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前略、お母様へ  作者: 藤里 真朱
ディクスの天罰編
9/10

親愛なる兄貴へ ①

別視点のお話(前回のお話と微妙にリンクです)

少し短め

オレは兄貴との約束を胸に、「ニュラグ邸焼失事件」の捜査隊駐屯地の前に立った。絶対オレらの救世主はオレらの手で救ってみせる。


数ヶ月前までオレらは森の奥で平和に暮らしていた。父親も母親も人狼だけど、オレは先祖帰りらしく見た目は「半獣人」、いや能力的には半獣人以下だ。でも、そんな事は気になんないぐらい、両親に、兄貴にそして周りの人狼たちに可愛がられてきた。ちょっと母親の干渉がうざいななんて思うぐらい、オレは平和に暮らしていたんだ。


その平和が、ニュラグという奴隷商人のせいで壊された。奴の私兵団は数にモノを言わせてオレらの村を襲った。大人も子どもも戦った。でも奴らの数に負けた。その後は絶望しかなかった。見た目が「半獣人」のオレは高く売れるらしく、丁重に扱われた。でも、兄貴や友達は鞭で打たれ、抵抗できないように枷をつけられた。大人の絶対的な力を見せられ、オレたちは希望を持つのを止め、ただ呆然ともうすぐ来るであろう暗い未来を待っていた。でも希望の光が現れた。突然現れた熱くない炎。オレたちを救い出してくれた炎。その中からかすかに匂う暖かい香り。きっとこれは女神、ディクス様の香り。


無事に逃げ出したオレらはある噂を聞いた。あの炎は女神ディクス様の代わりに、ディクス様の娘が起こした炎らしい。しかも王国警備隊がそのディクス様の娘を捕まえようとしているらしい。

そこで、オレらは王国警備隊に見つかる前に、オレらが見つけ王国警備隊の手から救い出す事にした。でも、オレたちの仲間はほとんどがまだ小さく、できる事が少ない。情報収集や人員も王国警備隊には劣る。そこでオレらは、情報収集のため王国警備隊にスパイを送り込む事にしたのだ。


そして、警戒されないだろうと、人に近い容姿を持つオレが、スパイをする事になった。

兄貴との約束を胸に、捜査隊駐屯地の前に立って、もう1時間になる。一歩、踏み出す勇気がない。昨夜、兄貴とあれだけ練習したのに。足がガクガクして動かない。上手くできるのかオレ?バレないのかオレ?虐められちゃうのかオレ?


「あれ〜。どうしたの?迷子君かな?」


後ろから急に金色の髪をした男に話しかけられた。驚いたオレは、昨日兄貴と一緒に覚えた言葉をすっかり忘れ、頭が真っ白になった。でも、とりあえず何か言わないと。


「オレは捜査に協力したいと思ってココに来ました。あの火災の火現場に居てました。現場で、不思議な匂いを嗅いだので、お役に立てないかと思いココに来ました。」


うん、よし。ちょっと練習した言葉とは違うが、意味はだいたい同じ事が言えた。


「本当?凄い助かる!で、君。名前なに?」


名前?そう言えば兄貴が適当に偽名を使えと……でも考えおくの忘れてた!


「わ、忘れました」


しまった、思わず正直に言ってしまった。狼狽するオレをよそに、男はニコリと笑いオレの頭を撫でた。


「そう、じゃあ君の名前はラビ君にしよう」


全身の血が一気に引いた。なんでこの男はオレの本当の名前を知ってるんだ。


「ラ、ラビですか」

「そう、君ってさ、なんか友達ってか上司?の飼ってる犬に似てるから。ラビ君」


犬って言葉にカチンときたけど、今下手に言い返せばオレの方が危ないから黙ってながすことにした。


「じゃあね、君を僕の上司に紹介するよ。あ、僕の名前はジュリアン。これからよろしくね」


ジュリアンはオレの手を取るとズカズカと建物の中に入って行った。一時間も外で迷っていた割に、すんなりと入れて少し肩の力が抜けたのもつかの間、上司の部屋と連れてこられた場所には・・・猛獣が居た。


この猛獣の様な男が、ジュリアンの上司なんだろうか。でも、大きな机とそこに積み上げられている書類はまるで、猛獣を閉じ込める檻みたいだ。ゆっくりとあげた男の顔をみてオレは思わずシッポをたてた。この男只者じゃない!絶対人を100人ぐらい殺してる顔だ!殺される、オレ絶対殺される!


恐怖のあまりジュリアンの後ろに隠れようとしたオレをジュリアンが押し出す。思わずバランスを崩して転けそうになるけど、何とか踏みとどまった。怖くってパニックで、ジュリアンが何か言っているけど頭に入ってこなかった。


しばらくすると、うなる様な声が聞こえた。猛獣がうなったんだ。恐怖のあまり体が硬直する。そんなオレを見て、猛獣がゆっくり立ち上がった。立ち上がり際に、テーブルにあった何かを掴む。凶器だ、凶器を掴んだんだ。そしてゆっくりとゆっくりとオレに近づいてきた。まるで、動けなくなった獲物をゆっくりと追いつめるように。スパイとして潜入したのがバレたんだ。逃げないと殺される。でも、逃げ出したいのに恐怖で足がすくんで動けない。そんな、オレを見ると男はニヤリと笑い舌なめずりをした。オレのからがガチガチと震える。それが気に触ったのか男はオレの頭を押さえつける。(もう駄目だ、オレ、食われる)男はしゃがみ込み手に持った凶器でオレを!!


「兄貴・・・ごめん・・・」


スパイ初日に殺されるなんて間抜けな弟でごめん。森の奥で幸せだったあの時の思い出とが頭を走り、オレは意識を失ったのだった。

最後まで読んでくださってありがとうございました。


若いお馬鹿な子……ってことで一人称をオレにしてみたら。

立派なオレオレ詐欺

オレオレうるさい・・・


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