン十年暮らしてきた村を出て行かざるを得なくなっちまったんだ。まぁ、それがなくても、いつかは出て行く事になったと思うけどな。その事件がどういうものだったかも、そのうち話すかも知れないな。


  その後も幾つかの町や村に住み着いた事があったんだけど、長くは居られなかった。滞在が長くなればなるほど、不老って事がばれるだろう? それはちょっと都合が悪いんだ。自分の生まれ育った村ならともかく、全くのヨソの土地じゃね。


  それでいっその事、一つの場所に長く居着くのをやめちまったんだよ。そうさなぁ、だいたい居ても三年くらいか。不老を疑われるには十年くらいはかかるんだけど、慣れ親しんじまうと別れが辛くなるし、とにかく困る。だから何か理由を付けてそこから離れるようにしたんだよ。


  だけどそれもだんだん面倒くさくなっちまって、ここ十年くらいは常に旅をしているのさ。仕事の関係で一ヶ月くらい同じ宿屋に泊まる事はあるけどね。あ、最初に言ったように魔法使いの仕事ね。


  親父に魔法使いになれって言われた時は反発もしたけれど、今となっては感謝している。そのおかげで、まぁ人並みの暮らしが出来るんだから……。


  不老不死ったってさ、ただ黙っーて何にもしないで、いいってわけにも行かないんだよ。やっぱり稼がなきゃ生活は出来ない。普通は生活出来ないイコール死ぬって事になるんだけど、俺の場合はそれがイコールじゃないんだよね。だけど、ただ死なないってだけの状態は物凄く辛いんだ。何故辛いのかはすぐにわかるさ。慌てない、慌てない。


  自己紹介はこれくらいにしておくよ。まだまだ先は無限に長いんだからね。もちろん俺にとっての話だけれど……。


-------------------------


  俺は今、街道を北へと向かっている。季節は冬、木枯らし吹き始める季節。前の町で聞いた宿場はもうすぐ見えるはずだ。この時分になると野宿はやっぱりつらい。不老不死だからって、寒さを感じないわけではないからね。もちろん、自分の周りの空気を暖める魔法だってあるけれど、魔力を使えば腹が減る。腹が減れば目がまわる。更にひどけりゃ気絶する。


  普通はそうなりゃ餓死するんだけど、どっこいコッチは不老不死。死にたくても死ねやしない。気絶してもすぐに気がつき、地獄のような腹ペコ感が延々と続くだけさ。だから食わなきゃならない。だから働かなきゃならない。不老不死も結構大変だろ?


  それにしても、道は正しいんだろうな。峠の下の宿場町まで行かないと、飯も食えないよ。前の町で聞いた奴「いやぁ~、次の宿場町までは街道一直線だから、すぐわかりますよ」なんて言いやがって……。ま、すぐわかると、すぐ着くをごっちゃにした俺も悪いんだけどね。


  とにかく町を出て三日。未だに次の町は見えて来ない。用意した食料も尽きてきたし、どうしよう。金はまだあるけれど、この街道筋には店ってもんが無いんだよなぁ。昨日からは人家さえ見かけない。だから食糧補給も出来やしないんだ。ここら辺て、何か動物いるのかなぁ……。イザとなったら、とっ捕まえて食わないと、とてもじゃないがもたないよ。


  前の町の宿屋の親父が言うように、乗り合い馬車を使えば良かったかな……。金はかかるが一日で次の町へ着けたろうに。


  しかし乗り合い馬車の御者もケチくさいよな。途中何度も俺を追い抜いて行ったけど、コッチが手を振っても止まりゃしない。まぁ、呼び止められる度に一々止まって客を乗せてたんじゃ、商売にならないってのもわからなくはないんだけどね。


  グチを言ってもはじまらない。俺は重くなった足を引きずりながら、まだ見ぬ宿場町を目指して歩き続けた。



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