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第14話 一番弟子かぁ、おっちゃんが一番弟子なんか申し訳ないんだよね。俺霊感少ししかないし。

「カメラさんカメラさん。アタシ、この瞬間をもって、修ちゃんを弟子にするから。アタシの一番弟子をよく映しときな!」


「いやぁお恥ずかしい限り。未熟者ですがよろしくちゃん」


 ペコペコとカメラにむかって頭を下げるおっちゃん。


 やたらとテンションは高いけど、決して自分からはなにも喋らない人だとは思えない。


 というかこの番組、こんなに適当でいいんだろうか。


 編集して、何の問題もないようにすればいいだけの話なんだけど、ママは自然体だし、おっちゃんも素面で行動してるように感じる


 元々裏表がない性格なんだろうけど‥‥‥


 撮影などには向いてなさそうだ。おっちゃんのシーンは大幅にカットされそうな予感。一回死んでるし。


「‥‥‥。」


 ため息を一つ。


「澄海くんっ!」


 そんなため息が聞こえたのか、ティモが僕に話しかけてきた


「‥‥‥。なに。」


[えへへ、なんでもない。いっしょにいこ?]



 否定も肯定もしない。

 僕は歩調を変えず階段を上った。


 ティモはただ隣にいて、ニコニコしている。

 なにが嬉しいのかは判らないが、上機嫌に見える。

 もしかしたらその表情がデフォなのかもしれない。


 横顔だけ見ても、かなり整っているのが判る。


 正直、うらやましかった。


 できうることなら、僕は人間として、普通に生活したかったけど、僕は宇宙人。


 普通は無理だと思っていた。

 でもティモは、自分が人間ではないと判っていながら毎日を楽しそうに過ごしているように見える


 それが、ただただ羨ましい。


「‥‥‥。」


 視線を前に向ける。



 階段を登り切ると、不穏な風が肌を撫でた。実際に風が吹いた訳ではないが。そういう圧迫感が二階全体に広がっていた


「………ッ!」


「ふぁ‥‥‥うぅ‥‥‥。」


 まともに風を受けたティモは、口元を右手で押さえ、左手で僕の手を握った


 振り払おうとしたけど、キツく握りしめられたため、ふりほどけず。


 ティモに視線を向けると気分が悪そうだったため、仕方がないからそのままにした。


 ここは霊の気配が濃厚だ。

 なれない人なら体調を崩しても仕方がない。


「‥‥‥ごめんはっちゃん。肩借りるよ‥‥‥」


「ドム子ぉ、どーしたのぉ?」


「すまないはっちゃん。アタシもだ‥‥‥。なんか気分が優れないよ」


「ヘレンまでぇ。急にわたしぃモテモテだなぁ、あっはっはぁ‥‥‥あれぇ? あたしのカメラ、映んなくなっちゃったぁ。」


「う、うそ‥‥‥。」


「うん。なんかぁ、朝の4時頃にテレビを付けたみたいな感じぃ?」



 砂嵐とは違う、カラフルな放送休止状態。それがハーモニさんのハンディカメラで起こってる。


 二階にいるゴーストの気配だけでカメラが一台壊れたようだ



 僕も頬と背中に冷や汗が伝うのを感じた


「礼子さん‥‥‥この先は‥‥‥」


 おっちゃんも先に進みたくなさそうにママに聞く。


「ああ‥‥‥アタシも行きたくない。でもたしか修ちゃん‥‥‥さっき‥‥‥」


「猫たちを送り込んじゃった‥‥‥」


「怪我だけで済んだらラッキーだと思えよ! 下手したら死んでんだから!!」


「お、押忍!」


 このイヤな気配の中を全力で駆け出したママとおっちゃん。


 その後をカメラさんが追うが、機材が重すぎて三秒で見失ってしまった。



「にいちゃん!!」


 ティモが叫ぶ。 どうやら悪い気分は無事飲み込めたみたいだ。が、


『お前たちは来るな! たぶん死ぬ!』


そのおっちゃんの叫びで、駆け出しそうになったティモはたたらを踏んだ。


しばらく呆然と見送ったスタッフと九州娘一同。

そして、30秒くらいたっただろうか。

唐突に


『っッヅあああぁあああぁぁぁあぁああぁあッ! うでっ! うでがああああああ!』


おっちゃんの絶叫が聞こえてきた。


「‥‥‥走るよ。」


「う、うん!」


 僕はそんなティモの手を引き、九州娘の隣を走り抜ける。


「ちょっとあなたたち! 危ないから戻ってきなさい!」


 ドラムさんが直感的にそんなことを叫ぶ。

 だが、止まらない、止まれない。なぜかって? わからない。怖い。怖い、けど、おっちゃんと、クロやタマが心配だった。




「っ~~~!! もうっ!」


「あ、ドム子!」


 今度はドラムさんが僕たちの後を追う。




 おっちゃんが死んだ穴を回り込んで回避し、先に進む。

 向かう先二階の一番奥。『手術室』だ。


 一階にもあるが、一階と似た作りになっていた。



 ただ、一階と違うところは、生々しい赤黒い血の色で手術室が染まっていた、ということ。



「ッ! クロっ!」


 とっさに呼んだのは、姿が見えたからではない。パパの予知夢でクロが怪我をすると言っていたから、安否の確認をせずとっさに叫んでしまった。


「わ、わたしはだいじょうぶ‥‥‥。だけど‥‥‥」


 良かった。一応無事だったのか‥‥‥


「なっ………!!」


 だけど、なんだこれは。

 僕はここまで異様な光景は見たことがない


 そこには、無数の手術器具が空中に浮き、うずくまるおっちゃんの回りを囲んでいた


 壁や床に張りついた血はおそらくおっちゃんの――ぐにっ


 ぐにっ?


「‥‥‥。‥‥‥?」


 あ、れ? 無意識に一歩だけ下がったらなにか柔らかいものを踏んづけたんだけど‥‥‥。


 しゃがんで確認してみると-----


「‥‥‥手?」


 手が、落ちていた。


 おっちゃんに視線を戻すと‥‥‥


 おっちゃんの左手首から先が存在しなかった


 おっちゃんは全体重を左手首からの出血を抑えるために右手で押さえてうずくまる。

 だけど、それ以外の出血もヒドい。

 背や頬、腕。至る所に錆びたメスやハサミが突き刺さっている


「にいちゃん!! あっ、あぁぁ‥‥‥」


 さらに、空中を漂いながらおっちゃんを囲む無数の手術器具が、一気におっちゃんめがけて―――



 僕は思わず目をそらした。


 平医院には昼間しか来たことがなかったけど、夜の平医院のゴーストはここまで活発化するのか


「うっぐぅうう‥‥‥っ!!」


「しっかりしなさい修ちゃん! 弟子だろアンタ!」


「ッベホッ! 全身にメスが刺さってんだ! 意識保ってるだけ奇跡ですよ!!」


 血を吐きながら叫ぶおっちゃんの全身から吹き出す血により、手術室が真っ赤に塗りつぶされる


 僕の顔にも血が飛んできた。

 本当に奇跡だと思う。あれでまだ生きているのも、ましてや意識があるのも。



「はぁ、はぁ‥‥‥やっと追いついたわ。礼子さんも澄海くんも‥‥‥先に行くなら行くって‥‥‥ひっ―――! お、岡田ーっ! 大丈夫なのアンタ!」


「大丈夫じゃねぇよ!! このままじゃ‥‥‥いや手当しても二分以内に死ぬっつの! クロッ!! まずお前は澄海の後ろまで走れ!!」


 頬に刺さったハサミのせいでしゃべりずらそうだが、それでもおっちゃんはクロに叫んだ


「‥‥‥で、でも!!」


 それでもおっちゃんが心配なのか、クロがおっちゃんに向かってふらふらと歩いていく


「いいから! タマは俺が死んでも守る!! とりあえず生きることを考えろバカチン!!」


 おっちゃんの背中はすでに血の色をしたハリネズミになっている。


 タマがどこにいるのか判らないが、おそらくおっちゃんの下にタマが居る。

 タマを庇ってゴーストの攻撃を全ておっちゃんが受けているんだろう


 クロが涙を堪えてこちらに向かってくる


「ゴーストは!?」


 僕は慌ててクロに問いかける。

 だが、答えを聞く暇すらない。クロの腕を掴んで僕の後ろに引っ張ろうと力を込めるが―――



「あぐぅっ-----っあああぁああ!!!」


「ちっ!」


「あ‥‥‥なっ‥‥‥ねぇちゃ‥‥‥」


 僕が引っ張るより数瞬早く、クロの太ももをメスが通り過ぎ、深く鋭い赤い線が入った。


「ドラムさん、ハンカチ出して!」


 右足に力が入らず、転んでうつ伏せに倒れるクロ。

 僕は素早く両手の人差し指と人差し指。親指と親指をくっつけて大きめの結界を発動。といっても僕の手の大きさはそれ程大きくないため、直径は野球ボール程度しかない。


 結界を太ももの傷口に押し当てる


 傷口の時間を止めたんだ。これで出血だけは抑えられるはず。空気に触れても血が固まるわけじゃないからこれは絶対に治癒にはならない。


 慌ててハンカチを取り出すドラムさんに素早く指示。


「‥‥‥手を離すから、ハンカチをすぐに傷口に当てて圧迫して血を止めて。」


「う、うん!」


 僕が手を離すと、ゴポリ、と音が出そうなほどの血が溢れてきた。


 ドラムさんはクロに体重をかけて、涙を堪えず、しかし泣かずに傷口を圧迫した。


 飛んでくる第二波を、結界で受け止め手をスライド。結界を通り越し、制止したメスを掴み取る。


 僕の結界は弾くことは出来ないが通り抜けることは出来る。


 合計30のメスやハサミを全て結界を通してから掴み取り


 それを全部床に捨て、正面を見据える



「………。」




 手術室の壁に背をもたれる青年のゴーストが、そこにはいた。






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