第60話 ★この人が『親』で、ほんとうによかった
――― シャーーーーー
「ふにゃああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「やれやれ………」
やっぱり、水はこわい。
シャワーをあびると、からだがびっくりしちゃう。
逃げようとしたら、にいちゃんが足ばらいをかけてぼくをころばせた。
「ふきゃんっ!」
「プールに入れるようになりたいんやろが 男ならちったぁ腹くくれや」
「でも………シャワーはこわいよ………。あの日のあめみたいで………」
「あの日? ああ、お前らを拾った日か。そういや結構雨降ってたな。」
あの日はどしゃぶりのあめだったなぁ。
わすれるはずがないよ。
ダンボールの中に入ってくる水。出ることもできないハコの中。
おなかがすいて、じぶんじゃひとりでおしっこもできないからだ。
そして、かたくつめたくなっていくじぶんのからだ。
いくらおぼえるのがにがてなぼくでも、たいせつなことはぜったいにわすれない。
じゅぎょうさんかんのときは、そのときの気もちを言うのがはずかしかったからわすれたフリをしちゃったけど、あのとき、ダンボールからだきあげられたときの、あたたかい手を、わすれるはずがない。
にいちゃんは、ぼくたちにとって、たったひとりの『親』なんだから。
「ティモ坊。ここに来てよかったか? もっと裕福な家に拾われた方がよかったなんて思ったりしないのか?」
にいちゃんがぼくをだきあげていすにすわらせると、ぼくの目を見てそう言った
「ううん! いちどもおもったことないよ! だってこんなに大好きなにいちゃんに会えたんだもん!」
お風呂のときはちょっとこわいけど。
「そっか。」
にいちゃんはシャンプーを手につけて、ぼくのあたまをわしゃわしゃとあらいはじめた。
耳のなかにあわが入らないように気をつけて、やさしくぼくのあたまをあらってくれる。
水にぬれるのはいやだけど、あたまをあらってもらうのは好き。
そのあと、あたまのあわをあたたかい水でながすのはきらい。
「うーん。シャワーがダメなんだよね。」
「?」
「おっしティモ坊。目を瞑って息を止めて10秒数えてみよう!」
「へ? う、うん!」
「よーし、絶対に動くなよー」
ぼくの耳をおさえたにいちゃんは、ぼくの顔を下にむけさせる。
あ、そうだ! がずをかぞえないと!
1……2……
――ザパッ!
3……あれ? なんか音が……
「集中しろよー」
ああそうだった! えっと、5……6……
――バシャァアン!
「ふにゃあ!」
あたまの上からあたたかい水をかけられた!
「うー! にゃにすゆのにいちゃん!」
「うわ! 呂律が回らないティモ坊かわええ! ってそうじゃない。えっとね、シャワーじゃなくて洗面器からだったら大丈夫かと思ったけどそんなことはなかったね。」
「あたりまえだよ! ぼくたちはぬれるのがいやなんだから!」
「うーん。でもなんで濡れるのが嫌なん?」
「え? それは………あれ、なんでだろう?」
かんがえても、りゆうが見つからなかった。あれ? なんでだっけ?
「ふむ………水が怖い?」
「うん………」
「じゃあ、飲み水やジュースは? 味噌汁も怖い?」
「んん? ううん、こわくないよ。」
「同じ水だろ? 何が違うんだ?」
ええと………のむための水と、あびる水?
でも、のむのも水だから………あれれ? おんなじだぁ
「そんな混乱するな。じゃあ、ティモ坊。この水の張った洗面器に手を突っ込んでみて。」
「? うん」
あったかい水がぼくの手をつつんだ。あれ? べつにこわくないや。なんでだろう
「ティモ坊、この洗面器の水を、飲もうと思えば飲めるか?」
「えっと、うん。のめるとおもう。」
「そっか………量じゃないのか。」
にいちゃんがなにかを考えてくれている。
ぼくのためだってことはわかるけど、それでぼくがおよげるようになるのかな
「じゃ、ティモ坊。その濡れた右手で、自分の顔を触ってみて」
「こう?」
「いやいや、もっとぐしゃぐしゃと」
にいちゃんは大きな手でぼくのかおをむにむにとなでてくれた。
でもにいちゃんの手がぬれてた
「兄ちゃんの手は怖かったか?」
「ううん、こわくなかった。でもかおがぬれちゃったよぉ………」
「なあるほどね。じゃ、最後に………この洗面器に顔を突っ込んでみようか」
「へぇあ!? むりむり! できないよそんなの! こわいよぅ………」
「なーる! 全部わかった。もう大丈夫だティモ坊。安心しろ、お前は大丈夫。」
「うゅ? どういうことなの?」
ぼくにはぜんぜんわからなかった。にいちゃんはあたまがいいから、ぼくにはなにがなんだかわからないよ………
「ティモ坊はね、たぶん顔がぬれるのと、おそらく毛が皮膚に貼りつくのが嫌いなんだよ。」
「かみのけ?」
「そう。だってほら。手が濡れた程度だったら問題ないわけでしょ? それに、ティモ坊は今日、プールで溺れたって言った。プールに入ることはできるんだよ。あとは溺れないように、少しずつ水に慣れていこっか。」
「えっと………ぼく、およげるようになる?」
ぼくのあたまをやさしくなでてくれるにいちゃんを見上げる。
せなかがおおきくてたのもしい。なんでもできるぼくの大好きなおにいちゃんは、ぼくがきいたことにやわらかくわらいながら
「もちろん! そのためにも、今日は一緒に浴槽につかってみたいと思います」
「こわい!」
「はい逃げないー」
にいちゃんはぼくをだきあげて、よくそうにいっしょに入った。
「うぁうー!」
「だいじょーぶ。兄ちゃんがちゃんと掴んでるから。それにこの浅さなら溺れることなんてありえないだろ。」
「う、うん………」
ぼくはにいちゃんの足の上にすわって、みずはぼくのおなかのちょっと上まできてた。
こわかったけど、にいちゃんはぼくのかたにゆっくりとあたたかいみずをかける。
「あったかいやろ?」
「うん。」
「シャワーだけじゃ風呂の良さはわからんよ。」
「うん………。」
「きもちいいか?」
「………うん。」
「そりゃよかった。これでティモ坊は、風呂には入れるね。」
いつもいつもこわがってにげていたことだけど、にげないでむかっていったら、ちゃんとそうだんしたら、にいちゃんはぜんぶかいけつしてくれた。
やっぱりにいちゃんはすごい。
「まだ、シャワーはこわいよ。」
「ゆっくりでええねん。次の水泳の授業はいつ?」
「えっと、あしたの、あした。」
「それは明後日や。よし、じゃあ明日も一緒に入るか! ティモ坊! 次は顔を水につけられるようになろう!」
「う、うん! がんばるよ!」
「よし! 水から逃げないのはえらいよ! ティモはすごい!」
ぐしぐしとぼくのあたまを力づよくなでる
「やー! にいちゃんそんなになでないでー!」
「わが子の成長におっちゃん涙目! ティモ、絶対に泳げるようになってみんなを見返してやろうぜ!」
「うんっ♪」
にいちゃんは、ぼくたちのことで、しんけんになやんでくれる。
そして、いつもなやみをかいけつしてくれる。
いつも、ぼくたちをたのしくさせてくれる。
この人が『親』で、ほんとうによかった。
あとがき
ティモ坊がかわいい
しってたかい、この子、男の子なんだぜ。
そしてなんだこのおっちゃん。おっちゃんのくせにイケメンじゃねぇか!
アンタは適当にその辺の草むらで死んどけばいいんだよ!
そんなハーレムポジションはどっかに追いやっとけ
そして出番のない澄海くん涙目
澄海『………出番ないのは助かる。出るのはめんどい』
おいー! あんた一応主人公じゃないですかー!
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☆ここから割とイラストな話★
描いていただいたティモ坊です
『にゃん♪』
この子はヤンチャというより悪ガキっぽいですね。
なので『なんか納得できないから描きなおすわ』
ということになったらしいです
完成品はお座り上目づかいたれ目『にゃん♪』でお届けします
完成品は次々回ということで




