第69話 ★イルカさんとおよいでみたかったの
真夏の日差しがわたしの肌を焼く
皮膚がヒリヒリしてくるけど、水の中に入ることはまだできない
今は入ろうとすると息が苦しくなってしまう。
なんでだろう。さっきまでは触るくらいなら少し怖い程度だったのに………
「クロ。」
修さんがこっちに走ってきた
修さんはわたしのために怒ってくれていたことは知っている。
でも、やっぱり今はちょっとだけ修さんが怖い
腕力なんかではわたしたちの方が強い。でも、修さんはわたしたちの親。
やさしいけど、確かにそこには威厳がある。
それは張りぼての威厳ではない。親としての、ちゃんとした威厳があるんだ。
「………修、さん」
肩が跳ね、自分の声が震えるのを自覚する。
修さんはもうとっくにわたしを許している。
引きずっているのはわたしだけだ。迷惑をかけたわたしがいまだに引きずるのはおかしい。ちゃんと修さんと向き合おう
まだ目を合わせることはできないけど、勇気を出しておずおずと手を伸ばしてみる
すると、修さんは当たり前のようにわたしの手を握ってくれた。
それだけで、ほんの少し、安心した。
「クロ、ちょっと座ろうか。」
「………うん」
修さんはプールの縁に腰掛け、足をプールに浸ける。
わたしは修さんの隣にペタンと座る。
尻尾を濡らさないように持ち上げながら。
あれ、この状況はプールに来た初めと同じだ………
「クロ………」
修さんがわたしの名前を呼ぶ。
わたしは修さんを見上げる。その表情は、後悔と困惑。
「………なに?」
「………叩いてごめん。痛かったろ。」
修さんはわたしの方に向き直ってから頭を下げた。
よかった、今度は目をそらさずに、まっすぐ向き合うことができた。
「わたしも………心配かけて、ごめんなさい。」
わたしも修さんにならって頭を下げる。
すると、包帯が巻いてある修さんの左腕が目に入った。
先日、お風呂に入るのを抵抗して、修さんを傷つけたものだ。
そんな状態なのに、県大会で2回戦を勝ち抜いている。
痛みどめを飲んだから多少は大丈夫って言っていたけど………。本調子ならまだまだ戦えたかもしれないのに………
わたしのせいで、修さんの最後の大会が終わっちゃった………。
わたしを叩いたからなのか、傷口が開いてすこしだけ血がにじんでいた
絶対に修さんの方が痛かったはずだ。
思わず修さんの左手を握る。
「クロちゃん?」
「痛かったのは、修さんの方………だよ。」
「いっ………!」
腕の傷を指でなぞると、修さんが小さく声をもらした。
やっぱり、無理………しているんだ。
修さんはいつだって、わたしたちの事を最優先で考えてくれている。
それなのにわたしは………
「やはは、気づかれちゃってたか、かっこわりぃな」
「かっこ悪くなんか、ないよ。」
隠していたことが見つかったような表情………いや、その通りだったんだろう。
困惑した表情の修さんの肩に頭を傾ける。
大好きなにおいがした。
しばらくそのまま時間が過ぎた。
胸に手を当てて深呼吸を繰り返しながらゆっくりと水に浸かるタマちゃんの姿が目に入る。
タマちゃんは水への恐怖心が薄くなっても、焦らないでゆっくりと体を水に慣らしていた
でも、わたしはまだ水が苦手なのに、無茶な飛び込みをして、溺れてしまった。
焦ってもいいことはないんだ。わたしは、なにを焦っていたんだろう
「クロ………水は怖いか?」
修さんがわたしの頭を撫でながら聞いてくる。優しい声だ。
「うん………」
「今はどんな感じだ?」
言っている意味がよくわからなかった。
でも、なんとなく伝わったから、そのまま答えることにする。
「水を見ると、息が苦しくなるの。」
「なるほどね。それはクロが焦った結果だ。急がば回れってことわざがあるだろ? タマだって水に対する恐怖は無くなったかもしれないけど、水に飛び込もうなんて思わなかった。急いでしまうと、クロちゃんと同じことになることが、タマにはわかっているからな。」
「………うん」
タマちゃんは水に対する抵抗に限界を感じたのか、腰までつかっていたプールから上がり、プールの縁に腰掛けた。
いつものふさふさの尻尾が芯に毛が貼りついてものすごく細くなっている。
タマちゃんはそれをぎゅっと絞ってからボサボサと毛を整え、もとの状態に戻していく。
少しだけ澄海くんと話すと、今度はタマちゃんがこちらを二度見した。
首を捻りながら右目を手で押さえて、なにやらびっくりしたような大げさな表情をして、澄海くんに頭を小突かれていた。
えっと、あれかな。たぶん、『ちゅうにびょう』ってやつだよね。
ただ、じっとその様子をみていると、わたしの後ろからハルナちゃんが話しかけてきた
『おねーちゃん、もうとびこんだりしない? だいじょうぶ?』
修さんもその声に気付いたのか、わたしと一緒に振り返る。
「ハルナちゃん………」
「この女の子がハルナちゃん?」
目を細めてハルナちゃんを見ようとする修さんに、頷いて返す
「だいじょうぶ、だよ。ハルナちゃん。 心配かけて、ごめんね」
『ううん、だいじょうぶならいいの。』
笑顔がキュートな6歳だ。
この子はわたしがこうなることがわかっていたから、必死でわたしを止めようとしていた。なのに………なのにわたしは、人生の先輩であるハルナちゃんの話を聞かないで、勝手に焦って水に飛び込んで………
だめだなぁ、わたし。
えへへと笑うハルナちゃんの頭を撫でようとした修さんは、結局すり抜けてしまい、頭の上で右手を空中に留めた
その気持ちがうれしかったのか、ハルナちゃんは修さんに抱き着こうとして、すり抜けた
ふふっ、ちょっとシュールだよ
「キミは、なにが心残りでここにいるのかな?」
修さんは直球でハルナちゃんに聞いた。
『えっとね、およげるように、なりたくて。イルカさんといっしょにおよいでみたかったの』
ハルナちゃんは溺れて死んだ霊。泳げないことが心残りでここに残っているんだ。
なんとか成仏させてあげたいけど、わたしも泳げないんだよぉ
「ほうイルカ! かわいいね!」
イルカと泳ぎたいというと、修さんはなぜかニヤニヤしだした。
『うんっ♪ でも、およげないから、だめなの』
「ふむ、クロちゃんと同じだね。そんじゃ、ハルナちゃんも泳げるようになるためにはどうすればいいか、一緒に考えてみようか」
そういうと、ハルナちゃんはわたしの隣にすわる。
ハルナちゃんは子供らしく、わたしのほかに話を聞いてくれる人がいてうれしいのか、泳げる方法を考えることはなく、お話を続けた。
修さんは嫌な顔しないでしっかりと相槌を打ってくれる。そういうところがやさしいんだよ。
『えっとねー、あたちもね。およげなくてね。うきわからおちちゃってね、おぼれちゃったの』
舌ったらずだけどちゃんと自分が死んだ状況を説明してくれた
「うーむ、浮き輪かぁ。ふむ。クロちゃん、ちょっと待ってて。」
修さんはなにかを思いついたかのように、どこかに走り出した。
………………………。
そのまま15分くらい時間が流れた。なにしてるのかな? トイレかな?
……………………。
―――しばらくすると、修さんは浮き輪を持って戻ってきた。
よく見ると修さんはなぜか頬を怪我していた。
「わわっ! 修さん、どうしたの!? 怪我、してるよ!」
「ん? ああこれね。浮き輪の貸付をしてる受付さんの所に行った帰りに顔面から派手に転んじゃった。藁人形を使ってると運気がなくなっていややんね、ははっ、見てよこれ。階段で躓いてさ、右腕も擦りむいた」
頬と腕をさすりながらわたしに笑いかける修さん。
わざわざ怪我をしたらしい右腕を見せてくる。擦りむいてすこし痣になっていた、痛そう………。打ちどころが悪かったのか、わき腹にも赤い痣ができていた。
「ふふん! メガネは死守したよ!」
修さんが気にしていないなら、わたしも気にしない。修さんが死ななくてよかった。
修さんの運気のなさも大変だ。
ちらりと浮き輪を確認してみる。ピンクのお花模様だ。
わたしにぴったりのちいさいやつだね、わわっかわいい浮き輪だぁ。
「ハルナちゃん、ありがとう。おかげでいいヒントをもらったよ。」
『? そうかな?』
「はいクロちゃん。」
すっぽりとわたしに浮き輪かぶせた。
わざわざ借りてきたのか。
「まぁ、ここは最初から浅いプールだけど、これに浮き輪があったら溺れることはないだろ?」
「で、でも………水もこわいよ………」
「わかってる。だから、その状態のまま、まずは足を付けられるようになろうか。」
わたしの頭を乱暴に撫でて、わたしたちを楽しませてくれるいつもの笑みをこちらにむけた。
だいじょうぶかな………
あとがき
遅くなりましたおまたせしました
修は可哀想だね、運気がなくてさ。
でも、メガネ族にとってメガネは命。死守したことを誇ってよいとおもうぞ
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tassaso123*yahoo.co.jp
ついった
@tassaso1
☆ここから割とどうでもいい話★
体調、元に戻りました
言い訳をします、聞いてください
朝5時起床自分のくしゃみで目を覚ます。起きると同時に鼻をかみます
5時半、出勤。
帰宅、夜8時。体調が最悪なので布団にもぐる。
そして朝へ
こんな1週間でした
書き溜め? ねーよ。
がんばってもこれがげんかいだよ
だけど、やっと再開できそうです
復帰祝いを用意しました
なにかって? 画像です
誰かって?
修だよ!
メガネ、藁人形、五寸釘、ジャージのセットで出来上がり
簡単ですね




