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第15話 一応、僕だって男の子だからね。


「痛ぅ‥‥‥澄海、くん。ドラムさん。‥‥‥ありがと。」


喋れるまでに落ち着いたクロが礼を言うが、時間がない。


 全力で体重を左手首にかけてうずくまるおっちゃんは、人間大のタマを隠せる程のがたいを持っていない。


 だからおそらくタマは猫の姿でおっちゃんの下に隠れている



「‥‥‥。礼はいい。あのゴーストは。」


「‥‥‥平和夫さん、だよ。ここの、元院長さん」


 ということは、今はテリトリーを荒らされて狂ってるキチガイ自縛霊なのかな。


 めんどくさいことになってるなぁ。


「‥‥‥。」


 ママの方を見てみる。


 絶え間なくメスやハサミが飛び交うが、ママは片膝をついてしゃがんだまま微動だにしない。


 右手が地面に貼り付けた護符に触れているから、おそらくママは自身の周囲に結界を張ってポルターガイストを防いでいる。


 クロがいたのはママの近くだったが、結界の範囲外だった。

 ママの結界は物理的にもいろいろ弾く。

 だからおっちゃんは僕の後ろにくるようにクロに指示を飛ばした。


 飛んでくるメスを全てキャッチできなければ、ティモやクロ、ドラムさんにまで当たってしまうためにミスは許されなかったが、なんとかクロ以外のけが人は出さなくて済んだ。



 おっちゃんは―――もうすぐ死んでしまうだろう。


 今首の動脈をやられたのが見えた。


 血が噴水のように吹き出す。


 おっちゃんは死期を悟ったのか、尋常じゃなくらい震えながら上半身だけを起こし、大きな丸まった布を僕に向かって投げた。


『ちっ、死にぞこないが。』


 平和夫が舌打ち混じりに壁から背を浮かせ、平和夫さんの半径5m以内の器具、ガラス片などが宙へ舞い、5m圏内にいるおっちゃんを取り囲んだ


「悪‥‥けど、‥‥‥死ぬ‥‥‥にゃ、‥慣れ‥‥んだよ。‥‥‥ゲホッ、吠え面かきやがれ!」


 吠えるおっちゃんに再びメスが殺到。もはやどちらが背中でどちらが腹かわからないぐらいにいろいろなものが突き刺さっていた。


 中にはガラス片や照明の割れた電球などもおっちゃんに突き刺さっているのが確認できる。



「‥‥‥‥‥。」



 確認するまでもなくおっちゃんは死んだ。



 さらに、ついでとばかりにおっちゃんが投げた布にも器具が飛ぶ。


 その布は無惨にも引き裂かれるが


「もー。いーかげんにしてよね~?」


 その布の中にいたタマが人間大になり、左手でその布を掴みながら広げ、回転して、自分の身には当たらぬように布でメスの軌道を逸らした。


 タマは裸足だったのでガラス片や器具が散らばるこの辺りへの着地は厳しい。


 タマの右腕を掴んで引っ張り、僕の右側にいたティモにぶつけるように投げる。


「タマちゃ----わにゃっ!?」


「お~、ごめんねー、ティモちゃ~ん。あーあ。私の服ー、ボロボロになっちゃったー。」


おっちゃんが投げた布。


それはタマの服だった。


「‥‥‥。」


 ため息を一つ。



 Q.タマの裸を見てどう思った?


 A.蹴っ飛ばしたくなった。



 そういう性癖とかそういうことじゃない。ただただ、面倒事を増やされるのに腹が立った。おっちゃんに。



 タマをこっちに寄越す判断は正しいと思うよ。

 多分僕がおっちゃんでも同じことをするかもしれない。


 でも寄越される側としては面倒事を押しつけられたにすぎない。


(‥‥‥。‥‥‥ちゃんと尻尾は尾てい骨に生えているんだな)


 って僕は一体何を考えているんだ。



「タッ、タマちゃん! なんでそんな恰好してるの!? スッポン‥‥‥!?」



 クロが自分の手で太ももの傷口を押さえ、ドラムさんが慌てて駆け寄り、自分の上着をタマにかける。


 4月だから夜はまだ冷える。

 人型のタマは体毛が髪しかなく、かなり寒そうだ。腰まである長いふわふわの銀髪でも、さすがに4月の寒さに地肌がさらされている面積が広すぎるため、猫時のような役割を果たしてくれそうにない。


 ドラムさんの上着で素肌をすっぽり覆ってからタマは


「あ~‥‥‥。寒いねー。」


 当たり前だ。それよりももう少しくらいおっちゃんを気にかけてあげろよ。

 死んでも守るって言葉を有言実行したんだからさ。



 ドラムさんはすぐにまたクロの足の圧迫に戻る。

 出血はだいぶ収まってきてるみたいだけど、太い血管を傷つけてるかもしれないし、はやく片をつけないと‥‥‥。


 と考えている間も、平和夫は自分に近づけさせないように、執拗にメスを放ってくる。

 実際のメスもあるし、平和夫が具現化させた実態の無いメスも飛んでくる。

 この自縛霊が絶え間なくメスを放ってくるものだから気を抜けない。疲れた。



 ティモが涙目でオロオロしながらポーチからハンカチと包帯を取り出してドラムさんのハンカチと交代し、ハンカチごと包帯を巻こうとするが、うまく行かず、ドラムさんが巻いてあげていた。


「‥‥‥ありがと」


 何度も礼を繰り返すクロ。傷は深いだろうし、戦線復帰は望めないだろう。


 僕はゆっくりと平和夫との距離を詰める。


「岡田‥‥‥死んじゃったの‥‥‥?」


「‥‥‥。たぶん、おっちゃんはもう死んでるよ。」


 僕は飛来物を掴む事を止め、ただ結界を素通りさせながら答えた。

 最初からこうしとけばよかったかな。


 結界を通過したメスはまず先端以外の運動が停止し、通過させることにより他の場所の時間が止まり、先端の運動も停止する。

 結界を通過し終わると、メスは床に落ちた。


 ガラス片など、大きいものは通過出来ないため、さすがに掴んで放り捨てる。


「なんで‥‥‥あんなに血まみれで‥‥‥いろいろなものが刺さって‥‥‥」


「ポルターガイスト、です。」


 そう言ったのは、ティモの肩を借りて立ち上がるクロ。


「ポルター‥‥‥ガイスト?」


「はい‥‥‥。ゴーストが、物にさわったり‥‥‥ゴーストが念力を使ったりして、物がかってに‥‥‥うごくこと、です。修さんを殺したのは、念力の方‥‥‥です。」


 まったく。厄介だよ。本当に。


「まさか、二回も死ぬなんて‥‥‥。生き返るんだよね、岡田‥‥‥」


「‥‥‥それは‥‥‥わからない‥‥‥、です。わたしもティモちゃんも‥‥‥修さんが死ぬところなんか‥‥‥今日、初めて見て‥‥‥うぅ、修さぁん‥‥‥」


 ポロポロと涙を零し、唇を噛むクロ。

 傷の痛みだけのせいではないだろう。


「‥‥‥。」


 ため息を一つ。



「とりあえず、クロちゃん。落ち着きましょう。無理はしないでいいから、アタシの胸で泣きなさいって。」


 おっちゃんの死体を見せないようにドラムさんがクロを胸に抱く。


「グスッ‥‥‥うぅぅ‥‥‥。」


 声を出さないように泣くクロを一瞥し、



「‥‥‥。」


 もう一つため息。


 ママが結界の中から僕を見てニヤリと笑ったのが見えた。


 おっちゃんが死んだのに、本当にいい根性してるよ。あの詐欺師。






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