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第2話 ただの出席確認が


 僕が帰るときにティモ、タマ、クロの三人も、人に話しかけられる前にいそいそとその場を後にしたらしい。

 その二日後の土曜を挟んだ日曜日。いきなりの授業参観。

 そう、『私の家族』という作文を読まないといけないんだ

 あろうことか、僕のパパもママも仕事が休みだ。

 パパは宇宙警察交通整備でママは霊媒詐欺師。


 おばあちゃんが純粋な宇宙人で、僕はクォーターに当たる。

 『○○星人』とかは僕は知らないけど、おばあちゃんはよく喉を叩きながら、もしくは扇風機の前で『ワタクシハ、ウチュウジンダ』などと流暢な日本語を話していた。いつまでたっても若いおばあちゃんが、僕はなんだか好きだ。


 人間のじいちゃんはもう寿命で去年死んだけど、幸せだったんだろうな。

 でも、おばあちゃんとキスする度に、おじいちゃんのシワが増え、おばあちゃんの肌が瑞々しくなっていったのはなんでなんだろうね。

 おじいちゃんは定年退職前の63歳なのに死因が老衰死だったのが、原因を物語っているけど


 なんだかやっぱり憂鬱だ。こんな家族のことを堂々と作文に読めるはずもないし、でもパパもママも僕の作文には期待‥‥‥というか、楽しみにしているし

 はぁ………どうしようかな………


――ねぇねぇ、ティモって本名? すごい名前だね!


 ‥‥‥ん? 教室の扉のすぐ近くで話し声?


「え、そうかな‥‥‥兄ちゃんが付けてくれた名前なんだけど、僕は気に入ってるよ?」


――タマちゃんの目って左右で目の色が違うんだね、どんな感じなの?


「べつにどっちも変わらないよー? みんなだってー、目の色は黒なのに結局ちゃんとみえてるでしょー?」


――クロちゃんの髪、すごく綺麗だね! シャンプーは何を使ってるの?


「あの‥‥‥その‥‥‥ご、ごめんなさい、わからない‥‥‥です」


 僕が教室に入ると思った通りの光景。三人の編入生を取り囲み、生徒たちが質問責めをしている。

 クロも取り囲まれているため、僕の席まで占領され、自分の席に座ることすらできない。

 ワイワイと騒がしいのが、耳障り。


「ところでさぁ?」


 さらに耳の深いところに響く不快な声。

 クラスのガキ大将、真田さなだ 時輝ときめきが、一拍おいて言葉を紡ぐ。


「そのネコミミと尻尾ってなんなの? 目はカラコン?」


 聞きたくても誰も触れなかったことに触れる


「っ!」


 クロが息を詰まらせ


「んふー、知りたいー?」


 タマが焦らす


「え‥‥‥なにって本物のね--――むぐぅ!」


 本物の猫。そう言おうとしたんだろう。タマがティモの口を塞がなければ。


「んふー、そーだねー。知りたいならー、お金ちょーだーい?」


 ………シビアな世界だ。タマは冗談っぽい顔で言ってる。

 だが、纏っている雰囲気が………まるで僕のママが『悪霊を祓ってやるから前金300万払え』と言っているようだ。

 まあつまり、詮索するな、という遠まわしな言い方なんだろうけどさ。‥‥‥おそらく、タマの方は。


「な‥‥‥なんだこいつ‥‥‥」


 タマの意味不な発言に若干引き気味で苛立ちを覚えている時輝。

 本来の意味を理解できる脳みそをお持ちでないようなので、僕が「どいて………」と呟いて、人でごった返している通路を無理やり通る。


 残念ながら僕はいじめられっ子だ。人付き合いも、いいとは言えない。だからだろう。目の敵にされることが多いんだ。

 時輝は目の前を通ろうとする僕を見て、瞬時に足をかけようとしていた。日常茶飯事。もちろん、気付かれないように対処するけど。

 僕が逆にその足を払い、軌道を修正。時輝やクラスメイトが意中の学級委員、樋口里澄を蹴りつける形に変えて、僕は席に向う。

 里澄の悲鳴と時輝を非難する声(時輝の痛みを伴う悲鳴も聞こえて来た)をBGMに、僕の席を陣取っている男子生徒に「………座るんだけど」と声をかける。


 あ、ごめんね。と言って生徒はどいてくれた(というか時輝を殴りに行った)ので、僕はそこに腰を落ち着かせる


「あ、澄海くんおはよー!」


 ティモが元気な挨拶を投げかけてきた。というか、僕はいつティモに自分の名を名乗ったんだろう。覚えがないけど、おそらくクロが話したんだろ


「おはよー」


 ティモの声で僕の存在に気付いたのか、タマも一緒に、間延びした声で挨拶をする


「………ん。………おはよ。」


 こんな反応だから、嫌われる奴には嫌われるんだろう。

 変える気はないけど


 たとえ、相手が親しげに話しかけてきても、摩訶不思議な獣耳の編入生であっても、僕の反応は変わらない。

 こういっちゃなんだけど、僕はあまりこの星に興味がない。

 宇宙にまだ未知の生命体がいる惑星があるなら、僕の興味があるのはやはり宇宙だ。

 僕はこの地球から出たことすらないけど。


「澄海‥‥‥くん。おはよう」


 まぁただ、他の星に、クロやティモ、タマといった人猫はいないと思うけどね。

 人猫は地球でも希少だ。他の星に居るという保証すらない。そう考えると、この三人の猫は僕の興味を少なからず惹き付けているのかもしれない。


「おはよ。」


 クロに挨拶を返し、毎朝8時20分から8時45分まである読書の時間に読む本を準備する。最近は星新一が僕のお気に入りだ。

 ゴリマツ先生が来るまでの時間つぶしにはちょうどいい。


 クラスメイトは、僕(と時輝)が存在しなかったかのように、また三人に質問を続ける。

 そのほとんどが『わからない』とか簡単な質問だけ答えられたりだとかだ。

 たぶん、まだ世の中を何も知らないんだろう。


 僕だって、まだ生を受けて9年しかたってない。だけどこの子たちは猫。猫の成長速度を考えれば、生後1~2ヶ月くらいだろうか。赤子もいいとこだ。そんな子供を四年生に入れるなんて、保護者の顔が見てみたいね。

 ま、今日は授業参観なんだけどさ。

 もしかしたら、僕と同じくらい、本当に9歳くらいなのかもしれないけど。


「おーい、席につけー。ん、なんだ。もうみんなと仲良くなったのか? はっは! そりゃ結構だ」


 ゴリマツ先生の登場にともない、不満を言いながら自分の席に戻る生徒たち。クロは質問責めから解放された安堵からか、ホッと息を吐いた。


「親御さんが来るのはだいたい9時ぐらいだから、ちゃっちゃと朝の会始めるぞー。おまえ等は自由な時間がいっぱい欲しいだろ? はい、じゃー出席をとるぞ。有馬美香。」

「はい元気です!」

「よし、稲村正明」

「はい、元気です」

「よし元気だな。次、上段澄海」


「………はい、元気です。」


 体調的には問題なくても、気分はあまりすぐれてない。こんなの、ただの儀式だ。


「岡田クロ。」

「は、‥‥‥はい、元気‥‥‥です」

「んー? 元気なようには聞こえないぞー! 岡田クロ。」


 熱くてウザくてウルサくてはクサい先生。ゴリマツ先生。

 そういう行動が本人にとって、どんだけ迷惑なことか、考えたこと無いだろ


「い、異常は‥‥ありません………!」


 テンパったクロがそんなことを口走る。クラスメイトが吹き出す声が聞こえて来た。


 あーあ。クロなのに顔が真っ赤だよ。どーしてくれんのさ、涙目だよ。


「よーし、じゃあタマ。」


 先生も、生徒たちの反応を判っていながら、それに触れず、タマの点呼をする。


「異常なーし。」


 タマがクロに被せて間延びした声で元気を訴える。

 さすがにゴリマツ先生も目を丸くしたようだ


「はい。じゃあ次、ティモ。」

「あはは! いじょーなしだよ!」


 ティモまでが被せ(おそらく何も考えずに)、続く生徒たちも、異常なしと訴えた。

 集団心理ってやつだね。判っていながらそれに合わせる。


 貴族のパーティーで、言葉が判らなく、文化も違う故に、手を洗う器に入った水を飲んでしまった人がいた。それを見た王妃自ら自分の器に入った水を飲んだという。


 テレビで見たのその話を、僕は思い出していた。


「ありがと、タマちゃん………」

「いーやー。私はなにもしてないよー?」


 失態を失態にさせない。タマは意外と優しい所があるようだ



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