第36話 ………いや、こわくはないよ。ただ、風呂場のおっちゃんがあんなに恐ろしいとは知らなかったんだ(カタカタカタ
洗い物なんかは、優が全部やってくれた。地味にありがたい。
ご飯を食べてから1時間くらい経った。いっぱい食べて、すこし苦しかった胃も、だいぶ落ち着いた。
リビングでみんなでテレビを見ながらくつろいでいる。
全国の番組で、ちらっとだけど『九州娘』が映った。CD売れるといいね。
「師匠、いつまで稽古つけるつもりですか?」
唐突に、おっちゃんが言った。
「んー、そうだね。今日の所は泊まってけ。荷物は車に積んである。一度大山荘の近くに行って、猫たちに運んでもらったからね。」
「はい、了解しました。」
「いつまで修行が続くかはわからん。みんなの力量しだいだ。」
「うー、たいへんだね、にいちゃん。」
「せやな………」
「今のところ、順調にいっているのはクロだけだ。クロも、鏡を開くだけじゃだめだ。使いこなせるように、精進しろ。ここからが始まりだと思え。」
「は、はい!」
「じゃあ、風呂に入ったらもっかい修行再開だ。」
「「「おー!」」」
三匹が腕を上に突き出した。僕はその様子を見て、少しだけ頬を緩めた
☆
屋敷のお風呂は、でかい。
銭湯ほどではないが、かなりデカい。
大人が5人入っても、まだだいぶ余裕があるくらいだ。
僕は、一番風呂をいただいた。気持ちいい。
洗面器を左手に持って、浴槽のふちに腕を組んで目を閉じ、あったまる。
ふと、脱衣所から音が聞こえてきた。
僕が入っていることはみんな知っているはずだ。別に誰が入ってきてもいいや。
―――がらっ!
「スカイぼっちゃん! お背中流しに来やしたぁ!」
―――スコーン!
「あいだぁ!」
どうせ、こうするもん
「いきなり洗面器投げるとはいい度胸ですね! わちきも投げ返していいでありますか?」
タオルを体に巻いた優が、僕が投げた洗面器を手に持って、ジリジリとにじり寄る。ウザい
「………なんで今日は、こんなにテンションが高いんだ。」
「ふふふ、なんででしょう。なんとわちきは恋をしたからだ!」
「………おっちゃんに?」
「そう! わちきは恋する乙女! わちきは褐色の人に、猛烈にアタックを開始する!」
そう言って僕に向かって洗面器をブン投げる。僕はそれを左手でキャッチする。
取りにいかなくても戻ってきた。ラッキー。それにしても、テンション高いな。
「というわけで、今から体を隅々まできれいに洗って、わちきは今夜の夜伽に備えます。」
勝手にしろ。と心の中で呟いた。僕の背中を流しに来たんじゃなかったのか、というのはどうせ建前だから言わないでおく。そもそも今夜のよとぎってなんだ?
優はバスタオルを取っ払ってシャワー前に座る。
羞恥心は存在しないらしい。
僕は洗面器を優のあたりまで滑らす。
「お、ぼっちゃん気が利くね」
「……………。」
あまり必要にはならないだろうけど、一応ね。
僕はもう十分温まったし、そろそろ上がるか、と浴槽から出ると、また脱衣所で声が聞こえてきた
脱衣所も広いからな。僕が入っていることはわかっても、優が入っていることは知らない可能性がある
一応浴槽のふちに置いてたタオルを腰に巻いてから、脱衣所に向かう。
………優がいるって注意くらいしとくか。
―――がらっ
と思ったら手遅れだった。
「お、澄海、今からあがるとこ?」
「……………(こくり)」
「うにゃあ! にー!にー!」←ティモ
「にゃー! うにゃぁぁぁぁあああ!」←タマ
「みー、みゃぅぅ、にーー!」←クロ
「一緒に猫たちを洗ってもらおうと思ったんやけど、まぁええか。ほなな」
おっちゃんが左手にクロ、右手にタマ、左ひじにティモを挟んで僕と入れ替わりで浴室に入った。猫たちは人型ではなく、子猫の状態だ。全員の首にかかっている数珠で妖力を押さえているのかな。
猫たちはめちゃくちゃ嫌がっている。特にタマが。
助けを求めるように僕に訴えかけてくるけど、僕には猫語はわからない。
僕はそのまま脱衣所に抜けた
「「「 に゛ゃああああああああああああ!!!! 」」」
たぶん、うらぎりものー! とでも言ってるんだろうな。僕には関係ない。
『うわああああああ! みみ、水瀬! なんで入ってんの!?』
『かかか、褐色の人! わちきを襲いに来たでありますか! わちきはウェルカムでござりますぞ! さあさあおいしくいただいてください!』
『『『ふにゃあああああ!』』』
ドッタンバッタンと騒がしい音が聞こえる
それをBGMに、僕は着替えを始める。騒がしいな。早いとこ着替えて、幽体離脱の部屋に置きっぱなしにしていた入門書を読もう。
―――ガラッ!
「「「うわぁああ!」」」
今度は猫たちが人の姿で浴室から飛び出してきた
次はなんなんだ。
「た、タマちゃん! いそいで!」
「わかってるよー!」
「おふろきらいおふろきらいおふろきらい」
全裸の猫たちが三人がかりでドアを押さえた。
「スカイくんもてつだって!」
呪詛を唱えていたティモがドアを全力でふさぎながら僕に叫んだ。
「……………。」
ため息を一つ。
風呂が嫌だから、優とおっちゃんを閉じ込めたのか?
……………………。
なんて面白そうなことをしてくれているんだ!
「……………でもめんどい」
まぁ、僕の答えはそれなわけで。正直、おっちゃんと優がどうなろうと、どうだっていい。
さて、着替え終わったことだし………イスを用意して座る。
「……………。」
三猫のおしりのあたり、尻尾を見る。あれは見てて飽きないな。
ふるふると震えて、ゆらゆらと揺れ、くねくねと動くあの尻尾。あれはかわいい。おもしろい。
『あ、開かない! お前たち押さえてるんだろ! さっさと開けなさい!』
「ヤダよ! ぼくはおふろには、はいらないからね!」
『お風呂うんぬん以前に、おっちゃんの貞操の危機なんだってば! 助けてええ!』
「おっちゃん、私たちがお風呂でおっちゃんに洗ってもらっているときにー、おっちゃんは私たちが助けてって言っているのに、助けてくれなかったよねー」
「おふろのときの、修さんは………こわい」
『それとこれとは話がちゃうやん! お風呂が嫌いなだけやんけ! うわ、きたあああ!』
『ふはははは! わちきから逃げられるとでも思っているのでありますか! 逃がしませんよ褐色の人! ええい、その小賢しいタオルを取っ払え! 息子を拝ませやがってください!』
『キャ―――――――ッ!』
ドタバタバシャン! とうるさい。 もう男と女が逆転している気がしないでもない
しばらくバタバタとうるさかった浴室だけど、ふと、音がやんだ
猫たちがそーっと浴室をのぞき、僕も猫たちの後ろについて、浴室をのぞいてみる
「ちっ! 逃げやがりましたか」
優が忌々しそうに藁人形を握り締めていた。おっちゃんの姿はない
「だいたいなんですか! こんなかわいい女の子が迫っているのに逃げるとは何事ですか! さすがのわちきも傷つきますよ! プンプンです! それに、褐色の人も瞬間移動するし、わちきの存在意義はどうなってしまうのでありますか!」
こんちくしょう! と藁人形を浴槽にブン投げ、その藁人形を追って、優は浴槽に飛び込んだ。
「もうこの藁人形を褐色の人だと思い込んで一生を過ごしてやりますよ!」
優は藁人形を抱きしめて浴槽に沈んだ。
そこまで見届けた猫たちは―――
「………修さん、おこってる、かな。」
「だ、大丈夫だよー。おっちゃんはやさしいからねー。」
「そそそうだよ、にいちゃんなら、ゆるしてくれるよ!」
「……………。」
顔を見合わせ、冷や汗を流していた
僕はゆっくりと後ろを振り返る。
振り返るのに、勇気が必要だった。なぜなら―――
「………………(怒)」
―――腕を組んで仁王立ちしていたおっちゃんが、菩薩のような邪念のない表情で僕たちを見下ろしていたから。
猫たちも、『ギギギ………』と音が出そうなほどゆっくりと首を回し、おっちゃんの姿を確認すると………
「はわわわわ!」
「おおおおおっちゃぁん?」
「ごごごごごごごめんなさい、修さん!」
「………………。(カタカタカタ)」
三猫は、生まれたての小鹿のように、体をプルプルと震わせていた。もしかしたら僕も震えていたのかもしれない
「道ずれじゃああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
「「「「 に゛ゃああああああああああああああああああああああああああ!!!!!! 」」」」
4人まとめて風呂場に蹴っ飛ばしたおっちゃんは、洗面器に入ったお湯を、僕たちにぶっかけ、シャワーを全開で浴びせてきた
せ、せっかく着替えまでしたのに!
「ふははははははははははははは! お仕置きが必要みたいやんな! 全員、隅々まで洗ってやるから覚悟しやがれ! 一ミクロンの洗い残しも残らないくらい徹底的に洗いつくしてやっからよぉお!」
「なにそれおもしろそう! 褐色の人! わちきも手伝いやすぜ!」
ザッパァアアン! と勢いよく浴槽から飛び出してタオルを巻く優。藁人形はまた浴槽に投げ捨てた
僕は被害者だよね!! なんで関係のない僕まで!?
「「「「 ギャ――――――――――――――ッ!!! 」」」」
今までの人生で、こんな情けない悲鳴を出したのは、産声以来かもしれない
あとがき
盛大にコメディしてみました。
これはおまけみたいなものなので、そういうつもりで。
あと、七不思議編ですが、まだ構想もまとまっていないし、どういう流れでどういうオチをつけるか。まだ考えていません。
手を抜いているわけではありませんよ。
ただ、プロットを練らずに物語を書いたら崩壊するだけです。
それだけは避けたい。前回一日おき更新を心がけるって言ってたけど、ありゃ無茶すぎました
もうしわけないです。しばらくプロットを練る時間をください
七不思議でググってもいいネタをくれないんですよ、あのググれ先生は。
怪談でググっても、なんかピンとくる話が来ないし、もともと怪談なんか鼻で笑い飛ばしていた自分だけで作れる自信はないんだよね。
出来うる限り更新は早めにします。2,3日お待ちを。
もしかしたら、次回もちゃんと1日おきになるかもしれませんが。一応そういう報告でした
感想やイラストは、随時メールアドレスにて受け付けております
tassaso123*yahoo.co.jp
ついった
@tassaso1
☆ここから割とどうでもいい話★
あー………だるい。
おっと、ここはあとがきでした。気の抜ける話はしませぬぞ
でも話す話題がない。
なんかないかと周りを見渡し、仕事中に書いた小説の構想が目に入った。
ということで、仕事中の暇を見つけては練っている事をちまちま言ってみます
あのね、なんかの裏紙に必死こいてペンを走らせているものだから仕事をしているようにしか見えないですね。
仕事をしながら小説の事を考えています。しかし、なにも思いつかないのです
なにをしたいのか。七不思議の最終目的はなんなのか。
出だしを裏紙いっぱいに書いては『………ないな。』と破り捨て。
裏紙に数行書いては『アホか………』と破り捨てる
原稿に詰まっている作家ってのは本当にこんな感じになるんですね
まぁ僕は作家じゃないですけどね
仕事中に何をしているんだおまえは。
ではではこの辺で




